かごの大錬金術師 作:Menschsein
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ナザリック地下大墳墓——と呼ばれる絵画の中。ナザリックの者達が絵画の中に取り込まれて一ヶ月が過ぎようとしていた。
アインズが誰から
そんな中、アルベドからのナザリックへの帰還命令。アルベド曰く、『アインズ様が死亡された、急ぎナザリックへと戻れ』
だが、結果は……。アルベドが山河社稷図を使った。裏切り者を逃がさないためだと言っていた。まさしくその通りだ、と思っていた。
だが、山河社稷図を使ったあと、姿をくらましたのは、アルベドであった。
ナザリックの者達は、事態を悟った。
もはや、裏切り者に対して『様』付けなど必要ない。ナザリックを、そして至高の御方を裏切ったのは、アルベドであった。
しかし……山河社稷図の中でそれを悟っても後の祭りであった。ただ、アウラ様からの情報では、山河社稷図には必ず脱出方法があるらしい。逆に言えば、発動者を倒す以外には、その脱出方法を見つけるしかない。しかし、発動者であるアルベドは、山河社稷図の中にはいない。
脱出方法を探し出すしかなかった。
今日も、
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一般メイドたちも、ナザリックを隈無く掃除しながら、山河社稷図からの脱出方法を探していた。彼女達は普段から、塵一つ逃すことなく掃除をしている。
「シクスス、こっちこっち」と探索を終えて食堂に戻ってきたシクススにフォアイルが声をかけ、自分たちが座っているテーブルへと招く。
「おつかれ〜。何か見つけた?」
「何も見つからない……。今日は、ベッドの下とか本棚の本を全部出して調べてみたけど、何もヒントになりそうなものはなかったよ……。お腹空いたぁ……」と皿に山のように盛られた食事をシクススは食べ始める。
「フィースはどうだった?」
「私も成果らしい成果は見つからなかったよ……。今日は大浴場を徹底的に探してみたのだけど……もう一ヶ月だよ……。アインズ様がもし、一ヶ月も同じ服を着ていらっしゃるかも知れないと思うと……」とフィースは元気なく答える。食事も焼きそば五玉分と、食欲まで無くなっている様子である。
食事の席が、フィースの言葉で暗くなる。だが、食堂にあがった歓声で、暗くなったテーブルの雰囲気は一気に明るくなった。
「シズちゃーん!」
「シズちゃんだ!」
「あっ、エクレアちゃんも一緒だぁ」
シズは、小脇にエクレア・エクレール・エイクレアーを抱えていた。
山河社稷図に閉じ込められてからの一ヶ月。一般メイドたちの間で、エクレア・エクレール・エイクレアーの株は急上昇中である。『いらない鳥』扱いから、一般メイドたちのアイドル的な存在へと変わっていた。
代わりに暴落したのは、裏切り者であるアルベドである。
アルベドは一般メイドたちから、何でも優しく教えてくれる、アインズ様からの信頼も厚い人、という認識で、人気があった。だが、今は、唯の裏切り者という認識しかない。憎悪の対象と言っても差し支えがない。
アルベドが裏切る。そんな馬鹿な話が……と思っていたが、出入りを禁止されていたアルベドの部屋に入り、その裏切りが確定となった。埃にまみれていた栄光あるアインズ・ウール・ゴウンのギルドの紋章の入った旗。それが、床に放り投げられ、埃を被っていた。踏みつけられた跡さえあった。
アルベドが裏切り者であると確定した瞬間であった。
エクレア・エクレール・エイクレアーは、シズに抱えられながら必死に叫ぶ。
「ナザリックを支配するのは、アルベドなどではない!」
その言葉を聞いて、一般メイドが「その通りだぁ! ナザリックの支配者は、アインズ様ただのお一人だ!」と口々に言う。山河社稷図に閉じ込められてから、エクレア・エクレール・エイクレアーはアルベドを非難する言葉を度々口にしていた。
エクレア・エクレール・エイクレアーはもともと、愛らしい姿である。言っていることがまともであれば、人気が出るのは自然なことであった。
