柄本佑×石橋静河×染谷将太鼎談 「3人の考える青春とは?」
『きみの鳥はうたえる』- インタビュー・テキスト
- 森直人
- 撮影:馬込将充 編集:久野剛士
「青春」とはなにか?この問いに答えるのは非常に難しい。しかし、確かに青春は存在する。三宅唱監督による『きみの鳥はうたえる』は、北海道・函館出身の伝説的作家、佐藤泰志の遺した小説を映画化。函館の街を漂う浮遊感の中に、等身大の「いま」を生きる若者3人の、微熱を帯びたような現在進行形の青春像が差し出されていく。
この珠玉作の中で親密な関係性を築き上げたメインキャスト――主人公である「僕」役の柄本佑、親友・静雄役の染谷将太、2人の男の間を行き来する佐知子役の石橋静河に話を聞いた。彼らが「青春」を感じる瞬間とは?
「青春に年齢はあんまり関係ないかもね」って思ってます。(柄本)
—『きみの鳥はうたえる』は「ザ・青春映画」だと思うんですよ。涼しさの残る函館の初夏で不定形な日々を生きる男女3人の、期間限定な幸福感や切なさが凝縮されていますね。
柄本:そうかもしれないです。なんか映画の中の僕たち、きらめいちゃってるもんね(笑)。
染谷:珍しく撮影しながら、僕も「これは青春映画だ」って思ってました。「青春」ってよくわかんないものだけど、「青春映画」ってジャンルは確かにあって。そしてこの映画を「どんな映画か?」って聞かれたら、やっぱり青春映画だと思う。
石橋:私は今回、撮影している間が本当に楽しくて、毎日終わっていってしまうのが悲しかったんですよ。だから楽しくて笑ってるときも、「あ、この時間って終わっちゃうんだ」っていうのがいつも頭にあって。いつか終わる予感、その寂しさが幸福感と表裏にあるような……それを実感したときに、「これって青春なのかな」って思いましたね。
柄本:僕の場合、30歳を過ぎちゃってるから、素で「青春」について語るのは恥ずかしいんですけど(笑)。でも年齢の垣根というか、「青春に年齢はあんまり関係ないかもね」って思って。特に映画の場合、やっぱり瞬間瞬間がきらめいているかどうかがすべてだと思います。
一瞬のきらめきとか、そのときにしか撮れないものが、明らかにこの映画の中には映ってるんですよね。もうそれだけで「ゴチです。あざっす!」みたいな(笑)。一刻一刻、移り変わっていく人間の大事な瞬間が、ちゃんとドキュメントされた映画だと思う。
染谷:たとえば、わかりやすく他人が傍から見て「ああ、この人、青春してるねえ」じゃなくても、実は青春をしてたりするじゃないですか。普通に黙ってベンチ座っていても、「あ、やべえ、自分すげえ青春してる」みたいな。
一同:(笑)。
染谷:だから逆に「青春とはなんぞや?」っていうのは、提示するのが難しいと思うんですよ。だけどそれを、三宅唱監督は本当に素敵な形で提示したな、と思って。
—みなさんが個人的に「青春」をいちばん強く感じる瞬間を挙げていただけますか?
染谷:自分の中で、2パターンあるんですよね。ひとつは中学生くらいのときに背伸びして、イキがっていた頃の青春。
もうひとつは、いま普通に公園に座って、「いい風を浴びている自分」、みたいな青春(笑)。この「自分」っていうところに意識がフォーカスするというか、自分のエゴがぐっと上がる瞬間になると、僕は「青春」を感じるんですよ。
石橋:私はやっぱり幸せと不安が背中合わせにあるときかな……。たとえば飛行機に乗るときって、「別れ」をすごく意識するんですね。ただ旅行に行くだけとか、別に大したことじゃなくても、なんか1回、覚悟する感じがあって。
柄本:「大事な人に一生会えなくなるかも」っていう?
