子宮内膜症「静かな大流行」 母娘の啓蒙活動が国を動かすまで 豪

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Image caption オーストラリアでの子宮内膜症の認知向上に貢献したリズリー・フリードマンさん(左)と娘のシルビアさん

オーストラリアでこのほど、子宮内膜症に関する初の「国家アクションプラン」が施行された。

実現の背景には多くのロビー活動があったが、特に、ある母親と娘の成功が広範囲の対話に火をつけた。シドニーのギャリー・ナンが取材した。

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シルビア・フリードマンさんは今年初め、見知らぬ女性からのメッセージを受け取った。そこに書かれていた内容は「おかしいけど素敵」だったとシルビアさんは語った。

その女性は、シルビアさんのロビー活動がなければ妊娠することはなかったとして、娘にシルビアと名付けることを決めたという。

シルビアさんは子宮内膜症に苦しんでいる。子宮内膜症の原因は不明で、治療法は確立されていないが、深刻な子宮の痛みを引き起こしたり不妊の原因となったりする可能性がある。

2013年、シルビアさんは卒業論文でメディアがどれだけ子宮内膜症を取り上げているかを書くことにし、同じく子宮内膜症を患っていた大学の助講師が指導を名乗り出た。

しかしインターネット検索では、オーストラリアの大手メディアが過去10年にこの病気を取り上げた回数はゼロだった。助講師は、文献レビューができないという理由で指導を取りやめた。

10年にわたって子宮内膜症による混乱や体力を奪う痛み、講義の欠席、失職を経験し、数え切れない時間を湯たんぽを抱えてソファに横たわり、別の体に生まれたかったと願っていたシルビアさんにとって、これは新しい打撃だった。

医薬品大手へのロビー活動

現在、27歳になったシルビアさんは良い日々を過ごしている。シドニーの自宅で母親のリズリーさんと共に、椅子にまっすぐ座っていられる。

かつてシルビアさんは子宮内膜症のせいで座ることも、歩くことも、ジーンズを履くこともままならなかった。現在は効果的な切除手術、日々の自己管理、そして子宮内膜症治療薬「ビサンヌ」のおかげで、体調が良くなったという。

ビサンヌがオーストラリア全土で手に入るようになったのは、リズリーさんとシルビアさんが医薬品大手バイエルに働きかけ、販売を勝ち取ったからだ。

Syl Freedman gives a thumbs-up gesture while seated in front of a computer, saying: "National Action Plan for Endometriosis" Image copyright Syl Freedman
Image caption シルビアさんは現在、オーストラリアの子宮内膜症国家アクションプラン実行委員会に所属する

リズリーさんは、ビサンヌが海外で子宮内膜症に関連した痛みの治療に効果をあげていることを発見したが、販売元のバイエルはオーストラリアとニュージーランドでは販売しないと言っていた。

「マーケティング担当者に、ここにビサンヌの需要があると証明しなければならないと言われた」とリズリーさんは語った。

リズリーさんは友人に電子メールを送り始めたが、娘のシルビアさんはもっと早い方法があるはずだと考えた。シルビアさんは署名活動サイト「Change.org」で自身の体験を広め、バイエルに働きかけるための署名を呼びかけた。

最終的に集まった署名は7万4064件。ビサンヌは全ての子宮内膜症患者に有効ではないが、リズリーさんとシルビアさんは喜んだ。リズリーさんはインターネット上の支持者に「私たちは一緒に、世界最大の医薬品会社の考えを変えさせた」と書いた。

その後2人は、子宮内膜症に関する啓蒙と根拠ある情報の提供を行う、この病気に苦しむオーストラリアの女性70万人を代表する非営利団体「エンド・アクティブ」を創設した。

2015年には、同国で初となる患者主体の子宮内膜症カンファレンスを主催した。リズリーさんは「女性たちは扉を入る前にすでに涙を流し、やっと真剣に受け止められたことに安心していた」と話した。

「多くの女性たちが信じてもらえなかったり、痛みを伴う生理が普通のものだと言われたりしてきた」

2人の活動を含むさまざまな人々の働きが、7月に始まった、オーストラリアでは初となる子宮内膜症に関する国家アクションプランにつながった。

オーストラリア子宮痛基金の会長を務める婦人科医のスーザン・エバンズ医師は、「(子宮内膜症は)静かな流行病で、世間の冷たい視線や誤解、女性が抱える深刻な痛みの重要性を簡単に無視する社会の風潮によって隠されてきた」と説明した。

「シルビアさんとリズリーさんは痛みを抱える女性の話を、オーストラリア国民が理解し身近に感じられる方法で示した。その功績は長い間をかけて(子宮内膜症の)症状を劇的に浮き彫りにした女性たち、ロビイストたち、消費者たちの業績の上に成り立っている」

「奇妙でいつおきるか分からない症状」

女性の10人に1人が子宮内膜症を抱えていると推計されている。子宮内膜に似た組織が、子宮以外の場所(生殖器から脳まで)にできる病気で、時に他の臓器と癒着(ゆちゃく)し、耐え切れない痛みを引き起こす。

診断までには通常、7~12年かかる。症状はさまざまだが、深刻になる可能性もある。多くの患者が激しい子宮の痛みを訴えるほか、30%が不妊を、66%が性交痛を経験する。

シルビアさんの場合、職場に出社してすぐに嘔吐(おうと)するといったことがあった。定期的にだるさに襲われ、2回にわたる手術からの回復に何カ月もかかった。

「子宮内膜症の症状はとても奇妙で、いつ起きるか分からない。頭がおかしくなりそうな気がする」とシルビアさんは語った。「今でも、私が仮病を使っていると疑われているのではと不安になる」。

問題は、子宮内膜症が目に見えない病気だということだ。

「先日、私が結膜炎になったとき、みんなが『かわいそうに』と言ってくれた。でも、こんなの『何でもない!』と思った。子宮内膜症もこれくらい分かりやすければよかったのに」

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Image caption シルビアさんは、患者だけでなく、医師にも再教育が必要だと語った

子宮内膜症をめぐり、女性は診断や治療の際にこうした困難に直面する。オーストラリアのグレッグ・ハント保健相は昨年12月、患者が適切な医療的な助言と治療を受けるために直面する苦しみや問題を認識し、公に謝罪した。

「謝罪を聞いていてとても感動した」とシルビアさんは語った。

ハント保健相は先に、子宮内膜症国家アクションプランに470万豪ドル(約3億8200万円)を振り向けることを決定し、シルビアさんは現在、実行委員会を指揮している。

最初の会議では多くの行動提案が示される予定だが、シルビアさんのリストでは、この病気にまつわる神話を捨て去ることが冒頭に掲げられている。

「私も多くの女性たちのように、妊娠することで痛みが和らぐと医師に言われた。そのとき私は21歳で、苦痛に悩まされ、パートナーがいなかった。私はゲイの親友に、一緒に子どもを作ってくれないかと頼んだ。私の母は、友人の息子に尋ねてみようと考えていた。私が会ったこともない人に。それくらい、私たちは切羽詰まっていた」とシルビアさんは話した。

「今では、妊娠が子宮内膜症の治療法ではないと知っている。医師も患者も再教育する必要がある」

エバンズ医師も、「世界中で、子宮内膜症や子宮の痛みは見過ごされ、調査されず、管理もされず、支援を受けられない。この分野において最も満たされていない需要で、変化はゆっくりだ」と語った。

(英語記事 Elevating 'a silent epidemic' in Australia

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