かごの大錬金術師   作:Menschsein
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第七話  Castle on a Cloud

 アルベドは語る。

 最初の違和感は、彼女が守護者統括としてナザリック地下大墳墓の管理用マスターソースであった。一日の維持コスト、現在のシモベの種類や数などを把握出来る。そのマスターソースの中の、シャルティア・ブラッドフォールンの名前が記載されている場所。他のNPCが白色で名前が記されているのに対し、シャルティア・ブラッドフォールンの名前だけが黒色に変化していたのだった。

 

<なるほどですね。マスターソースの記載表示色が黒なら、敵対行動を取っているNPCということ……。ですが、ユグドラシルと同じという保証はありませんね>

 

「通常であれば、マスターソースで表示される色は——」

 

「——その辺りのシステム面のことは分かります。それで、モモンガさんはどのように対応されるつもりですか? 効果時間が経過を待つというのが無難でしょうが……」

 

星に願いを(ウィッシュ・アボン・ア・スター)を使われましたが……失敗致しました」

 

<そういうことですか……。”傾城傾国”ですね。辻褄が合いましたね。 まぁ、いまアルベドが装備しているのは私が渡した、ワールド・アイテム、真なる無(ギンヌンガガプ)ですからね。ワールド・アイテムもこの世界に存在していることは確実です。そして、ワールド・アイテムは相変わらずチート性能ということですか。精神操作無効のアンデッドに精神操作を行うなんて、無茶苦茶ですね……>

 

「それで、モモンガさんはどちらの対応をされるつもりなのですか?」

 

「シャルティアを倒すと……」

 

「それが堅実な作戦ですね。最悪、 NPCは復活できますし。究極的な敗北は、モモンガさんが死ぬことでしょう。最悪のそれを避けるのは当然です」

 

<ワールドアイテムを所持しているプレイヤーから、それを奪うのは流石に難易度が高いでしょうね。アインズ・ウール・ゴウンでも、隙を突いてギルメン全員で襲って奪ってましたからねぇ……>

 

「ですが、モモンガ様は、一騎打ちでシャルティアを倒すと……」

 

「はい? もう一度言っていただけますか?」

 

「モモンガ様は、一騎打ちでシャルティアを倒すと……」

 

「自殺行為ではありませんか? 一騎打ちで勝てる可能性が低いでしょう。相性が悪いですよ? モモンガさんが勝てる確率は……二割? シャルティアを倒すだけなら、波状攻撃が無難でしょう? もしくは、アルベド、あなたが壁役をすれば勝てる相手です。イージスとウォールズ・オブ・ジェリコは使えますよね?」

 

「私は、タブラ様に創られた通りの能力を保有しておりますので、使用可能です。そして、モモンガ様が一騎打ちをするのは……男の意地だそうです……」

 

「男の意地……。ははは……。いや、失礼。実にモモンガさんらしい……。それは間違い無く私の知っているモモンガさんですね」

 

<モモンガさん、相変わらずですね>

 

「モモンガ様の固い意志。それは尊重すべきものであるとは思いますが、万が一のことを考えると……」

 

<なるほど……。状況は把握できました。しかし……自分が造ったNPCを疑うのは悲しいですが、アルベドが裏切っていないという保証がどこにもないわけです。唯一幸いなのが、アルベドはワールドアイテムを装備しているので、”傾城傾国”の影響下であるということは考え難いことが幸いでしょうか。可能性として残るのは……>

 

「少し話が変わってしまいますが、シャルティア・ブラッドフォールンはどういった口調なのですか?」

 

「語尾が……『ありんす』でございます」

 

<遊郭言葉を使うのは、ペロロンチーノさんの設定通りですか。まぁ、私に言わせれば、ペロロンチーノさんの設定した遊郭言葉は、間違いだらけでしたが……>

 

「マーレ・ベロ・フィオーレはスカートを穿いていますか?」

 

「その通りでございます」

 

<キャラクターの設定は生きている。アルベドも、話し方が淑女のように品があるのは、私がそう設定したからでしょうか。『あなたはビッチですか?』と質問すれば早いのですが、その質問は失礼すぎますね……>

 

「アルベドは、何か趣味をお持ちですか?」

 

