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【社説】

波高い中台関係 台湾分断の犠牲者は

 台湾で親中派と反中派の市民対立が目立つ。中国の軍事外交での過度な圧力と、台湾の露骨な対米接近が背景にある。中台の政治にほんろうされる社会分断の犠牲者は、ほかならぬ台湾住民である。

 台湾では十一月に統一地方選がある。最大野党・国民党は最近開いた党大会で、二〇二〇年の総統選で与党民進党から政権奪回する一歩にと気勢をあげた。

 振り返れば、一六年の総統選で民進党の蔡英文主席が勝利したのは、国民党の過度な対中融和路線に民衆が失望し、蔡氏の中台関係「現状維持」路線が共感を得たからである。

 下野した後も国民党は「中台は一つの家族」などと情緒的な親中路線を訴えるが、現実的で長期的な中台関係の青写真を示せていないように映る。

 一方、蔡総統は十九日、中南米訪問の経由地米国で米議会議員らと面会し「台米関係はわれわれの行方を照らす光だ」と強調した。

 正式な国交のない米台間で今春、高官相互訪問を促す台湾旅行法が成立したほか、防衛協力の強化方針でも合意し緊密化が進む。

 だが、民進党綱領に掲げた「独立」を封じた蔡総統の「現状維持」路線が、アジアの平和を守る政治の知恵だったはずである。

 年金改革はじめ内政課題で十分に成果を得られていない焦りなのか、蔡氏には中国を刺激するような対米接近の誇示が過ぎる。

 むろん、中国の台湾への圧力は目に余る。経済援助を切り札に中米やアフリカ諸国を台湾との断交に追い込んでいる。中国に就航する各国航空会社に「台湾」を「中国台湾」の表記に変更するよう求め、台湾で来年開催予定の国際スポーツ大会も「台湾」表記の問題で干渉し、中止に追い込んだ。

 中国は台湾統一を悲願とするが、軍事演習や外交攻勢など一連の強引な対応は反発を招くだけだ。民主主義が根づく台湾では、若い世代を中心に自身を中国人ではなく台湾人と認識する人が増えている理由をよく考えてほしい。

 最近の台湾民意基金会の調査では、民進党、国民党とも支持率は20%台に低迷する一方、「支持政党なし」は50%弱だった。

 台湾の平和的発展に対中関係は避けて通れぬ難問だが、民衆には食傷感もあろう。台湾の与野党は「親中」「反中」だけをクローズアップして社会を分断させるのではなく、それぞれの描く台湾の未来像でも競い合ってほしい。

 

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