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サマータイムは「酷暑の夏の怪」
では、サマータイム導入のためのシステム対応がどれほど大変か、導入後にどれほど重大なシステム障害があるのか。「ありとあらゆるシステムを調べて対策を打たなければならないから工数が膨大になる」「IoT機器の誤動作や夜間バッチの突き抜け問題(サマータイム開始時にバッチ処理が終了できない)などのトラブルが発生する恐れがある」――。そんな様々な予測や憶測が飛び交っているが、正確なところはまだ何も分かっていない。
当たり前である。サマータイム導入案は酷暑のこの夏に突然登場したのだから、システム対応の工数や導入時のリスクの精査はこれからの課題だ。サマータイムを導入するとしたら、開始時期はいつだ。仮に春分の日だとすると、2019年は3月21日だから、あと7カ月もない。導入するためには法制化する必要があるから、2018年秋の臨時国会で法案を提出して議論して……。さて、システム対応のための猶予期間はいったいどれくらい残されているだろうか。
実は、私としてはサマータイムの導入は「無い」と思っている。「酷暑の夏の怪」として出現したサマータイム騒動はやがて蜃気楼(しんきろう)のように消える。システム対応の面だけでなく、あらゆる点で無茶だからだ。特に、1時間ならともかく2時間も時計を早めるのは無茶にも程がある。多くの人の健康を害し、事故も多発するだろう。サマータイムを何となく賛成の人が多いようだが、その問題点が広く知られるようになれば、サマータイム導入の動きは立ち消えになるだろう。
ただし、最近は常識ではあり得ない事がよく起こるので、サマータイム導入が決まってしまうかもしれない。そうなると、システム対応は間に合うのか。これについては悲しい予想しかできない。間に合ってしまうのは確実だからだ。なんせ実際にシステム対応するのは、御用聞きのSIerが率いる人月商売のITベンダーの一群である。特にSIerは官にからっきし弱いと来ている。SIerの経営幹部は「国の方針だから我々としては何とかするしかない」と発奮して何とかしてしまうだろう。
ただし何とかするのはSIerの経営幹部ではなく、現場の技術者たちだ。今は空前の技術者不足で動員できる技術者に限りがあるから、多くの現場は壮絶なデスマーチに陥る。まさに「働き方改革はどこの国の話」といった状況になる。で、何とかシステム対応を間に合わせたら、どうなるか。誰も褒めてくれない。短納期でのシステム対応の困難さも知られることはない。で、日本政府のリーダー層のITへの無理解が続くことになる。