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中日春秋(朝刊コラム)

中日春秋

 授業参観に来た母が怖い顔をしている。算数なのに、机の上に社会のノートが出ていたからだ。格好だけはつけようと、先生に指されないことを祈りながら手を挙げる。指名を受けず露骨にほっとしていたら、母の口がぱくぱく動いた。おそらく「ばか」

▼そういうことあったよね、その気持ち分かると思わせる逸話の数々に、心が和む。漫画『ちびまる子ちゃん』は子どもたちを楽しませ、さらに大人を懐かしさで包んできた

▼小学生のまる子はものぐさで調子に乗りやすい。半面、優しくて好奇心旺盛だ。打算が働くが、やはり幼いところは幼い。きらきらした少女漫画の世界で、さえないけれど、他人とは思えない性格の女の子が主人公になった

▼能天気にしかみえない父親や孫に甘すぎる祖父、少しずつ癖のある友人たちもいる。まる子と登場人物への共感は単行本の発行累計三千万部以上などという国民的作品になった理由の一つだろう

▼作者でまる子のモデルのさくらももこさんの訃報が伝えられた。五十三歳はあまりに早く、別れが悲しい

▼「本当は漫画家になりたいんだ」。まる子が告白する場面がある。夢がかなうだけではない。大人も子どもも、君のおかげで、たっぷりと楽しめるようになる。世代を超えて同じ気持ちにともに浸れる。ありがとう。まる子の笑顔を見ながら、心の中でそんな声をかけたくなる。

 

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