お嬢さんのまま歳を重ねたような、ふわふわとしたかわいらしいお母さんですね。脚本の北川(悦吏子)さんは、「地上から数センチ浮いているような人」とおっしゃっていました(笑)。そして、かなりユニークな人です。会話の途中で金八先生のものまねをやり始めたり。晴さん(松雪泰子)が反応に困っても、和子さんは全く気にせず笑顔です(笑)。
お嬢さんのまま歳を重ねたようなお母さん
萩尾和子を、どんな人物だと感じますか?
和子さんがここまで自然体でいられるのは、弥一さん(谷原章介)の穏やかな愛で大切に守られてきたからだと思います。そして、和子さんにとって息子である律(佐藤 健)はずっと宝物。いくつになっても子離れできない、少し困ったお母さんでもありますね(笑)。
でも、和子さんは晴さんがつらい時には、そっと寄り添ってあげる不思議な包容力を持っていたり、「律は鈴愛ちゃん(永野芽郁)と一緒に(なってくれたら)……」とこぼす弥一さんをたしなめたり、より子さん(石橋静河)をさりげなく気遣ったりする優しさも持っている人です。より子さんを選んだ律を信じ、夫婦関係がうまくいくようにおもんぱかる和子さんには、“母親”を感じました。
病気になっても、和子さんはこのドラマの“明るい側”
和子さんが病気で療養するようになって以降、お芝居ではどんなことを意識しましたか?
余命宣告を受けるほどの病状なので、身体の動きや息づかいについて、指導の医師の方に相談しながらお芝居をやっていました。しゃべる速さも、以前よりゆったりにしています。ただ、死を意識するようになっても、彼女らしさは大切にしたいと思っていました。もちろん、一人でいるときに不安が押し寄せてくるような瞬間はあるでしょうが、誰かと一緒にいるときは明るい笑顔を絶やさないし、相変わらずものまねもやってみせたり(笑)。そのさじ加減が少し難しかったですね。
このドラマは、15分という短い時間の中で、すごく泣かされたと思ったら、直後にクスっと笑わされるようなところがありますよね。そのバランスの中で、和子さんは常に明るい側を担っていると思うんです。律や弥一さんが意識的に明るく振る舞ってくれる一方で、和子さんはそれに応えている部分もあるけれど、相変わらず自然な明るさを持っているんですよね。その“役割”は全うしたいなと思いました。
ただでさえ泣けるシーンなのに、余計に泣けてきてしまいました
岐阜犬(ぎふけん)を通じて律と話をするシーンは、演じてみていかがでしたか?
まず、台本の時点で鳥肌が立ちました。面と向かって言えないことを岐阜犬越しにしゃべるおもしろさというか、岐阜犬のかわいさと切ない会話とのギャップというか。読んでいてすごく温かい気持ちになって、涙が止まりませんでした。
このシーンは撮影も印象的でしたねぇ……。当初は、自宅にいる和子さんの芝居を先に撮り、後日、センキチカフェにいる律の芝居を撮影して組み合わせる予定だったのですが、健さんが「ここは大事なシーンだから」と言って、リアルタイムで一緒にお芝居してくださったんです。健さんは早めに撮影が終わる日だったんですが、翌日も早いのに夜遅くまで残って付き合ってくださって、本番と同じテンションでお芝居をしていただいた健さんに感謝の気持ちで胸がいっぱいになりました。あのシーンで、和子さんに言った「おかあさん」という律の声が、今でも心に深く残っています。
個人的には律より弥一さんが心配です(笑)
和子さんは「生きるのが上手」と言われていましたが、満足して亡くなったと感じますか?
「幸せやった」と言える人生だったんじゃないでしょうか。弥一さんがずっと大事にしてくれたから娘時代の気持ちのままでいられたし、かわいい息子も生まれた。「生きるのが上手」だったのは、周りの支えもあったからだと感じています。
律のことは、より子さんとの関係が微妙ということもあり、心配だったでしょうね。気持ちを内に秘めて、相手に譲ってしまうところがある子なので……。律がちゃんと幸せをつかむまで、もうちょっと見守っていたかったです。
でも個人的には、弥一さんのほうが心配かもしれません。最愛の和子さんを亡くして、律も大阪に戻って、あの大きな家に一人ぼっちで暮らすわけなので……。ずっとそばにいてあげられなかったことが本当に悲しいです。
ちなみに谷原さんは、私が全シーンを撮り終えたときに、サプライズで現場に来てくださって、その優しさに感激しました。その時に「ゆっくり休んでください。弥一は律と二人で頑張ります」とおっしゃっていたので……それなら大丈夫かな(笑)。空から見守りたいと思います。