石橋:だって、わかんないじゃないですか(笑)。で、逆に旅行から帰ってきたときに、なんか家族や友だちが全然違う風に見えたりする瞬間が好きですね。旅人の感覚って刹那的じゃないですか。その感覚を忘れずに普段も居られたら、もっとみんなを大切にできるのかなって思います。
柄本:なるほどなあ。僕の場合の「青春」は、わりと日常に近いっていうか。たとえばテレビでバラエティー番組をタレ流しながら、一方でNintendo Switchをやっている自分、とか。そういう時間がいまも年に3回くらいあるんですけど、そのときは「なんだ、俺、まだ全然無駄なことこんなにやれんじゃん!」って。
一同:(爆笑)
柄本:大人になると、そういう無為な時間がなくなってくるわけじゃないですか。10代の頃とか、昔はしょっちゅうやってたのに。それをたまに早起きして、まったく無益に時間を消費しちゃうときが、すっごい解放されて「青春」を感じる瞬間ですかね(笑)。
公開情報
- 『きみの鳥はうたえる』
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2018年9月1日(土)から新宿武蔵野館、渋谷ユーロスペースほか全国で順次公開
監督・脚本:三宅唱
原作:佐藤泰志『きみの鳥はうたえる』(河出書房新社 / クレイン)
音楽:Hi'Spec
出演:
柄本佑
石橋静河
染谷将太
足立智充
山本亜依
柴田貴哉
水間ロン
OMSB
Hi'Spec
渡辺真起子
萩原聖人
上映時間:106分
配給:コピアポア・フィルム、函館シネマアイリス
プロフィール
- 柄本佑(えもと たすく)
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1986年生まれ。東京都出身。2001年、黒木和雄監督の『美しい夏キリシマ』(2003年)の主人公を演じデビュー。近年の主な出演作に映画『まほろ駅前多田便利軒』(大森立嗣監督、2011年)、『横道世之介』(沖田修一監督、2013年)、『GONINサーガ』(石井隆監督、2015年)、『素敵なダイナマイトスキャンダル』(冨永昌敬監督、2018年)、TVドラマ『あさが来た』(2015~2016年)、『コック警部の晩餐会』(2016年)、『スクラップ・アンド・ビルド』(2016年)、『平成細雪』(2018年)、舞台『エドワード二世』(2013年)、『羅生門』(2017)、『秘密の花園』(2018年)など多数。ナレーションを務めるEテレ『やまと尼寺精進日記』も好評を博している。監督作として短編映画『ムーンライト下落合』(2017年)などがある。を発表。主演を務めた舩橋淳監督『ポルトの恋人たち 時の記憶』が2018年11月公開予定。
- 石橋静河(いしばし しずか)
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1994年生まれ。東京都出身。4歳からクラシックバレエをはじめ、2009年より米・ボストン、カナダ・カルガリーにダンス留学後、2013年に帰国し、コンテンポラリーダンサーとして活動を始める。2015年より舞台や映画へ役者として活動の場を広げ、2016年にNODAMAP舞台『逆鱗』に出演。2017年に初主演した『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』(石井裕也監督)でブルーリボン賞新人賞、キネマ旬報ベスト・テン新人女優賞他数多くの新人賞を受賞、一躍注目を集める。その他の映画出演作に『PARKS パークス』(瀬田なつき監督、2017年)、『うつくしいひと サバ?』(行定勲監督、2017年)、 『空からの花火』(大江海監督、2018年)など。またNHK福岡発地域ドラマ『You May Dream』(2018年)でTVドラマ初主演。三宅唱監督の前作『密使と番人』(2017年)では時代劇に初挑戦し、使命を帯びた密使と山の番人の戦いに巻き込まれる女性さち役を演じた。
- 染谷将太(そめたに しょうた)
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1992年生まれ。東京都出身。幼少期から子役として活躍し、2009年に『パンドラの匣』(冨永昌敬監督)で長編映画初主演。『ヒミズ』(園子温監督、2012年)で『ヴェネチア国際映画祭』「マルチェロ・マストロヤンニ賞」(新人俳優賞)を日本人として初受賞。同作と『悪の教典』(三池崇史監督、2012年)で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞する。その他の主な映画出演作に、『寄生獣』『寄生獣 完結編』(山崎貴監督、2014~2015年)、『ストレイヤーズ・クロニクル』(瀬々敬久監督、2015年)、『さよなら歌舞伎町』(廣木隆一監督、2015年)、『聖の青春』(森義隆監督、2016年)、『PARKSパークス』(瀬田なつき監督、2017年)、『予兆 散歩する侵略者』(黒沢清監督、2018年)、『パンク侍、斬られて候』(石井岳龍監督、2018年)など多数。主演を務めた日中合作映画『空海-KU-KAI-美しき王妃の謎』(チェン・カイコー監督、2018年)では全編中国語での演技を披露し話題となった。今後の公開予定作に『泣き虫しょったんの奇跡』(豊田利晃監督、2018年秋公開)他。また自身でも短編『清澄』など映画監督作を発表している。