かごの大錬金術師   作:Menschsein
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第二十三話 嗚呼 また失った哀しみが疼いてく……

「アルベド……。私はお前を……我が子のように愛しているぞ……。もちろん、他のナザリックの者たちも同様にだがな……。『燃え上がる三眼』……つまりスパイがいる……。タブラさんの勘違いであって欲しいと願っていたのだがな……。残念だよ……アルベド」

 

 モモンガは寂しげに、そして悲しげに答えた。実際に、アルベドという我が子のように愛しているアルベドから、明確な意志を持って攻撃をされた。自分が世界級(ワールド)アイテムを装備していなかったら、『傾城傾国』によって精神操作をされていたであろう。

 

「『傾城傾国』が効いていない……。世界級(ワールド)アイテムでなければ、世界級(ワールド)アイテムに対抗できないはずなのに……。アインズ・ウール・ゴウンは、11個しか所持していないはず……」

 

 『傾城傾国』は確かに発動した。だが、モモンガ様は自分だけを愛してくれていない。そして、モモンガ様が装備していた世界級(ワールド)アイテムは、自分の目の前でタブラ・スマラグディナに手渡された。

 

「ま、まさか……」とアルベドは思い当たる。タブラ・スマラグディナの両手で持っている赤い玉。

 

「そのまさかだよ、アルベド。シャルティアには伝えたのだが、お前にはまだ教えていなかったな……。戦いにおいて重要なのは、虚偽の情報をどれだけ相手に上手くつかませるかだ。たとえば、いつも私が肋骨の下に大切そうに装備しているこの赤い玉が、さぞも貴重なアイテムであろうかのようにな。だが……頭の良いお前なら分かるだろ? 唯でさえ貴重な世界級(ワールド)アイテムをいつも装備していたら、奪ってくださいと言っているようなものだぞ? そんなリスクが高いことをするわけないだろう? だが、逆に、この赤い玉が世界級(ワールド)アイテムと誤認させておけば、意図的にこの装備を外して出歩き、敵の襲撃のタイミングを誘導できる。もし、次があるならちゃんと道具上位鑑定(オール・アプレーザル・マジックアイテム)を使って、どれが世界級(ワールド)アイテムであるのかを見ておいたほうがよいぞ? 作戦の実行に大きく係わってくるからな」

 

 期待していた言葉ではない。自分はただ、『アルベド、お前だけを愛している』と言って欲しかった。だが、アルベドは頭を回転させる。

 

「その赤い玉は世界級(ワールド)アイテムではなかった!」とアルベドは目を見開いている。

 

「その通りだ、アルベド。それに私はこれが世界級(ワールド)アイテムだと言った憶えなどないぞ?」

 

「あの……モモンガさん……。申し訳ありませんが、アルベドの初手を防げたというのは嬉しいことですが、私たちが不利な状況は変わっていません。不意打ちを防いでも、こっからアルベドが実力で来られたら私たちでは勝てないです。それに、ぷにっと萌えさんから仕込まれたことを、自慢げに語っている場合ではないですよ」とタブラ・スマラグディナは冷静に突っ込みを入れる。

 

 これは、奇襲を防いだだけ。モモンガには次の行動に移って貰わねばならない。

 

「す、すみません」とモモンガは謝罪する。

 モモンガからしたら、これらは自分の得意分野だ。それを説明するのは非常に気持ちが良い。

 

「そ……その通りです。まだ私が有利です。モモンガ様から世界級(ワールド)アイテムを剥ぎ取ってから、また世界級(ワールド)アイテムを使えば良いのです。状況は何も変わっていません。私に勝てますか? モモンガ様。それに、タブラ・スマラグディナは自分の血を代価に払って魔法を使う。使いすぎると死にますよ?」とアルベドは笑顔を取り戻し、淑女のように言い放つ。

 

「え? 本当ですか?」とモモンガはアルベドの言葉を聞いて驚く。

 

「その通り血が代価です……ですが、モモンガさん! いつもたっちさんが言っていたでしょう? ”アインズ・ウール・ゴウンに敗北はない”のです! さぁ、モモンガさんは早く『山河社稷図』の中へ。アルベドが『傾城傾国』を装備している。アルベドが単独犯であることは確定です。ナザリックの者たちは『山河社稷図』の中で健在なはずです! ナザリック全てでアルベドと戦えば勝算はあります!」

 

 アルベドが単独犯であれば、『山河社稷図』の中にナザリックの者たちは健在。タブラはそう考えていた。モモンガが『山河社稷図』の中に逃げ込み、全員でアルベドを倒す。

 アルベドがモモンガを追って『山河社稷図』の中に行かなかったとしても、『山河社稷図』には必ず脱出方法が設定されているはずだ。それさえ見つければ、絵画の外へと出れる。実は、そちらの方が勝算が高い。なぜなら、ナザリックの玉座の間で戦えば、ナザリックの資金が尽きるまで、守護者たちなどを復活できる。総力戦を展開できる。より勝算が高くなる。

 

「タブラさん……」

 

 モモンガは口を開いた。

 

「それって、タブラさんを見捨てて逃げろってことじゃないですか……。タブラさんは世界級(ワールド)アイテムを持っていないですよね。俺が『山河社稷図』に逃げたら、タブラさんはどうするんですか? 俺だけ逃げるなんて……できるわけないじゃないですか……。せっかく会えたのに……そんなことできるはずないじゃないですか……」

 

「え? モモンガさん?」

 

 アルベドの裏切り。それはタブラの想定内であった。だが、モモンガの反応は、タブラにとって予想外であった。








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