かごの大錬金術師 作:Menschsein
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アルベドが裏切っている……。というか、ここまで状況証拠が揃うと、裏切り者である可能性が非常に高いですね。ラナー・ティエール・シャルドルン・ライル・ヴァイセルフというあの少女も共犯ですね。いえ、むしろ、あのラナーという少女が裏切り者であるとアルベド自身が私やモモンガさんに言うことによって、自らの信頼を得る。スパイがいると密告した相手が、実は本当の裏切り者だったなんて、考えにくいですからね。
それにアルベドが
アルベドが守りに徹して、ウルベルトさんが攻撃に特化。それなら、ぶっちゃけ、たっちさんに余裕で勝てますからねぇ……。ナザリックでアルベドの守りを突き破れるのは、ルベドくらいでしょう。
それにしても、アルベドがワールドチャンピオン級の敵に囲まれて敗北して洗脳された、というのなら分かりますが、そんな連中を相手にしているなら……『山河社稷図』の中に入っていった守護者たちは全滅しているでしょう。
というか、そんな状況なら、はっきり言って、全盛期のアインズ・ウール・ゴウンでも勝てませんよ。『トリニティ』と『2ch連合』を同時に相手にするようなものです。
ですが……小細工が多いように思えます。それは何故なのでしょうか? 正面から仕掛けても勝てる戦力を保有しているはず。
それなのに、どうして新月の夜に現れる私を時間稼ぎの餌のように使っているのか?
実際以上に敵を大きく見せようとしている?
状況的に、アルベドが主犯ですね。これは間違い無いでしょう。
ですが、アルベド……。あなたの目的は一体なんですか?
ナザリックを支配したいのなら、モモンガさんを殺せばすむことでしょう?
守護者統括という地位にあるのだから、モモンガさんを殺したら、ナザリックの他の者達はみんなベジータですよ。『がんばれカカロット! お前がナンバーワンだ』というように、順当に次のリーダーになるのは貴女のはずですよ?
地位が目的でもない。
アルベド……。あなたの目的は一体なんですか? アルベドの目的が不明……。
ただ……状況は最悪ですね。
アルベドが今回の一連の犯人であったとしても……それを止める術が私たちにはない。
実力行使で来られたら、やばいです。名探偵のように、犯人はお前だ! などとやったら、その瞬間、アルベドは襲って来るでしょう。
いや……なぜ、まだ襲って来ていないのか? 逆にいえば、強襲できない理由がある?
「モモンガさん……私達は恐らく戦力的に劣勢です。挽回するには、『山河社稷図』の中に閉じ込められ……いえ……恐らくいまは戦いが終わり、敗北しているであろう守護者達を復活させる必要があります。ユグドラシルのように、それって出来るのですか? シャルティアはどうなったのですか?」
「ユグドラシル金貨を対価にして、復活させました。この辺りはユグドラシルと同じです」
「ということは、私たちも、レベルダウンのペナルティーを払えば、復活できるのですか?」
「いえ……それは恐くて実験していません。他のプレイヤーもまだ発見出来ていなかったので……」
「わ、私で実験しないでくださいよ?」
「当たり前じゃないですか! タブラさんにそんなことをしませんよ……」
「すみません。モモンガさんがそんなことをするような人ではないとは分かっています」
プレイヤーは死亡したら、それで終わり、という可能性がある。逆に言ってしまえば、その可能性を恐れて、アルベドは強襲することができない?
だが、ナザリックの支配を目的としているなら、私とモモンガさんを殺してしまう方が話は早い。特に、私は、新月でないときに殺した方が楽なはずです。ですが、そうはしていない。
う〜ん。アルベドが主犯で、ナザリックの支配が目的であるなら、とっくに私とモモンガさんを殺しているはずです。
殺したくはない? 殺すことができない? フレンドリーファイヤーが解禁されているということなので、物理的には殺せるはず。
では、殺したくない? でも、殺したないなら……支配したい? 支配をしたい? 支配をするとしたら、『傾城傾国』でですね。そして、私を洗脳して支配したい? いや、違いますね。そうであれば、チャンスはありました。モモンガさんを支配したい。
モモンガさんを支配したい。アルベドはそのチャンスをうかがっている。
あぁ……最悪ですね。つまり、アルベドは『傾城傾国』も所持している。そして、目的はモモンガさんですね。モモンガさんは、
アルベド……あなたの目的は不明ですが、あなたのやろうとしていることは分かった気がします。
「やはり……議論をしていても埒があきませんね。私が『山河社稷図』の中へと乗り込むしかないです。一ヶ月は経ってしまっていますが、『山河社稷図』の中で守護者達が戦い、生き残っている可能性に賭ける。それしか希望はありません。また……すでに死亡しているのであれば……復活させましょう」
「玉座の間にあるマスター・ソースを見に行くというのはどうでしょう? それなら、守護者の状況が把握できるはずです。NPCの名前の部分が黒くなっていたら、洗脳されているということでしょう」
「なるほど、ユグドラシルで言えば、敵対行動を取っているということですか。手っ取り早い。ですが、モモンガさん。それが一番リスクのない方法ではあるでしょう。でも、恐らく敵はそれすらも見越している。
「そうですね……。プレイヤーなら、そのことを知っていて当然ですね。誰が洗脳されているか分からないという状況。それに、フレンドリー・ファイヤが解禁されている状況なら、範囲魔法を打ち込むって手も使えない。誰が敵か味方か分からないというのは、やりにくい状況ですし、玉座の間に行くことを妨害してくる可能性は高いでしょうね」
お〜い、モモンガさん……。ギリギリの大ヒントを示したつもりなのですが……。敵がプレイヤーという発想から離れてください……。
「でも、大丈夫ですよ。ほら、懐かしいですね。アインズ・ウール・ゴウンと仲が良かったギルド『燃え上がる三眼』と協力して、『トリニティ』と『2ch連合』と戦ったではありませんか。あの時と状況が似ていますよ。もちろん……最後に勝つのは、アインズ・ウール・ゴウンということも同じですがね」
「アインズ・ウール・ゴウンと仲が良かったギルド『燃え上がる三眼』ですか?」
モモンガさん……気付いてくださいよ? チャンスは一度しかないですよ? ほら、思い出してください。『燃え上がる三眼』は、情報を盗むためにスパイをギルドに潜り込ませるときに、同じような手口を使っていたではありませんか。ギルメンからの信頼を得るために、今回のアルベドと同じように、他のスパイを潜り込ませ、そのスパイを告発することによって信頼を得させた。スパイを告発する者がスパイのはずがない、という単純な人間心理を突いたトリックです。
「何にせよ、私たちがナザリックに乗り込む以外に手はありません。それに、敵が待ち伏せしている可能があるとしたら、玉座の間でしょう。
「もちろんです」とモモンガはリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを取り出した。
「では、行きましょう……。懐かしのナザリックへ」とリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを指に嵌めたタブラ・スマラグディナは言った。