恒常的な人材不足・売り手市場が続く中、あらゆる企業が人材採用に苦戦しています。とくに中小・零細企業ではその傾向が強く、多くの人事・採用担当者が頭を悩ませているようです。一方でITやWeb、SNSの発展とともに次々と新たな採用メディアが生まれているものの「どうやって使えばいいかわからない」という不安もあって、新しいメディアの利用をためらっている方も多いのではないでしょうか。
今回ご紹介する埼玉県のナギ産業株式会社は、シロアリの駆除・予防工事を中心に事業を展開する社員数約100名の企業。今年の1月からDODAによる採用活動を行っていますが、それまではWebの求人メディアを使ったことがなかったとのこと。さらに採用担当者の小曽根さん自身も採用業務に関しては未経験に近い状態だったそうです。そんな小曽根さんに、Webの求人メディアを活用した感想や広告初掲載時の苦労話、その後に行った採用を成功させるためのさまざまな工夫についてお聞きしました。
応募は来たが人は採れない。1回目の掲載は惨憺たる結果に終わった
小曽根氏:昨年9月に私が入社するまでは、社長が自ら採用業務を行っていました。長年、フリーペーパー広告などを使って人を募集していたのですが、最近は応募数が芳しくない状態が続いていたんです。困った社長が中小企業の経営者仲間から「DODAがいいらしいぞ」という話を聞いたらしく、使ってみようかという話になりました。
小曽根氏:採用の目的は欠員補充と事業拡大です。当社の主要事業はシロアリの駆除・予防工事ですが、今後はリフォーム、住宅診断、宅建業などにも事業を広げていく方針です。新しい事業に資金を投資するためには売上が必要ですし、売上を立てるためには営業が必要なので、本社のある埼玉を中心に東京、栃木、群馬、千葉、京都などの各拠点で営業社員を増やしていこうと考えています。
小曽根氏:実はね、まったくなかったんですよ。Webメディアを一度も使ったことがなかったので何もわからなかった。でも、原稿を作るための取材も初めての経験でしたが、事前に打ち合わせもあったし、原稿も丁寧に作り込んでいただけたので、特に不安を感じることはありませんでしたね。そんな感じで今年の1月から2カ月間、営業職の原稿を掲載しました。
小曽根氏:それが…、惨憺たるものでした。全拠点で募集して2カ月で49名の応募が集まって、この数字自体は悪くないと思うのですが。そこから面接に来てくれる方が少なかったですし、面接をして内定を出した方の辞退率も非常に高かったんです。
小曽根氏:20代から60代まで幅広い方からご応募いただいたのですが、実際、メールや電話をしても連絡が取れない人が多く、本気で応募してくれてるのかな、と。一方、面接後の内定辞退に関しては、今振り返ってみると単純に私の面接が下手だったからでしょうね。
小曽根氏:最初は面接まで私がやるつもりはなかったのですが、掲載が始まった後で社長に「面接もやってよ」と言われたんです。まあ、中小企業なのでそんなこともあるんですよ(笑)。会社の説明用資料を受け取って、レクチャーを受けて面接をしたのですが、何しろ採用業務自体が初めてなので何もわかっていない。会社の就業規則や業務内容なんかを画一的に候補者に伝えていただけです。当然、話を聞かされている候補者からすればまったく面白くない。魅力に映らないんですよね。
採用ターゲットを絞り込み、原稿内容を刷新。画一的だった面接対応も改めた
小曽根氏:初回の掲載が終了した後、DODAの担当者からレポートをいただき、当社側でも結果を分析してみました。そうすると色々なことが見えてきたんですね。「もしかしたらここが悪かったんじゃないか…」という私の中で立てた仮説をDODAの担当者に話してみたところ「みなさんそこで苦労されるんですよ」と言われたんです。「やっぱりそうなのか」と納得して、次の掲載までに色々と変えていこうという話になりました。
小曽根氏:大きな課題だと捉えたのは、「ターゲットの設定」と「選考辞退率」でした。
まずは採用ターゲットの絞り込みです。初回掲載のときは20代でも、40代でも、60代でもいいと思っていたのですが、そうすると面接に来る方の年齢層もバラバラで、対応が難しかったんです。初回の掲載レポートを見ると当社の求人広告を閲覧しているのは40代以上の方が多いということがわかった。そこで、狙う層を思い切って40代、50代に絞り込もうと決めました。
小曽根氏:そうです。最初は何も考えていませんでした。とにかく応募数を集めればいいと思っていたんです。だからこそ採用ターゲットを絞る重要性に気付くことができましたね。初回の原稿を改めて振り返ってみるとイメージ先行で非常にフワッとした内容でした。業界の人間だからかもしれませんが、「シロアリ駆除」という内容を全面に押し出すと求職者に毛嫌いされてしまうのではないかという懸念もあって、会社や仕事についてオブラートに包んだような形で作ってしまったんです。誰にとってもあたりの良い雰囲気で作られているため、逆に言うと誰に対してもアピールできていない原稿になっていたようです。
