かごの大錬金術師   作:Menschsein
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第十話  S.S.S ~Shining, Shimmering, Splendid~

<ドワーフ王国>

 

「アインズ様。何処に転移門を開けばよいでありんすか?」

 

 アインズはその言葉にハッとさせられる。肝心の、ドワーフの工匠たちを引き抜いたは良いが、どこで生活させ、研究させるかを全く考えていなかった。ナザリック地下第六層のジャングルあたりか? いや……だが、あそこは人間たちが生活している。それに、材料としてジャングルの木を切られてしまうとトレントやドライアード達と争いが生じるかもしれないぞ……。それに、製鉄などをあの地下でやって、その煙灰がジャングルに住む他の存在の健康被害を与えかねない……。

 

「しゃ、シャルティアよ。クアゴアを従えたのは見事な働きだ。だが、私は最初に言ったはずだぞ? 最大の理由は、お前に経験を積んでもらうことだと。ルーン工匠達を魔導国に迎える。では、どこに彼等を住まわせたらもっとも利があるのだ? まだ、お前の任務は終わっていない。このルーン工匠を送り届けるまでがお前の任務だ」

 

 遠足は家に帰るまでが遠足だ、というような屁理屈を言っていることはアインズ自身自覚している。

 

「申し訳ありません。そこまで考えが至っておりませんであんす」とシャルティアは悔しそうに口を紡ぐ。

 

 あ、不味い。折角、自信を取り戻したシャルティアなのに、ここでまた自信を失われては困る。それに、ルーン工匠のその後のことを考えていなかったのは自分も同じなのだ。

 さらに悪いことは、式典も終えて、国に残るドワーフたちは手を振って別れを惜しんでいる。時間がない……。

 

「アウラはどう思う?」

 

「えっと……。ナザリックは至高の御方がたが、食料などのバランスを計算されています。基本、『自給自足を即座に出来る者』ではないドワーフはナザリックの中では生活するのが難しいと思います」

 

「そ、その通りだ。では、エ・ランテルで生活させるのはどう思うのだ?」

 

「アインズ様がそう判断されたのでしたら、それが最善の選択であんす」

 

「いやいや……そうじゃない。何か問題などはないのか、ということを聞いているのだ」

 

「もう、シャルティア! たとえば、エ・ランテルに住んでいるのは人間でしょ! 突然、ドワーフが住み始めたらエ・ランテルの住人はどう思うのか? というようなことをアインズ様は聞いているの! ちょっとは自分で考えられるようになったと思ったら、これなんだから!」と痺れを切らしたアウラが言う。

 

 あっ、確かに、いきなりドワーフが住み始めたらエ・ランテルは大混乱に陥るだろう。エ・ランテルという選択肢はないな、とアインズも思う。

 

「アウラの言う通りだな。エ・ランテルも具合が悪い。では、何処が最適だろうな?」

 

「リザードマンと一緒に暮らすということでありんすか?」

 

 うん、それが無難だろうとアインズも思う。ゼンベルというリザードマンとドワーフを橋渡ししてくれる存在もいる。それに、リザードマンもドワーフも酒が好きという共通点がある。酒は関係構築の円滑油だ。上手くやっていけるだろう——

 

「あぁ、もう! アインズ様がご計画されている『楽園計画』のことを忘れたの? 選択肢として、カルネ村しかないじゃない。ゴブリンに加え、オークも共存しているカルネ村! そこにドワーフも住むってこと!」

 

 『楽園計画』とはなんの話だ? そんなことを計画した覚えはないぞ? とアインズは思いながらも、カルネ村なら大丈夫だろうと思う。ゴブリンやオークと共存できている村だ。それに、ポーションの研究もさせている。ルーンの研究もそこで行えば良い。アインズ・ウール・ゴウンの一大研究地域をカルネ村に構築する。新しい技術の研究を同じ場所で行えば、予想もしない連鎖反応が起きるかもしれない。よし、カルネ村にしよう……。

 

「アウラよ……。先に答えを言ってしまっては、シャルティアの勉強にならないではないか?」

 

「も、もうしわけありません」とアウラは、尖った両耳をくにゃっとさせる。

 

「いや……良いのだ。シャルティア、聞いての通りだ! カルネ村へと転移門を開くのだ!」

 

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「将軍閣下! アインズ魔導王陛下がおいでになりました!」

 

