フクシマ・ワークス ーサンチャイルド寄贈式ー (8)
◆新たなプロジェクト宣言!?
「フクシマワークス」展がオープンした頃、ヤノベは赤坂氏より、ある休耕作地をお花畑にする構想があると打ち明け話しのように紹介された。その休耕作地の一帯は、江戸時代以降の人口増加にともない新田開発とともに干拓された土地。すぐ側の小高い丘にある浦尻貝塚の存在が、この一帯がもともとは干潟であり、縄文の頃から海産物を採って暮らしていたことを裏付けているという。震災の津波によって海水がたまり、広大な休耕作地は再び潟の姿を現していた。その様子を見た赤坂氏は、耕作地に戻すというよりも震災の記憶をとどめるお花畑として再生するプラン、すなわち干潟跡を自然へと還し、再び多様な生物が生成する場への転換を提案している。
その赤坂氏の話しを聞いたヤノベはすぐに、広大なお花畑の中に立ち、土地を護り続けるシンボルモニュメントが閃いた。全長10 メートルを超えるスケールで、生き物を育む太陽エネルギーや、大気の循環を表す女神像。早くも描かれたスケッチが今回のトークで初めて披露された。
女神の名は、《aura アウラ》。 ラテン語で「そよ風」や「空気」を意味することから大気や光、人・物の雰囲気などを表す「aura」は、ギリシア神話におけるそよ風の女神としても知られている。
これまでモチーフとしてきた「太陽」に加え、風や大気の循環を取り入れ、広大なお花畑の大地に立つシンボルモニュメントとして、ヤノベは再びその場所が多様な生命に溢れていく未来の姿を想像した。
新しいモニュメント構想に続き、ヤノベは続けて、かつて2012年に福島ビエンナーレに出品した《サン・チャイルド No.1》の寄贈を佐藤氏に申し出た。 会場にいた誰もがまさか!と唖然の表情を浮かべるも、佐藤氏は快く受け入れ、急遽《サン・チャイルド No.1》の寄贈式も執り行われることとなった。
2012年の「福島現代美術ビエンナーレ」の展示を改めて振り返り、当初ヤノベは希望の未来像として《サン・チャイルド No.1》を制作したものの、福島の人々に受け入れられるのか、本当に展示をするべきなのか気がかりだった。だが実際に空港ロビーに立ち上がった姿を空港関係者や地元の人々が共に喜んでくれたことで、実は《サン・チャイルド》という作品を福島の人たちに見てもらうためではなく、「この福島の地から福島の皆さんと一緒に世界に向けて発信するために《サン・チャイルド》を運んできた」と気付いたのだという。
それから時を経て、継続的に福島の人々との関係を築き続けて、《サン・チャイルド》は再び福島の地に立ち上がるかもしれない。《サン・チャイルド》は福島の人々と一緒に困難を乗り越えていく仲間だったのだ。いつかそう言える日が来ることになるだろうか。
現実と真正面から向き合い、今を記録しながら強く前進していく。四者それぞれの大きな夢が語り合われたリレートークは、ヤノベケンジならではの誇大妄想級のサプライズと新たなプロジェクト宣言で幕を閉じた。
Photo: KYAP