小曽根氏:40代、50代にターゲットを絞ったことによって、誰に何を伝えれば良いかが明確になりました。この原稿では「54歳、営業経験なしで入社した方が成長して一人前になり、しっかり稼いでいます」ということ打ち出しています。この広告内容であれば「自分に向けて書かれている」と共感してくれる方も増えるだろうと考えました。
小曽根氏:画一的な面接は良くないとは思っていたものの私は話が上手くないので(笑)。そこで、相手のキャラクターを見ながら話す内容を変えるようにしました。また、会社や仕事、研修などについては自作のガイドブックを使って説明するようにしました。写真やイラストなども入ったこのガイドブックを使って、会社や仕事、研修、キャリアパス、さらには会社の将来的な方向性についても説明しています。
もちろん一から十まですべて説明するわけではありません。あくまでも相手の反応や人となりを見て話す内容を決めています。営業経験のある人とない人では話す内容も変えますし、「この話にはあまり興味がなさそうだな」と思えば、さらっと流して別の話をすることもありますし、ときにはジョークを交えることもあります。とにかく候補者の方ができるだけ「のめり込んでくれる」面接にしようと心がけました。
小曽根氏:面接と同じように、候補者一人ひとりにあわせた対応をするように心がけました。そのためにも応募があったら必ずその人のWeb履歴書にしっかり目を通して職歴、性別、年齢などを確認するようにしました。例えば「50歳でこの時期に退職しているのであれば、景気の影響があったのかもしれない」というところまで想像し、その上で連絡しています。メールに関しても同じように一人ひとりに対して書き分けて出しています。「自分のことわかってくれている」「自分のために書いてくれている」と思ってもらえれば、候補者は必ず反応してくれます。
小曽根氏:応募からの面接率、内定承諾率なども含め、間違いなく大きな成果が上がりました。これはDODAのレポートを見ても明らかです。初回は2カ月で49応募、1名決定という結果でしたが、4月は1カ月間で25応募、そのうち4名の決定者が出ています。また、初回の応募者の年齢層は22~66歳でしたが、4月の応募者は47~59歳に変化しており、応募者のターゲット層もドンピシャでした。
Web求人広告の結果
応募数 | 合格通知数 | 応募者の年齢層 | |
---|---|---|---|
1回目 | 49名応募(掲載2カ月) | 1名 | 22~66歳 |
項目名2 | 25名応募(掲載1カ月) | 4名 | 47~59歳 |
Webメディアの力を活かすには、自社の採用力を上げる努力が必要
小曽根氏:フリーペーパー広告などに比べると、DODAのようなWebメディアは伝播力が圧倒的に強いと思います。実は沖縄の方からも応募があったんですよ。何かの間違いではないかと思ってご本人に確認をしたところ、群馬の方と結婚するから群馬にIターンできる就職先を探されていたそうです。遠く離れた沖縄の方へも訴求できるのはWebメディアならではでしょうね。
小曽根氏:そうです。初めてのことばかりで本当に何もわかりませんでしたが、1月に求人広告を出したことで、自社の採用における良いことも悪いこともいろいろと理解できました。でも、課題点を見つめ改善し、再度アクションを起こすというPDCAを回せたことで結果につながったのではないかと思っています。
小曽根氏:メディア側の募集力を向上させるためのPDCA、当社が採用力を上げるためのPDCAを同時に回していくことができました。1回やってみてダメだったから…とそこで終わりにせずに2回、3回と続けたことが良かったんでしょうね。
小曽根氏:私もそうですが、中小企業の皆さんはいろんな仕事を兼務しながら採用に取り組んでいらっしゃると思います。そうした中で採用に関する専門知識を学ぶのはなかなか難しいと思うので、DODAのようなメディア、企業に手を貸してもらうことも一つの手だと思います。その一方で会社としての採用力を上げる努力を続ける必要もあるでしょうね。当社もそうですが中小企業には認知・ブランド力がないので、候補者に会社や仕事の良さをしっかり伝え、信用してもらい、魅力を感じてもらうことが必要です。そう考えると採用には営業職のようなスキルが必要なのかもしれません。とにかく採用という仕事は奥が深くて、社会人歴40年程の私もまだまだわからないことがたくさんあります。だからこそ面白いんでしょうけどね(笑)。
【取材後記】
今回のナギ産業の事例をみると中小企業や零細企業であっても、自社の採用力を高めることによって、Webメディアが持つ母集団形成力(募集力)を最大限に活かした採用ができると言えそうです。また、Webメディアの力で人は集められるものの、「実際に入社してもらうためには自社の採用力強化が必要だ」ということに気づき、ターゲットの設定から求人原稿の内容、面接の方法、メールや電話での候補者とのコミュニケーションの取り方まで、あらゆることを工夫して変えていったという小曽根さんのエピソードは、活用するメディアの種類を問わず、自社の採用力に課題を感じている多くの人事・採用担当者にとって参考にできる内容だったのではないでしょうか。
取材・文/佐藤 直己、撮影/石山 慎治、編集/齋藤 裕美子)