 その知らせを受けたエンリは驚く。いつも、前触れ——というにはあまりに一方的だが、ルプスレギナさんが事前にアインズ魔導王陛下が来ることを教えてくれていた。そして、その知らせを受けたルプスレギナも突如自分の前に姿を現し、そしてルプスレギナは両肩をあげる。

 ルプスレギナさんのその様子だと、本当に知らなかったようだ。というか、いつから自分の傍にいたのであろう? もしかして、先ほど納屋でンフィーレアとキスをしていたのも見ていたのではないか? だが、そんなことを追求している場合ではない。いまは、カルネ村の大恩人であるアインズ様の歓迎を優先すべきだと、村長としてエンリは判断する。

 

「と、とにかく歓迎の準備を!」とゴブリン達に指示をしながら、村の広場へと向かう。

 

 村の広場へと到着したエンリを驚かせたのが、アインズ様の背後にいる存在だ。ゴブリンと背格好は似ているが、明らかにゴブリンではない。

 

「ようこそ、アインズ魔導王陛下、ようこそカルネ村へ」と村長としてエンリは挨拶をする。

 

「突然の来訪すまない。単刀直入に言おう。このドワーフたちをこのカルネ村に移住させたいのだが、良いだろうか? 鍛冶などが得意な連中なのだが……」

 

 なぜ申し訳なさそうに小声でアインズ魔導王陛下が話しているのかエンリには分からないが、大恩あるアインズ魔導王陛下の申し出を断ることなどできない。それに、村で鍛冶仕事ができるゴブリンは、ゴブリン軍団の武器や防具の手入れに加え、農具の手入れや新しい農具の制作などで大忙しでいつも疲労困憊であったのをエンリは知っていた。むしろ、いつ、そのゴブリンさんが倒れてしまうのではないかと危惧していたところだ。

 

「喜んで。村で鍛冶師が不足していたところです。お心遣い感謝致します。カルネ村の村長として、皆様を歓迎致します」とエンリは答える。そしてエンリはさらにアインズ魔導王陛下に対する尊敬の念がさらに増大していく。

 ゴブリン達の装備品を提供してくれたのもアインズ魔導王陛下だ。そして、そのメンテナンスが必要なこともアインズ魔導王陛下は百も承知の上だったのだろう。手入れをしなければいかに優れた武器とはいえ、いつかはなまくらとなる。さらにゴブリンの数も増えた。手入れをしなければならない武器や防具の量も格段に増えた。また、農地の面積も増えたため、農具の消耗も大きい。

 本来であれば、村長である自分が、その助力をアインズ魔導王陛下に請わねばならなかった。しかし、これ以上は頼ることができないという自分の遠慮を見越して、アインズ魔導王陛下様は鍛冶師の集団を連れてきて下さった。

 アインズ魔導王陛下の度量の大きさに涙が出そうになる。いつも、困難に直面したときは、アインズ魔導王陛下が直接、または、ルプスレギナさんを通していつも助けて下さる。

 

「と、いうわけだ。このカルネ村の村長であるエンリ・エモットの指示には従うように」とアインズは口を開く。

 

「アインズ魔導王陛下。本当に感謝するぜ。このような環境、本当に最高の場所を用意してくれていたのだな」とゴンドが口を開く。

 

「なんの話だ?」とアインズは答える。

 

「いやいや。アインズ魔導王陛下。もう返しきれない恩があるとはいえ、ここで惚けられても目覚めが悪いというものじゃ。このゴブリン達の装備。一目見ただけでも、とてつもない装備だと分かる。この装備のメンテナンスをするだけでも、鍛冶師としての腕があがるってもんだ。アインズ魔導王陛下は、ルーンの技術を開発しつつも、鍛冶師としての腕を落とさず、いや……むしろ向上させるためにこの村に俺達を連れてきたということじゃろ? 鍛冶師にとっちゃあ垂涎の場所じゃ」

 

「アインズ様は、そこまで計算されて! アウラはこのことまで分かっていたでありんすか?」と、シャルティアが驚きの声を挙げる。

 

「まさか……。むしろ、消去法でカルネ村かなぁって……。私がアインズ様の英知に及ぶはず無いじゃん?」

 

 アインズは、尊敬の眼差しで見つめてくるシャルティアとアウラ、そしてエンリとゴンド。事情を悟ったルプスレギナを初め、村人、ゴブリン、ドワーフの尊敬の目が、アインズへと一身に集まる。

 

「ぐ、偶然だ……」とアインズが呟くも、もはやそれを信じるものは誰もいないのであった……。








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