「わ、私の趣味でございますか……。実は……時間があるときなどは、刺繍を嗜んでおります」

 

<アルベドの設定が生きているのであれば、ナザリック地下大墳墓の者にたいして、残忍な行為はできないはずですね。また、ナザリック地下大墳墓守護者統括ということも設定に盛り込んでいますから、守護者統括という行為に反する、ナザリックへの裏切り行為は抑制されてしかるべき……。むしろ、ラナーというこの少女の裏切りを事前に察知したということが、守護者統括としての責務を果たしているという何よりの証明でしょうか。そして……自分が造ったNPCを信じられないというのはなんとも情けないことです>

 

「アルベド。シャルティアを一度倒すということであるなら、出撃する者たち。おそらく選抜をして、階層守護者がメインとなるとは思いますが、彼等彼女等にワールド・アイテムを装備させるべきでしょう。それによって、”傾城傾国”の精神操作に対抗することができます。ワールドアイテムに勝てるのは、ワールドアイテムだけです」

 

「傾城傾国?」

 

「私の知っている限り、アンデッドであるシャルティアを精神操作できるワールドアイテムは、”傾城傾国”です。旗服(チャイナ・ドレス)を着ている存在がシャルティアの周りにいませんでしたか?」

 

旗服(チャイナ・ドレス)でございますか……。も、もうしわけありません……。そのような存在は……。アウラも一緒に行けば、発見出来たかも知れませんが……」

 

<索敵能力はあまり重視してませんでしたからね……。それはアルベドの責任というより、私の責任でしょうか……>

 

「いえ、気にすることはありません。ミイラ取りがミイラになる。それを防ぐために、ワールド・アイテムを全員が装備しておくのが必須の条件ですね」

 

「し、しかし……。私の無知をお許しください……。ナザリックがどのようなワールド・アイテムを保持しているのか存じ上げません。それに、一騎打ちする際に、モモンガ様がその”傾城傾国”で精神支配される恐れはないのでしょうか?」

 

「モモンガさんは、ワールドアイテムを一つご自身で持っているはずなので大丈夫です。数に変動がなかったら、アインズ・ウール・ゴウンは全部で11個のワールド・アイテムを保持しています。"諸王の玉座"や”熱素石(カロリックストーン)”は、別としても、守護者全員で攻勢に出ることができますね。そうすれば、まず負けないはずです。他のプレイヤーがいても、これほどのワールド・アイテムを揃えてはいないので、終始有利に戦えます。もし、プレイヤーの数が多ければ、"山河社稷図"を使ってしまえば良いのです。絵の中で戦えば、逆に言えばワールド・アイテムの所持者でないと邪魔できませんからね。ワールド・アイテムを持っているプレイヤーがそれほど多いとは思えませんし、十中八九、”傾城傾国”だけしか持っていないでしょう。そうすれば、モモンガさんと守護者で、シャルティアとその”傾城傾国”を持っているプレイヤーの二人を相手にするだけで、形勢は有利でしょう」

 

「"山河社稷図"を使う……。ありがとうございます。それ以外に何か有効な手段などはないでしょうか。守護者全員で作戦を検討するのですが、検討する際に、ワールド・アイテムの能力を知っていた方が、効果の高い作戦を考えることが可能であると思います」

 

<『智謀、戦闘能力において格段に優れている』という設定通りですね。製作者として、嬉しい限りですね>

 

「そうですね、今回の作戦に使えるかは別として、一通り説明をしましょう。”強欲と無欲”は、経験値をカンスト状態から更に収集することができるアイテムです。経験値ダウンの魔法やアイテムを使う際などに、事前に経験値を貯めておくと便利です。かつてナザリックを攻略しようとしたときなど、プレイヤー1500人分の経験値はかなり美味しかったとです。強敵を倒すときに使うというよりは、弱い敵を範囲攻撃で殲滅していくときなどに装備しておいた方が、どちらかと言えば有効でしょう。次に”ヒュギエイアの杯”ですが、これは………………」

 

<おっと、私の長い癖です。長々と話してしまいましたね>

 

「タブラ様。感謝致します……。これで、万全の体制でモモンガ様をお助けすることができます。ですが、できれば、タブラ様の方から、モモンガ様にシャルティアとの一騎打ちをしないようにお口添えしていただくことはできませんでしょうか? モモンガ様より、手出し無用と言われてしまっては、私ども守護者は、そのご命令に逆らうことができません……」

