酒も飲まず、貯金もゼロ…スーパーボランティア尾畠春夫さんの生き様

私が被災地に行く理由【後編】
週刊現代, 齋藤 剛 プロフィール

ボランティア活動中はお風呂にも入りませんし、シャワーも浴びません。大分に帰って温泉に入る。これは格別です。3時間も4時間も入ってしまいます。これはボランティアを終えた後の楽しみのひとつです。

日常生活はシンプルそのものです。テレビはNHKしか見ません。しかも、情報収集のため30分見るだけ。ただ、地元紙である大分合同新聞は定期購読しています。お気に入りはラジオ深夜便。懐かしの歌が好きですね。

カミさんは旅に出て5年帰ってこない

私は被災地に行ったら「暑い」とは絶対に言わない。もし自分が被災者であったならば、どう思うのか。ボランティアさせていただいているという立場を忘れてはいけません。

当然ですが、言動すべてに気をつける必要があります。赤い服を着ているのもこだわりです。背中には名前が大きく書いてあります。これには理由があり、被災している方は身元がわかるほうが安心するんです。

さらによく話すこと。黙っていると怖いでしょう。赤い服もそうですが、すべては安心感をもってもらうためです。

背中には大きく「尾畠春夫」の文字が

現在の貯金はゼロに等しいですね。年金は月約5万5000円。ここからボランティア活動費を捻出しています。私は商売人ですからカネには執着しています。それはいまも同じです。

ただし、ないものは追っても仕方ない。私は逃げるものは追いかけない主義です。そのときの状況に応じた生活をしているだけです。ここに来るだけでも往復で約1万円かかります。残りは4万円。それに合わせて生活するだけ。ない袖は振れぬ。これを心がけています。

家族の反応なんて気にしません。ただし、ボランティアに出かけるときは、自宅の玄関に『どこどこに行く』と息子と娘への伝言を残して出発しています。

カミさんは、いまは旅に出ている……。一人旅です。「自由にしたい」って。「旅に出たい」と言うから「はい、どうぞ」と。5年前に出かけて……まだ帰ってない。愛想を尽かされたらそれはそれで仕方ない。

 

そもそも、夫婦なんてもともと他人じゃから。ただ惚れて結婚した。憎いとかそんな気持ちはない。いまの家は妻とゆっくり老後を過ごすために購入したものです。カミさんも鍵を持っている。いつでも帰ってこられる状態にしてあります。

息子は公務員です。市役所に勤めています。自分とは真逆の人生を歩んでいる。「魚屋を継いだほうがいいかな」と聞かれたことがあります。そのとき、「お前には継がせないよ」と怒りました。

当たり前ですが、自分の人生は自分で歩むべき。私は子供に対してどうこうしろと言ったことはありません。国民の義務さえ果たしていれば何をしてもいい。