先週、アメリカ東部時間23日深夜0時1分(日本時間同日午後1時1分)、米トランプ政権が、中国向け追加関税の第2弾を発動した。
USTR(米通商代表)のプレス・リリースにはこうある。
〈 中国のアンフェアな貿易政策に対して、中国製品による第2弾の追加関税を最終決定した。約160億ドル(約1兆7600億円)分の中国製品に25%の追加関税を課す。これは、アメリカの技術や知的財産の強制的な移転という中国のアンフェアな貿易政策に応えたものだ。制裁リストは、7月15日に発表したオリジナルの284品目から、279品目とした…… 〉
279品目とは、半導体、電子部品、プラスチック製品などだ。
一方の中国も即日、かねてから予告していた通り、アメリカ産の自動車、石油化学関連製品、鉄鋼製品など333品目に25%の報復関税を課した。
中国商務部は合わせて、こんなコメントも発表した。
〈 アメリカが23日、勝手に一方的に、中国からの輸入品約160億ドルに、301条の調査に基づいた追加関税25%をかけた。これは明らかに、WTO(世界貿易機関)のルールに違反するものである。
今回、中国は強く反対するとともに、必要な対抗措置を継続せざるを得ない。同時に、自由貿易と多国間貿易を守り抜くため、また自国の合法的権益を守り抜くため、中国はWTOの担当部門に本件を提訴するものである 〉
すでに7月6日には、それぞれ第1弾の追加関税措置を取っている。アメリカは中国製品818品目、約340億ドル分に25%の追加関税をかけ、一方の中国もアメリカ産の農産物など545品目、約340億ドル分に25%の追加関税をかけた。
もはや「米中新冷戦」とも言える状況であり、両国合わせて世界のGDPの4割近くを占めるだけに、今後、世界経済に与える影響は計り知れない。
今回、第2弾となる双方の応酬で、興味深い点が二つあった。
一つは、22日、23日と、中国商務部の王受文副部長がワシントン入りし、マルパス米財務省次官と米中貿易戦争の対応策を協議した。その協議の真っ最中に、双方が追加制裁を発動したという事実だ。
王副部長は北京で、「中国のライトハイザー」の異名を取っている。そんな対米強硬派筆頭の通商問題専門家だが、今回はアメリカに、「アメリカ産の輸入品を増やしますから勘弁してください」と、頭を下げに行ったのである。
それをトランプ政権は、完全に無視するかのように、制裁の第2弾を発動した。このことは、今回の貿易戦争が、単に貿易上の摩擦にとどまらず、米中の覇権争いの様相を呈していて、かつ長期化することを示唆している。
もう一点は、中国がアメリカをWTOに提訴すると宣言したことだ。これによって米中貿易戦争は、「2大国の角逐」から国際社会全体の問題へと広がることになる。
トランプ大統領は過去に、WTOからの離脱の意思を公言している。つまり中国が提訴してアメリカが負けたら、世界のGDPの4分の1近くを占める最大の経済大国が離脱してしまうかもしれないのだ。これはすなわち、WTO体制の崩壊と、ほぼ同意だ。
そのあたりのことを先週、WTOに詳しい方と会って聞いたら、こう答えた。
「WTOの上訴機関には7人の委員がいるが、親中派と目される4ヵ国・地域の委員が、まもなく任期切れになる。そのため、WTOが中国の味方になるとは限らない」
また、中国が最も頼りにしていたEUは、先月早々、トランプ大統領と「手打ち」してしまった。
EUにしても日本にしても、「自由貿易とグローバリゼーション」という観点からは、中国に味方したいところだ。だが、トランプ政権が問題視する中国の社会主義市場経済システム(国有企業の特異な存在など)に関しては、やはり疑心暗鬼でいる。そのため、「中国応援団」とはならないのである。