 

<今更どの面を下げて、と言われる可能性もありますが、モモンガさんの安全が第一ですね。ただ問題は……>

 

「それは構いませんが……そろそろ私の時間が終わってしまいます。もう眠気が……」

 

「で、では、次にタブラ様がお目覚めになるときには、モモンガ様とお会いして戴くように手配してもよろしいでしょうか? モモンガ様もきっとお喜びになります」

 

「も、モモンガさんさえよろしければ……。そ、そうだ。ナザリック内部に裏切り者がいるとその娘が言っておりましたよ。その点にも気を付けてください……」

 

「感謝致します。ですが、誰が裏切り者であるか、すでに判明しております。裏切り者は、ナーベラル・ガンマでございます」

 

「ナーベラル・ガンマ……。プレアデスの一人でしたか? な、何にせよ、気を付けてく……だ……さい……」

 

  ・

 

  ・

 

 カシュバの静かな寝息が聞こえる。

 

「アルベド様。新月の夜は終わりました」と、窓の外を確認しながらラナーが言った。

 

「ラナー。あなたもご苦労だったわ。それに、損な役周りをさせてごめんなさいね。この男を信用させるためとはいえ、裏切り者を演じるのは嫌ではなかった? でも、おかげでとっても有益な情報を手に入れることができた。さっそくだけど、八本指を使って情報を収集して頂戴」

 

「畏まりました。まずは、シャルティア様が洗脳された場所周辺の宿を当たってみようと思います。聞いた限りワールド・アイテムの性質上、常に装備をしている可能性が大きいですし、旗服(チャイナ・ドレス)は、王国で珍しい服であるので、目撃者の印象に残るはずです」

 

「えぇ。一応、念の為に言っておくけど、私もワールド・アイテムを装備しているから、あなたが使って私を操り人形にすることは無理よ? あと、モモンガ様も無理ね」

 

「存じ上げております」

 

「あら、『そんなことはしない』とは言わないのね?」

 

「そう言っても、信じてはくださらないでしょう?」

 

「それもそうね。本当に、私達って似ているわ。さて、私もナザリックに帰って、湯浴みを早くしたいわ。私を捨てた男に自分の肌が触られるなんて、考えただけでも鳥肌が立つわ……。信用させるためとはいえ、二度とこんな事はやりたくないわ……。王国のフィリップという男と言い、タブラと言い、まったく、私の肌を触って良いのはモモンガ様だけだというのに……。でも、もうすぐ……くふふふふぅ……」

 

「アルベド様が目的を完遂されたあかつきには……」

 

「分かっているわ。そうそう、これは帝国の統治の草案よ。私はモモンガ様に愛されれば他は何も要らないわ。あなたが統治しても構わないわ」と、デミウルゴスが綿密に造りあげた帝国統治の草案の束を、ゴミのように床へと投げる。

 

「ありがとうございます。帝国を統治し、外は帝国、中は八本指で、王国を食いつぶす。クライムを馬鹿にした奴らはみんな殺す……」

 

「ふふ。私、普段の顔より、今のあなたの顔の方が好きよ」

 

「ありがとうございます。ですが、この表情だと、クライムに嫌われてしまいそうなので」と、ラナーの表情は愛らしい少女のような顔へと戻る。

 

「あ、そうそう。あなたのクライム。廊下で聞き耳を立てているようだったから、寝てもらったわ。危害は加えていないけど、廊下で寝てしまうと風邪を引くかもしれないわ……。それに、良い夢を見ていると思うわ。きっとお相手はあなたよ?」

 アルベドのサキュバスとしての能力を使って、クライムには深い夢の中へと入ってもらっていた。それも、飛び切りの淫夢というサービス付で。

 

「素敵ですね。クライムが夢の中で私をどのように犯しているのか……。非常に興味深いです」

 

「お互い……早く愛する男に抱かれると良いわねぇ……ねぇ、女の幸せって、愛する男の腕を枕にして寝ることだと思わない?」

 

「えぇ。その通りだと思いますわ」

 

「やっぱり、あなたとは気が合うわねぇ……」








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