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「今日も収穫無しですか……。ですが、何か見逃していることがあるかも知れません。もう一度徹底的に脱出方法を探しましょう。アウラからの情報ですと、この世界は所詮、絵画の中。破壊したとしても、ナザリックを壊したことにはなりません。間違いありませんね? アウラ」とデミウルゴスがアウラに声をかける。
「そうだよ」とアウラは答える。
何か脱出方法の手がかりになるものが発見されていないか、その情報交換のために守護者達は集まっていた。
「第一階層、墓石の下が脱出ルートになっていないかと思って、全部をひっくり返してみたでありんすが、ちがったであんす」
「氷山ノ氷ノ下二脱出ルートガアルノデハナイカト切リ刻ンデミタガナカッタ」
「
それぞれ情報交換をするが、成果といえるような成果はない。
「みなさん……お耳に入れたいことがあります。まずは、霊廟に来て戴けますか?」
口を開いたのはパンドラだった。
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「こ、ここは……それにこれはもしや、ウルベルト様」とデミウルゴスが驚きの声を上げる。
「す、すごい……。ぶくぶく茶釜様? ぶくぶく茶釜様だよ、お姉ちゃん!」
「オォ……
「ペロロンチーノ様……」
涙ぐむ守護者達。パンドラズ・アクターは静かに口を開く。
「ここに来るのが初めての方々も多いでしょう。これら至高の御方がたの像は、モモンガ様がお手自ら造られた像なのです」
「で、ですがパンドラズ・アクター……。この霊廟という場所の名前といい、この像の意味するところは……」とデミウルゴスはその意味を察する。
「いえ……。お亡くなりになったということではありません。彼の地に行かれた至高の御方がたのことを思って、モモンガ様がお造りになったのです。そして、見てください」
「あ、あれはアインズ様の像……。これは一体……」
「山河社稷図に飲み込まれる前のナザリックには、モモンガ様の像はありませんでした。私は知っています。至高の御方がたの像をモモンガ様がどのような気持ちで造っていたのか。私は自分のそのスキルで、至高の御方がたの姿へと変わり、モモンガ様がこれらの
「で、ですがパンドラズ・アクター……。アインズ様の像があるのは一体どういう訳ですか?」
「いつかはご自分もこの地を去られ、彼の地に行かれるおつもりだったのでしょう……ですが! 私は知っています。ご自分の
「じゃあ、どうしてここにアインズ様の像があるのかぁ……も、もしかして……」とマーレが泣き出す。
「ちょっとマレー! 一人で泣かないでよ」とアウラも気丈に振る舞っているが、すでに瞳には涙が溜まっている。
「私は、このモモンガ様の像……。これの破壊……それが、この山河社稷図からの脱出方法なのではないかと考えています」
そうパンドラズ・アクターが口にした瞬間、霊廟が一気に冷気に包まれる。
「ソレハ不敬デハナイノカ?」
コキュートスは、刀の鞘に自らの手の一つをかけていた。
コキュートスが管理を任せれていたリザードマンの村。そこにも、アインズ様の像が建てられていた。リザードマン達は最高の敬意を持ってその像を拝んでいた。だが、万が一にもその像に対して不敬を働く存在がいたら、コキュートスは容赦なく誅殺していただろう。リザードマンの村のアインズ像。それが破壊されたとしたら……怪しきは皆殺しということで、リザードマンを皆殺しにし、そして、自分も腹を切ってその責任を取り、自害していたであろう。
「だからこそ、皆さんにこの場に来て戴いたのですよ。私が一つ確信を持っていえることは、モモンガ様は私たちをお見捨てになったりはしないということです。この霊廟にモモンガ様の
「で、ですが、パンドラ……。モモンガ様の像を破壊するのはちょっとまずいであんす」
「私も賛成できませんね」とデミウルゴスは言う。
「ぼ、僕もそんなことしちゃだめだと思う」
口々に、モモンガの
「もしも、このアインズ様の像を破壊して何も起きなかった場合、私を殺してくださっても構いません。忠義を疑われても仕方がありません。ですが……アインズ様は、常々、自分で考えることの大事さを教えてくださいました。
パンドラズ・アクターは、霊廟のモモンガの像に向かって、拳を向けた。