かごの大錬金術師   作:Menschsein
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第十四話 I know the border it should be wrecked, GO!!

 ナザリックの中に裏切り者がいる。

 

 その言葉を受けて一瞬動揺が走る。

 

「一体誰が?」と顔を見合わせる……。

 

 だが、その動揺は直ぐに治まった。

 最初に動いたのは、コキュートスであった。自らが持っていた世界級(ワールド)アイテム『幾億の刃』を、アルベドに渡した。

 

 武人である彼らしい。

 議論など最早不要、言葉も不要。己の潔白を示したいのであれば、行動で示せ、ということなのであろう。

 

 デミウルゴスは『ヒュギエイアの杯』を、アウラは『山河社稷図』を、マーレは『強欲と無欲』をと、それぞれ空白の玉座の横に立っているアルベドへと進み出て渡していく。

 

「これ以外にも、世界級(ワールド)アイテムの中でも特に凶悪と呼ばれる『二十』がいくつかあるはずなのだけど……。パンドラズ・アクター。それらが宝物殿から持ち出された形跡は?」

 

 パンドラズ・アクターはゆっくりと首を振る。

 

「ありがとう。そうよね。あなたを創造したのは、他ならぬアインズ様。あなたが裏切り者であると私は考えていないわ」とアルベドは慈愛に満ちた表情で言った。

 

 そして、言葉を続ける。

 

「裏切り者が逃げられないように、まずは、この『山河社稷図』を使うわ」

 

 アルベドは巻物を広げ、その能力を発動させる。アルベドが選択した特定異空間は——ナザリック地下大墳墓——

 

 現実のナザリック地下大墳墓は異界に取り込まれ、絵画の世界と現実の世界が交換される。ナザリック地下大墳墓にいた生物無生物が絵画の中へと取り込まれる。

 

 そして……発動者であるアルベドは強制的に取り込まれる……はずであったが、アルベドが取り込まれず、相変わらず玉座の横に立ったままであった。他の者達の姿は……ナザリックにいたアルベド以外の者達はみな、絵画の中へと取り込まれて、ナザリックを静寂が包んでいる。

 

「やった! 私は賭けに勝った!」とアルベドは思わずガッツポーズをした。

 

 発動者であるアルベドが絵画の中へと取り込まれなかった理由。それは、アルベドが『真なる無(ギンヌンガガプ)』という世界級(ワールド)アイテムを所持しているからだ。

 

 世界級(ワールド)アイテムに対抗できるのは、世界級(ワールド)アイテムだけ。

 通常、世界級(ワールド)アイテムを持つ者に対して世界級(ワールド)アイテムは効果を発揮しないが、受け入れるのであればそれは別だ。アルベドが知る由もないのだが、これは運営のパッチの修正のお陰である。

 

 だが、ユグドラシルの運営は、一つのことを見逃していた。

 

 それは、世界級(ワールド)アイテムを同時に二個所持する存在が現れる可能性を考慮していなかったということである。世界級(ワールド)アイテムは、非常に希少だ。世界級(ワールド)アイテムを11個も一つのギルドで所持しているアインズ・ウール・ゴウンが異常なのである。その証拠に、アインズ・ウール・ゴウンに続く保有数は、3つなのだ。

 ましてや、同じプレイヤーが二個同時に所持するなどということは運営の想定を越えていた。

 

 また、プレイヤーやギルド側も、同時に二個の世界級(ワールド)アイテムを奪われる可能性を考えると、同時に二個所持するなどということはリスクが高すぎてそれを避けていた。また、1個でも凶悪な能力を持っている世界級(ワールド)アイテムを二個所持する必要性もあまり無かった。

 

 『山河社稷図』の発動者として取り込まれるのを、アルベドは『真なる無(ギンヌンガガプ)』によって対抗し、無効化した。

 

 アインズ・ウール・ゴウンのメンバー達ですら考えつかなかった『山河社稷図』の使用法である。そもそも、そんな使い方をしたのでは、相手を閉じ込める意味が無い。

 『山河社稷図』は、閉じ込めて、そして相手を倒すことに意味がある。敵の援軍を呼ばせない、強いプレイヤー1人を多勢で攻撃する、自分たちの有利なフィールドで戦う、逃がさない、など有利な条件で戦える場を用意するのが、『山河社稷図』の一般的な使い方である。

 

 戦わないのであれば、『山河社稷図』は足止めの効果しか発生しない。いつかは、脱出方法を探し当てられ、『山河社稷図』の所有権が移ってしまう。

 

 世界級(ワールド)アイテムを相手に渡すような愚かな行為だ。

 

 だが、アルベドは笑っている。極論を言ってしまえば、『山河社稷図』などどうでも良かった。世界級(ワールド)アイテムもどうでも良かった。ナザリックなどどうでも良かった。ただ、モモンガがいればそれで良かった。

 

 それに、これは時間稼ぎではない。ナザリック地下大墳墓の絵画の中に閉じ込められた彼等には、恐らくその脱出方法を実行するのは不可能である。脱出条件は、特定オブジェクトの破壊。だが、彼等はそれを破壊することなどできない。彼等の忠義故に……。

 

「ごめんなさいね……。恨みはないのだけど、だって、モモンガ様はナザリックの皆を愛しているって言うのよ? 愛されるのって、私だけであるべきでしょ? 愛を独占する障害があるなら(I know the border)それは破壊されるべきなのよ(it should be wrecked)」と、静寂のナザリックでアルベドは一人呟く。

 

「さぁ、この事態をアインズ様に報告をしないと……。あとは……モモンガ様の世界級(ワールド)アイテムね……くふぅ〜」








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