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 何だろうね、この降って湧いたようなサマータイム(夏時間)騒動は。東京オリンピック・パラリンピックの暑さ対策として大会組織委員会が政府に提案したのをきっかけに、「安倍晋三首相がサマータイムの導入を検討するよう自民党に指示する意向」との報道が流れて一気にヒートアップした。当然、IT技術者や学者からは「システム対応が大変」との指摘が数多く出ている。やぶから棒とは、まさにこのことだ。

 私自身はサマータイムの導入自体には反対ではない。数年前から勤務時間を3時間ほど早朝にずらしており、朝早くから働けばいかに生産性が高まるかを実感しているからだ。ただし、社会制度としてのサマータイムは私のような「1人サマータイム」と訳が違う。日本に住む全員の生活が一変する大変革なのだから、導入の是非の議論や準備に少なくとも3年ぐらい費やすのが筋である。もうやぶから棒すぎて訳が分からない。

 東京オリンピック・パラリンピックの招致が決まったのは2013年のことだ。東京の真夏が「命に関わる危険な暑さ」になるのは分かりきったことだから、その時点からサマータイム導入に向けて議論や準備を始めたなら話は分かる。ところが、それから5年たった今ごろになってサマータイム導入論がいきなり浮上してくるのは、いかなることか。日本の酷暑ぶりが世界に伝わり懸念が広がったからとはいえ、あまりに泥縄すぎる。東京オリンピック・パラリンピック開催までもう2年を切っているのだ……。

 「いや、もう1年を切っていますよ」。実は後輩の記者にそう言われて、腰を抜かしそうになった。うかつなことに当初、2019年からサマータイム導入の線で検討されているとは思いもしなかったのだ。確かに、2020年の大会の直前や期間中はそうでなくても大混乱が予想されるから、同時にサマータイムを導入するのは暴挙以外の何物でもない。予行演習として1年前から導入するのは、更なる混乱を避けるための合理的判断ではある。

 だが、混乱を避ける対象にITは入っていない。情報システムの観点でいえば、サマータイム導入を1年前倒しにするのは更なる混乱に拍車をかける愚策だ。IoT(インターネット・オブ・シングズ)の領域も含め、数多くのシステムにサマータイム対応を施すには、あまりに時間が限られている。システム障害やセキュリティ上の問題が多発するリスクも大きいし、対策に動員される技術者は不眠不休の作業を強いられる恐れもある。「何を考えているんだ」と多くの技術者が怒るのも当然である。