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10周年特集ーPAST ◀▶FUTURE

この10年でさらに変化を遂げた街の代表都市、NYブルックリン。現地在住10年で旅行本の著者が考える「この街が進化したワケ」

この10年でさらに変化を遂げた街の代表都市、NYブルックリン。現地在住10年で旅行本の著者が考える「この街が進化したワケ」
Photo: Kasumi Abe

おしゃれなレンガ壁に打ちっ放しのコンクリート床。廃材利用の家具が置かれ、見上げるとむき出しの配管が縦横無尽に天井を走っている ── ──

日本のインテリア業界を席巻している「ブルックリン・スタイル」は、ここブルックリンでは人々の日常に浸透しています。

流れている空気は実にゆるやか。倉庫跡地のレストランで人々がのんびりとワインを飲んでいたり、ストリートで人々が普段着で犬の散歩をさせていたり、デリでご近所さん同士が井戸端会議に花を咲かせていたり...。

日々流行が生まれては更新されているのに、素朴で飾らない姿も残し気負わずリラックスできる街、ブルックリン(Brooklyn)

この10年でこの街はさらに進化しました。これほどまでに人々を惹きつける魅力は何だと思いますか?

ブルックリンとは?

ニューヨーク市内にある5区のうちの1つで、クリエイティブな流行発信地として、クリエイターからスタートアップまで注目が集まっている。

人口は約265万人(2017年現在)。ダイバーシティ化が進み、約50の地区にユダヤ系、ラテン系、ロシア系、イタリア系、ポーランド系、中東系、カリブやアフリカンアメリカ系、アイルランド系、ギリシャ系、中国系などさまざまな民族が同居している。

悪名高き街が進化していったカラクリとは?

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ブルックリンを歩くとよく見かける壁画と、作業中のアーティストたち。
Photo: Kasumi Abe

ブルックリンは長らく工場地帯として、造船業や製造業などで栄えてきました。しかし第二次世界大戦後に技術革新で経済がシフトすると、それまでに活躍していた工場や倉庫が不要になり次々と閉鎖。

また、1970年代のニューヨーク市財政危機を引き金に犯罪が多発し、人々はより安全な場所を求めて郊外へ引っ越すというホワイトフライト現象が加速して貧困層が多く残り、街の一部は廃墟と化しました。

私が初めてニューヨークを訪れたのは1990年のことですが、当時ブルックリンはただの住宅街で、観光で行く人は皆無でした。まさか20年後に世界中から注目を集める街になるとは思いもしなかったです。

ブルックリンに光が射し始めたのは、1990年代末ごろ。

マンハッタンの地価高騰に伴い、アーティストやクリエイターらがより安い賃料を求めてブルックリンの川岸に移り住むようになりました。長らく空洞になっていた工場や倉庫がリノベーションされて、新しく流行発信スポットとして次々と生み出され、おしゃれな街として生まれ変わったのです。

ではアーティストが引っ越せば、世界中どの街でもブルックリンのように生まれ変わるのでしょうか?

ブルックリンが輝き始めた3つの魅力

私が2018年3月に出版した旅ガイド本『NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ』を作る際に、1番最初に考えたことは、この街の魅力とは? 悪名高きこの街が、なぜ進化できたのか? ということです。

制作を開始した最初のころは、とにかく街を歩きました。そしてここに根をはる人々と話をしたり、歴史博物館(Brooklyn Hisotrical Society)にも足を運んで歴史の勉強をしたりして、3つの魅力に気づきました。

魅力1:古さ(歴史)をいつくしみ残す

ブルックリンを歩くと、教会や歴史的な建造物がたくさん残されていて、今も人々に大切に使われていることに気づきます。

例えば、1875年に開行した米政府銀行(Williamsburgh Savings Bank)は、今でも結婚式やパーティーなどを行うイベントスペース「ウェイリン(Weylin)」として、また1929年に開業した37階建ての高層タワーも当時の最先端の米政府銀行で、1階がイベントスペース、上階が高級アパートメントとして現役です。

ちなみにブルックリンには、市に指定されている歴史保存地区が33もあります(今、私が住むアパートも保存地区内でした!)

