かごの大錬金術師   作:Menschsein
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第十一話 I'm gonna risk it

 スレイン法国に、その日、天使が降り立った。

 六大神を祭る神殿。その門の前に、優雅に舞い降りる。

 漆黒の二枚の羽。

 人間を裁き、断罪するかのようなバルディッシュを持つ神の使い。

 

 スレイン法国の神官達は、ついに、六大神の使いが現れたと歓喜をした。

 窮地に陥った法国を救い出してくれるという神の御使い。

 

 地上へと舞い降りた天使に、神官達は祈りを捧げた。

 六大神の栄光を賛美した。

 

 天使は慈愛の女神のように柔やかに微笑む。

 バルディッシュを紅茶のカップを持ち上げる貴族の如く洗練された所作で空高く掲げる。

 

 そして……神官達の首が飛んだ。

 

 スレイン法国に、その日、降り立った存在は……悪魔であった。アルベドであった。

 

 神官達の反応は実にさまざまであった。

 

 それが六大神の御心であると、”死”という究極の慈悲を請い願う者。

 

 逃げ惑い、そして逃げること叶わず両断される者。

 

 神官達の反応は実にさまざまであった。

 だが、共通していることは、どの神官も死が与えられたということであろう。

 

「この神殿が一番大きな神殿ね。警備も厳重。隠されているとしたら、ここね」とアルベドは神殿の中へと歩みを進めた。

 

 アルベドが進むと、神殿の壁が、敷かれていた赤い絨毯が、そして天井が、紅く塗り替えられていく。

 

「そこまでだ……六大神様に仇なす悪魔よ」と、火の神官長、ベレニス・ナグア・サンティニがアルベドの前に立ちふさがる。

 それ傍らには、水、風、土、光、闇の神官長もいる。

 漆黒聖典が竜王国に救援に行っている現在のスレイン法国の最高戦力である。最奥部で神の装備を守る”絶死絶命”を除けばであるが……。

 

「この場所の責任者の方たちかしら? 私は傾城傾国(ケイ・セケ・コゥク)を取りに来たのだけど。どこにあるのかしら?」

 

「そんなものは知らん。それを探しに来たというなら、この国を探しても見つかるまい。無駄骨じゃ。どこから来たかは知らぬが、早々に立ち去れ」

 神官長達には分かっていた。この存在には、神官長全員でかかったとしても、勝てないと。 

 

 

「本当かしら? リ・エスティーゼ王国で重傷を負った老婆。それも、旗服(チャイナ・ドレス)を着た老婆。そして柩のようなものを2台ほど運んでいる一行。その足跡を辿ると、この都市に行き着くのだけど?」

 

「……知らん」

 

 隠密行動を主とする漆黒聖典。だが、任務中の不測の遭遇。隊員2名が死亡し、カレイも瀕死の重傷。隊長が隠密行動を断念し、町々で宿を取りながらこの神都へ帰還した。馬車などを使っても移動をした。

 結局助からなかったが、カレイも助かる可能性はあった。

 不測の事態に加えて、至急の事態。

 隊長の判断は適切であった。隠密行動を捨て、多少人目についたとしてでも、カレイの治療のために急ぎ神都へ帰還する。それに、傾城傾国(ケイ・セケ・コゥク)により洗脳に成功。追撃も追っ手もいなかった。

 

 隊長の判断は間違ってはいない。不幸なのは、その足取りを辿ってこの神都までやってきた存在がいるということ。

 

「そう……。それなら、あなたに慈悲を与えましょう……」

 

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 隠された場所。神都の最奥部。六神の装備を安置する聖なる場所。

 神都が、この聖なる安置所のために建造されたと言っても過言ではない場所。人類が魔物や亜人種に対抗するための”力”が眠る場所。

 

「あなたは私に敗北を教えてくれるの?」と、オッド・アイの少女が突然の来訪者に尋ねる。

 

 人類の最高戦力。”絶死絶命”であった。つまらなそうに両手ではルビクキューをカチリ、カチリと動かしている。

 

「下等生物に教えるなんて、無駄なことはしないわ……。でも、あなたは……色々な血が混じっているわね。アウラやマーレみたいな瞳。ダークエルフ……ではないようね。ただのエルフの血が混じった人間かしら? でも……少しだけセバスと同じ匂いもするわね」

 

「チッ」と舌打ちをし、「私は人類よ」とだけ答えた。

 

「どうでも良いわ、そんなこと。それよりも、その扉の先に行きたいのだけれど、通してくれないかしら?」

  ”絶死絶命”が寄りかかっている扉。その奥に、傾城傾国(ケイ・セケ・コゥク)が保管されていた。

 

 アルベドは分かっていた。この少女は強い。一対一という状況なら、デミウルゴスやアウラよりも強い。確実安全に倒すなら、自分と……シャルティアかコキュートス、セバスがいて欲しい。

 

 けれど……すべては私たち二人のために(I'm gonna risk it )私はリスクを取る(all what's for two of us)

 

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 アルベドがスレイン法国の神都に舞い降りた同刻。アインズは、ラナーから驚くべき伝言(メッセージ)を受け取っていた。

 

「偉大なる魔導王アインズ・ウール・ゴウン様。突然、伝言(メッセージ)をお送りする、あなたの忠実な配下である私をお許しください」

 

