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ITへの無理解が相変わらず

 もちろん、実際にサマータイムが導入されるかどうかはまだ決まっていない。それどころか、政府や与党がサマータイム導入の是非について正式に検討をスタートさせたわけでもない。検討の結果、「日本での導入はやはり無理」との判断になるかもしれない。だが、そうであっても、今回のサマータイム騒動は本当にけしからん話だと思う。理由はさっき書いたように、泥縄なうえに日本のリーダー層のIT軽視、というかITへの無理解が相変わらずだからだ。

 「相変わらず」と書いたところで、昔のある出来事を思い出した。今から18年前の2000年、ちょうどネットバブルが膨らみきった頃で、「日本も国を挙げてIT革命に取り組むべし」といった機運に満ちていた時期の話だ。当時の首相は東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の現会長である森喜朗氏だったが、その森氏がIT革命のことを「イット革命」と言ったのだ。「いくら何でも、そこまでITに無理解なのか」と呆然としたのを覚えている。

 一事が万事で、歴代首相をはじめ日本政府のリーダー層で、ITに造詣の深い人にお目にかかった試しがほとんどない。もちろん民間企業の経営者も似たようなものだ。最近でこそ「我が社もデジタルトランスフォーメーションを推進し……」などと発言するようになったが、これまでは「ITの事はよう分からん」と平気でのたまう経営者が多かった。その結果、日本ではIT革命は不発で、米国どころか韓国や中国などの新興国にも後れを取ることになってしまった。

 問題はそれだけではない。新たな法制度や新政策に伴うシステム導入やシステム刷新において、それまでではあり得ない短納期でのシステム開発が常態化してきた。政争などに巻き込まれて法改正がベタ遅れになったにもかかわらず、改正法の施行日は変わらないためだ。国会などで政治家が議論を尽くしてくれるのはよいが、政治家はシステム開発の実態を知らないから、そんな非道がまかり通ってしまうのだ。

 今回のサマータイム騒動もその延長線上にある。そうでなくてもサマータイム対応は時計が絡んで厄介なシステム対応なのに、この時期に突然言い出し、しかも東京オリンピック・パラリンピック本番よりも1年前倒しで実施しようなどと言うのは、ITへの無理解ゆえの暴論である。もう一度きちんと言うが、大会招致が決まった時からサマータイムの検討をはじめ、ITも含めた様々な方面への影響を吟味したうえで、大会1年前の2019年から導入するというのが本来の筋である。