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イベントスペースのウェイリン(Weylin)は、 1875年に開行した米政府銀行。
Photo: Kasumi Abe
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映画にもよく出てくる、19世紀に建てられたブラウンストーンの街並み。不動産価値が非常に高く、賃貸&売買ともに人気がある。
Photo: Kasumi Abe

魅力2:新しさ(トレンド)が生まれる土壌

ブルックリンといえば、工場や倉庫跡地を利用したおしゃれなショップやレストランがまず思い浮かぶかもしれません。

そのイメージ通り、この街に移り住んだクリエイターらによって、歴史を生かしたトレンドが生み出されている土地柄だと思います。

1番如実に体現しているのは、2012年に開業したワイスホテル(Wythe Hotel)。もとは、1901年に建てられた、精糖所に納めるための木樽を製造する工場でした。建物の外観をそのまま残し、リノベートしたホテルは、アーティストやクリエーターなら一度は泊まりたいホテルの代表格です。

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トレンド発信基地として6年前に開業したワイスホテル(Wythe Hotel)。写真は1階のレストラン、レイナード(Raynard)
Courtesy of Wythe Hotel

古い石畳や線路が残るおしゃれな倉庫街ダンボに2017年オープンした商業施設ビル、エンパイア・ストアズ(Empire Stores)も、もとは19世紀に外国から到着したばかりのコーヒーや砂糖、毛皮などの保管倉庫として使われていた建物でした。

外壁をそのまま残したヒストリカルな雰囲気が人気で、ショップやレストラン、オフィスなどが次々入居し話題になっています。

魅力3:地元愛あふれる人々

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ブルックリンにはアートがそこかしこにあふれている。
Photo: Kasumi Abe

古さ(歴史)と新しさ(トレンド)が共存するのがブルックリンの魅力ですが、それらに加えて地元を愛する人々(ブルックリンでは、愛着を込めてブルックリナイツと呼びます)も、この街の魅力を底上げしている大切な要素の1つだと思います。

この街で生まれ育ち、ブルックリンアクセントの強い英語をしゃべる彼らは、とにかく地元への誇りが高くて有名です。

ブルックリンロゴの入ったキャップやジャンパーなどをこれ見よがしに着て歩く姿をよく見かけます。マンハッタンのことを「ニューヨーク」と呼ぶ人も多く、ブルックリンは彼らにとってニューヨークではなくあくまでも「ブルックリン」なのです。

日系コミュニティの誕生で、さらに活気ある多様性のある街へ

工場街のDNAが色濃く残るブルックリンでは、この10年間で自然志向の食料品やオーガニック野菜、アルコール類、スキンケア用品、インテリアなど、生産者の手作業によって少量生産され、地産地消しようという人々の意気がさらに高まっています。

クリエイティブマインドの高まりとともに2018年に生まれた日本酒の酒蔵ブルックリン・クラ(Brooklyn Kura)やビルの屋上農園のブルックリン・グランジ(Brooklyn Grange)などが代表的です。

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職人や作り手の顔や思い、手の温もりなどが見えたり感じられたりするモノへの愛着が高まっていて、地元の人々によっていつくしまれ大切に消費されている。
Photo: Kasumi Abe

今、企業や小売業からもっとも注目されているのは、インダストリーシティ(Industry City)。メイド・イン・ブルックリンの食品製造工場や工房などをはじめ、オフィス、飲食店、ショップなど約450社が入居している一大複合施設ビル群です。

この中の1,858平方メートルのインダストリアルな敷地に、市内初&唯一の日本の食と物産がテーマのジャパン・ビレッジ(Japan Village)が、今年オープンする予定です。

ダイバーシティが進むこの街に新たに大きな日系コミュニティが生まれようとしているのです。

海外進出に興味がある日本の食品や工芸品の職人は、テストマーケティングの場としてまずはここに出店してみてもいいかもしれません。

この街はこれかも進化し続けていくことでしょう。

街が進化しジェントリファイ(再開発によりエリアが高級化)されると、新しい人々がやって来て街が活性化しさらに面白いムーブメントが生まれます。しかし同時に不動産価格が高騰し、昔からここに住む人々や名店が退去をしいられていることも事実です。

高層ビルの建築と大手資本の進出はほどほどにして、おおらかで人懐っこい人々、そして昔からある名店だけはいつまでも残り続け、唯一無二のブルックリンという街の魅力が今後も失われませんように!

PROFILE-

安部かすみ(あべ・かすみ) | Twitter | Website |

ニューヨーク・ブルックリン在住の編集者、ライター、翻訳家。食やライフスタイル、トレンドなどNY最新情報を発信中。2018年3月、お気に入りスポットを取材&撮影した旅ガイド本『NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ』を出版した。

取材・撮影: 安部かすみ

安部かすみ

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