注意欠陥多動症(attention-deficit/hyperactivity disorder: ADHD)
【概念、症状】
・脳の機能異常(腹側線条体(基底核)、側坐核(辺縁系))との報告があり、遺伝性の高い、生物学的基盤に基づく疾患と考えられています。性格的な疾患ではなく、生まれ持った脳の気質的特性と捉えると良いでしょうか。
特徴として、
・症状は不注意、多動、衝動性を特徴とします。(誰にでもある症状です)
・薬物が非常に有効です
・学童期(12歳以下)より症状が持続している、社会生活に支障をきたしている(学校、職場、家庭など2カ所以上で)ことが確定診断には必要です
・双極性障害(躁うつ病)との鑑別が困難なケースもあります
以下の説明を読んでいただくと、ご自身の中にも、ADHDのような症状が認められると感じることがあるかもしれません。ADHDは正常との区別が非常に曖昧な疾患概念です。ADHDと診断するためには、上記のように、子供の頃から症状により生活が困難であったことが必要になりますが、例えば、学校の先生や友人や環境に恵まれて、学校では問題を感じていなかった場合には、診断が曖昧になると考えられます。また、適応できないレベルではなかったが、若干の苦痛を感じていたと実感している方もいるかもしれません。そのように、グレーゾーンの広い疾患であると言えます。
現時点で、下記のような症状や傾向があって、社会生活や日常生活に支障をきたしているもしくは、困難を感じている場合はご相談ください。
不注意:ケアレスミスが多い、集中することが困難、外からの刺激や雑念に気が散りやすい、指示をすぐに忘れてしまう、物をなくす、置き忘れる、片付けが苦手、先延ばしにしてしまう、予定が入っていたことを忘れてしまう、など
多動、衝動性:落ち着きがない、物にぶつかる、一方的に喋る、不用意な発言をしてしまう、感情が高ぶりやすい、衝動買いが多い、金銭管理が苦手、離席が多い、列に並んで順番を待つことが困難、貧乏ゆすり、そわそわした印象
(多動性は大人になるにつれ少なくなり、一方、不注意は継続することが多いと報告されています)
起床困難、長時間睡眠、日中の過度の眠気、夜型の睡眠覚醒リズム:症状の原因は明らかになっていませんが、睡眠障害を合併するケースが多く見られます。授業中に寝てしまう、朝起きられない、夜遅くまで眠くならないなどの症状が、小学生ごろからみられることもあります。思春期以降には特に目立つようになります。
【有病率】
小・中学生の3.1% (文科省H24)、小児3-5%、成人3-4%とされています。
男性により多くみられます。
【ADHDの経過】
・小児期:刺激に敏感、音や光などの環境変化により混乱しやすい。話しかけても外の風景や音などが気になり、集中して話を聞くことが困難なケースも。
・学童期:飽きっぽいと見られる、忘れ物、大切な物をなくす、人懐こく友人との関係は良好なことが多い。
・思春期以降、起床困難、長時間睡眠、日中の過度の眠気、夜型の睡眠覚醒リズムなど、睡眠の問題も多く出現します。不登校、退学、留年など社会生活への支障が目立ち始めることもあります。気分障害、不安障害を併発することが多くなります。
【ADHDの治療】
ADHDには多岐にわたる睡眠障害が合併することが報告されています。当院では、眠気や睡眠障害を中心としてADHDの治療に取り組んでいます。ADHDの傾向があり、眠気や睡眠のリズムなどに困っている方もご相談ください。必要に応じて、眠気の精査をさせていただきます。
・ADHDに薬物は非常に効果的です。同時に、生活指導、行動療法なども重要です。
・本人がADHDの行動特性や疾患を理解すること:生まれ持った脳の特徴であるため、治そうとするのではなく、特徴を認め、肯定的に受け入れ、社会生活により適応できるように生活の中で工夫をしてゆきます。
・診断がつくと薬物治療や周囲のサポートにより改善を認めるケースも多い→教師や職場の上司がADHDに関しての知識を持つことも重要です
【注意欠陥多動症の診断基準 DSM-5】
A. (1) 及びまたは (2) によって特徴づけられる、不注意および/または多動性-衝動性の持続的な様式で、機能または発達の妨げとなっているもの
(1) 不注意:以下の症状のうち6つ(またはそれ以上)が少なくとも6ヶ月持続したことがあり、その程度は発達の水準に不相応で、社会的及び学業的/職業的活動に直接、悪影響を及ぼすほどである
(a) 学業、仕事、または他の活動中に、しばしば綿密に注意することができない、または不注意な間違いをする
(b) 課題または遊びの活動中に、しばしば注意を持続することが困難である
(c) 直接話しかけられた時に、しばしば聞いていないように見える
(d) しばしば指示に従えず、学業、用事、職場での義務をやり遂げることができない(課題を始めるがすぐに集中できなくなる、容易に脱線する)
(e) 課題や活動を順序立てることがしばしば困難である(資料の持ち物を整理しておくことが難しい、作業が乱雑でまとまりがない、時間の管理が苦手、締め切りを守れない)
(f) 精神的努力の持続を要する課題(宿題、報告書の作成、長い文章を見直すことなど)に従事することをしばしば避ける、嫌う、またはいやいや行う
(g) 課題や活動に必要なもの(学校教材、携帯電話、鍵、道具など)をしばしばなくしてしまう
(h) しばしば外的な刺激によってすぐに気が散ってしまう
(i) しばしば日常の活動(会合の約束、お金の支払い、電話を折り返しかけることなど)で忘れっぽい
(2) 多動性および衝動性:以下の症状のうち6つ(またはそれ以上)が少なくとも6ヶ月持続したことがあり、その程度は発達の水準に不相応で、社会的及び学業的/職業的活動に直接、悪影響を及ぼすほどである
(a) しばしば手足をそわそわ動かしたりトントン叩いたりする。または椅子の上でもじもじする
(b) 席についていることが求められる場面でしばしば席を離れる
(c) 不適切な状況でしばしば走り回ったり高い所へ登ったりする
(d) 静かに遊ぶ、余暇活動につくことがしばしばできない
(e) しばしば、じっとしていない、またはまるでエンジンで動かされているように、行動する
(f) しばしば喋りすぎる
(g) しばしば質問が終わる前に出し抜いて答え始めてしまう
(h) しばしば自分の順番を待つことが困難である
(i) しばしば他人を妨害し、邪魔する(ゲーム、会話など)
B. 不注意または多動性-衝動性の症状のうちいくつかが、12歳になる前から存在していた
C. 不注意または多動性-衝動性の症状のうちいくつかが、2つ以上の状況(家庭、学校、職場、友人関係、その他の活動など)において存在する
D. これらの症状が、社会的、学業的、または職業的機能を損なわせているまたはその質を低下させているという明確な証拠がある
E. その症状は、統合失調症、または他の精神病性障害の経過中にのみ起こるものではなく、他の精神疾患ではうまく説明されない