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「何とかするしかない」では未来がない
「それにしても、この人たちは」と思う。大手SIerはサマータイム導入に伴うシステム対応の問題が取り沙汰されているにもかかわらず、沈黙を守っている。普通、何か言うでしょ。少なくとも「短期間でシステム面での対策が可能か精査する必要がある」ぐらいは言っておかなければならない。だが、SIerの経営幹部らはこれまでも国の政策、官のプロジェクトでは無茶な案件でも表立って異を唱えなかったら、今回も唯々諾々と従うのみなのだろう。
で、「我々は何とかするしかない」として何とかした結果はどうなる。もし大規模なシステム障害が発生すれば、これまでと同様のパターンとなる。つまり担当したSIerが全ての罪を被るのだ。もちろん、トラブルを起こしたのだから担当SIerに責任があって当然だが、全ての罪を被るのは明らかにおかしい。あり得ない短納期のプロジェクトがうまく行くと考えるほうがおかしいのであって、SIerの真の罪は無茶な要求に異を唱えなかったところにあるのだ。
でもまあ、そんなに力んで言わなくてもよいのかもしれない。SIerの経営幹部らは私と同様、やぶから棒のサマータイム導入など土台無理だとして、話半分に受け取っている可能性がある。だとしても、先ほど書いたように「まさか」がある。2019年は5月の改元と11月の消費増税に伴う軽減税率の導入を控えている。SIerの経営幹部らがボーッとしていると、現場の技術者は付加価値がほとんどない改修作業と火消し作業でデスマを歩く一年になりかねない。
実は、もう一つ邪推がある。最近、国際情勢、世界の経済状態の悲観的予想から「東京オリンピック・パラリンピックまで日本経済は大丈夫」との大前提が揺らいでいる。もし日本企業がこれから先、2019年の景気や自社の業績を悲観すればIT投資額を削り込む可能性がある。SIerの経営幹部にその懸念が少しでもあるのなら、サマータイム導入に伴うシステム対応といった案件が良い保険となると考えても不思議ではない。
それはともかく、たとえサマータイム導入が立ち消えになったとしても、このままでは日本政府のリーダー層のITへの無理解が続く。先ほど、力む必要なないと書いたが、やはり力んで言わなければならない。このサマータイム導入騒動はITへの無理解を正す格好の機会なのだから、SIerをはじめIT業界の関係者は声を大にして、言うべき事を言わなければならない。そうでなければ日本のIT革命、今風に言えばデジタル革命、政府の用語で言えば第4次産業革命は絵に描いた餅だ。