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2018年7月24~26日にサンフランシスコで開催されたGoogle Cloud Next '18に参加しました。
このイベントは、G SuiteやGCP(Google Cloud Platform)といったエンタープライズ系ITサービスを中心に、Googleの最新のテクノロジーやユーザー事例を紹介するもので、東京でも9月19日、20日に開催されます。
既にさまざまなメディアがイベントの様子や新機能を紹介していますが、この記事では、エンタープライズ情シスの私の目から見たイベント全体の印象と、メディアがあまり報じてないものの、“私自身が面白いと思った”幾つかのサービスを紹介します。
まず、今回の基調講演の中で個人的に最も印象的だったのが、SAPとOracleの文字が並んでどーんと映し出された瞬間です。思わず「おーっ!」と叫んでしまいました。
これまでのGoogleのアプローチは、Googleが用意した「パブリッククラウド環境のお作法」に顧客が合わせて、アプリケーションを新たに構築するスタイルでした。しかし、企業情報システムのクラウド化に向けたアプローチとしては、「リフト&シフト」という言葉がよく使われます。
これは、現有のアプリケーションを変更することなく、そのままクラウド環境に移行し(リフト)、いったん安定稼働した後にクラウドに適したアプリケーションに作り変えていく(シフト)スタイル。例えば、AWSでは、自社のデータセンターでOracle Databaseが稼働する基幹システムをそのままAWS上に移行することができますが、GCPはOracle Databaseをサポートしていないため、それができません。また、大企業では基幹システムとしてSAPが広く使われていますが、SAPのクラウド移行先としてGCPが候補になることはありませんでした。
そもそも、これまでのクラウド化の主流は、モード2と呼ばれる「攻めのIT」の領域が中心でしたが、最近ではモード1と呼ばれる「守りのIT」の領域、特に大企業が基幹システムのクラウド化を進めるケースが増えています。にもかかわらずGCPは、蚊帳の外という印象でした。
ところが今回の基調講演で、Googleがパートナーやマネージドサービスプロバイダーとの協業によって、SAPやOracleをGCP上で実行していくと発表したのです。日本市場において、いつからどのような形でサービスを提供するのかといった詳細はまだ分かりませんが、Googleが「エンタープライズ情報システムの領域をしっかりと狙っている」という強い思いは伝わってきました。
Googleといえば、パブリッククラウドのイメージが強いのですが、それを根底から覆すような発表もありました。「GKE(Google Kubernetes Engine)On-Prem」です。あのGoogleから“まさかのオンプレ”。基調講演のステージに、突如現れたラックは、自社のデータセンターにあるオンプレミスサーバのイメージです。
ステージでは、このオンプレミス環境とGCPのクラウド環境をシームレスに統合管理する様子が展開されました。Googleがハイブリッドクラウドを語る――。これだけでも「Googleが変わった!」と思わせるに十分なプレゼンテーションでした。
至るところでAIが活躍する今回の発表の中で、私が一番興味を持ったのが、コンタクトセンターをAIでスマートにするソリューション。まだα版ですが、コールセンター専業のテクノロジー企業、GENESYSのソリューションと連携したeBayの活用デモは、とても興味深いものでした。
「靴を購入したが合わないので返品したい」という顧客から電話がかかると、まずはAIが顧客の返品要望に自動応答で対応して処理します。その後、AIが顧客に合った商品を提案できるエキスパート(人)に誘導。AIから人に顧客対応が引き継がれます。この際、これまでのAIと顧客との会話内容は全て文字として記録され、商品と顧客との会話内容からAIによって選ばれた“最も適したエキスパート”が会話履歴を見ながら最適な提案を行い、最終的に顧客が本当に欲しかった商品を購入できるのです。
AIというと、よく「人間の職業を奪う」といった脅威論的な意見が出てきますが、私は「AIの民主化によって、人が人にしかできない仕事に集中できる」というGoogleの主張に共感を覚えます。
今回のデモはまさに、「AIと人間のハイブリッドな働き方」を体現するものであり、顧客視点では、「サービサーとしてのAIと人間の境界線が極めて曖昧になっていく」という今後の方向性を示唆するものでした。
テクノロジーは人間の持つ機能を拡張するものであり、その境界線が曖昧になることは、テクノロジーの民主化・大衆化につながります。それはテクノロジーによって人類のオペレーティングシステムがアップデートされることだと思うのです。
Contact Center AIは、GENESYSのような業務アプリと連携して初めてソリューションとして成立するわけですが、企業情シスの視点から見ても、「GoogleのAIをどのように活用すればビジネスを変革できるか」というショーケースとしてとても説得力のあるプレゼンテーションだったと思います。
クラウドによって物理サーバが、ハングアウトやSkypeによってテレビ会議システムが消えていく中で、いまだ社内に残る巨大オンプレミスのレガシーがPBX(電話交換機)です。「ハングアウトで社外の人ともつながるし、電話なんて要らないじゃない?」と思ったところで、「電話番号」は名刺から当分、消えそうにありません。
今回、発表されたG Suiteユーザー向けのGoogle Voiceは、「Early Adopter Program」での提供で、まだ全貌は明らかになっていません。しかし、電話とG Suiteの融合は既存のG Suiteユーザーにとって非常に魅力的ですし、PBXという重たい資産とその管理からの解放は総務部門の熱望するところです。
Google Voiceには大いに期待する一方で、これまでDialpadのようなサードパーティーと連携してきた立場から、“直接Googleがサービス提供するようなスタンスの変化”に、私自身は戸惑いも覚えます。とはいえ、われわれ利用者から見れば、こういった競争は大いに結構。G Suiteを利用している企業は、Google Voiceに注目してほしいと思います。
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