「ラナー・ティエール・シャルドルン・ライル・ヴァイセルフであったな。アルベドやデミウルゴスからお前の働きを聞いている。そのうち、挨拶に行こうと思っていたが、いろいろ立て込んでていてな。すまぬな」とアインズは、謝罪をしつつも、それがさぞかし当然であるような口調でラナーに返答をする。

 新たにナザリックに仕えることになったラナー。アルベドやデミウルゴスからのたっての願いで加入を許した。

 そのうち、ラナーに挨拶に行こうとは思っていたが、後回しとなっていた。

 新入社員にいわば社長である自分が、自ら挨拶に出向く。期待しているぞ、と声をかける。新入社員のモチベーションを上げるには有効な一手であるということは分かっていた。ただ、デミウルゴスが、ラナーは自分に匹敵する知恵者だと評していたことがアインズは非常に気になっていた。デミウルゴスは、創造者に対しての絶対の忠誠を持っている。好意的に自分の意見を狂信的に聞き入れる。

 

 だが、ラナーはどうか? デミウルゴス程の知恵者であれば、自分が何も考えていないと見抜くかも知れない。

 

 そう考えると、実際に会うことが躊躇われた。

 

「至高の御方がたの一人である、タブラ・スマラグディナ様を発見しました」

 

「えぇ? ……ゴホン。それは誠か?」

 

「アルベド様にもご確認を戴きましたので間違いないかと」

 

「それで? どこにいるのだ?」

 

「私の目の前でございます。王都リ・エスティーゼでございます」

 

「す、すぐにそちらに行く」

 

「畏まりました」

 

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 カシェバの前に突然現れた骸骨(アンデッド)。カシェバは自室で待機しているようにラナーから言われ、自室で待機していた。

 

 そんなとき、突然現れた骸骨(アンデッド)

 

「た、タブラさん。モモンガです。お久しぶりです」

 

「は、はい?」

 

 カシェバは恐怖のあまり、部屋の隅で震え上がる。伝説の魔物であるリッチだ。自分はこのまま殺されるのではないかと思ったからだ。そして、恐怖のあまり気を失ってしまった。

 

「ん? ラナー。これはどういうことだ? それに、アルベドはいないのか?」とモモンガはタブラ・スマラグディナだと紹介された男が、脅えているのを見て、ラナーに尋ねる。

 

「アルベド様は、タブラ・スマラグディナ様のために、法国へと行かれました……」

 

「何? そんな命令は出していないが?」

 

 アルベドにしては珍しい。報・連・相(ホウレンソウ)をせずに行動するとは、アルベドらしくない。

 

「も、申し訳ございません。お止めすることもできず……ただ、『私は、創造主であるタブラ・スマラグディナ様をお助けするのだ』と言って……法国に向かわれてしまい……」

 

 脅えるラナーを見て、アインズは少しだけ冷静になった。

 

 人間であるラナーが、アルベドを制止することなど不可能であろう。それに、パンドラが、自分を、至高の存在の一人であるということ以外に、自分の創造主であるという意識を持って接していることにアインズは気付いていた。

 アルベドを創ったのはタブラ・スマラグディナに他ならない。自分の創造主と出会い、冷静ではいられなかったのであろう。

 

「それで、どういう状況なのだ?」

 

「この男、カシェバは……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、短い時間、タブラ・スマラグディナ様となるようなのです。そして、タブラ・スマラグディナ様はモモンガ様に会いたいと……」

 

 タブラさんが俺に会いたいと……。俺も会いたかったですよ、タブラさん……。俺にとっては掛け替えのない仲閒ですからね。

 

「おそらく、一ヶ月以内には、どこかのタイミングでタブラ・スマラグディナ様は記憶を戻されると思います。至高の方であるアインズ様に申し上げるのは恐縮ですが……この孤児院にご滞在されますか? いつでもタブラ・スマラグディナ様がご記憶を戻されても直ぐにお会いすることができます。至高の御方が滞在されるには貧相な場所ではございますが……」

 

「いや……。タブラさんの身の安全が最優先だ。ナザリックへと連れて帰るとしよう」と、転位のスクロールをアインズは取り出す。

 

「左様でございますか……。ただ……」とラナーは言いにくそうである。

 

「ただ……? どうした? 何かあるのか?」 

 

「もしかしたら、この場所が重要であるのかも知れないとアルベド様が申しておりました。不確定な情報でありますが……」

 

 なるほど。確かに、DMMO―RPG『ユグドラシル』には、特定の場所、特定の時間でしか発生しないイベントなどが多くあった。中には、ログイン時間が関係してくるものもある。最たるものが、嫉妬のマスクであろう。クリスマスイヴの19時〜22時の間に2時間以上ユグドラシルに滞在していることがそのアイテムの取得条件となる。いや、強制的に配布されるのではあるが……。

 この場所が、タブラさんの出現条件の可能性も十分にあり得る……。

 

「前回は、どこの場所でタブラさんは現れたのだ?」

 

「まさしくこの部屋です」

 

 安易にナザリックに移動して、出現条件を満たさなくなってしまっては意味が無い。

 

「そうか……。では、タブラさんが現れるまで、私も待つとしよう。世話になるぞ、ラナー」

 

「お言葉のままに」

 

 

 








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