漆黒の英雄モモン様は王国の英雄なんです! 【アニメ・小説版オーバーロード二次】 作:疑似ほにょぺにょこ
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『コツコツコツ』と鉄靴で床を叩く音が響く。
夜の帳も成りを潜め始める、早朝というにはまだ早い時間。そんな生き物たちが起きるには早すぎる時間は、眠らぬ俺と──
「真に──申し訳ありませんでした──」
今にも死にそうなほどに顔面──いや、全身を蒼白に染め切ったナーベラル・ガンマことナーベにはさほど関係ないものだった。
「それで、ナーベ。お前は何が申し訳ないと思って居るのだ」
『コツコツコツ』
随分と精神抑制が効いては居るものの未だに俺の苛付きは留まることなく、鉄靴の音に変換されて部屋に響き続ける。
この音はナーベにとって死刑宣告が迫ってくる音にでも聞こえているのだろうか。否、彼女──いや、ナザリックに居る者たちにとって『死』というのはただの状態異常の一つにしか過ぎない。そんなものを恐れる者などナザリックには一人としていないだろう。
では何に怯えるのか。
「──モモン様が大事になさっている羽──者を殺そうと──」
「別に大事になどしていない」
本当に、彼女たちは思考が子供だ。怒られたとき、その瞬間の事が悪かったと思い込んでしまうのだ。しかし俺が怒っているのはそこではない。
「では、殺してしまってよろしかったのでしょうか」
「違うぞ、ナーベ。殺す、殺さない以前の問題なのだ」
殺して良かったのか。ならなぜ怒られているのだ。そう疑問が起きたのだろう。俯き続けたナーベの顔が俺を見た。だが俺はそれを断じる。そこではない、と。
再び彼女の頭が落ちる。ナーベなりに必死に考えているのだろうか。それとも俺の裁量を待つだけなのだろうか。
「分からぬか」
「申し訳ありません」
『はぁ』と大きくため息を付く。能力がないわけではない。才がないわけでもない。単純に放棄しているのだ。そして『それ』を理解することすらも放棄している。
それはゲームのNPCとしては正しい行為と言えるのかもしれない。しかし俺が求める姿はそこにはない。ここはゲームではないのだから。
「では問答といこう。ナーベよ。まず、殺すに至った経緯を話すのだ」
「はっ。本日早朝に蒼の薔薇のメンバーを監視していたエイトエッジ・アサシンより、羽虫<ガガンボ>──」
「対象の名称は正しく答えよ。情報の伝達に齟齬が発生するぞ」
「申し訳ありません。──い────いびる──あいが白金の竜王<プラチナム・ドラゴンロード>と接触。その際にモモン様がお作りになられたバックストーリーが虚偽であるという情報を得ました。──このことについては既にアルベド様に報告済みです」
「──続けよ」
「はっ。──その情報をここ、リ・エスティーゼ王国に持ち帰ったいびるあいは蒼の薔薇のチームに稚拙ながらも情報の伝達を行いました」
「そちらの方は私も確認している」
「はい。他にその情報を漏らしている対象はおりません。しかし以後、他者にその情報を流布する可能性があるとし、殺害する。ということに至りました」
なるほど、と頷く。確かに結構危ない状況になっていたようだ。まさか俺がナザリックに戻っている時にこんなことが起こるとは。やはり俺たちがエイトエッジ・アサシンを利用して情報を得るように、斥候系のプレイヤーなり配下なりを使って俺たちの情報を得ていると考えていいだろう。ではなぜ俺たちを泳がせているのか。答えは簡単だ。
「それが罠だとしてもか?」
「罠、ですか?」
「そうだ。まず、本当に我々が周囲に与えた情報が虚偽である事を確信しているならば、なぜ未だに我々は泳がされている。情報を確実に手に入れているのであれば、さっさと捕まえればいい話だ」
「──我らを捕縛できる戦力が相手にあるのでしょうか?」
「戦力など必要ない。我々は『英雄』だ。故に醜聞にとても弱い。正規の方法で『来い』と呼ばれたら、例えその道が断頭台への一本道だとしても拒否できる立場ではないのだからな」
拒否してしまえば待っているのは『犯罪者』という称号だ。しかもヤルダバオトと対等に戦える存在。安く見積もっても『国落とし』の烙印は確定だろう。そうなってしまえば今まで少しづつ積み重ねてきた物は泡となって消えることとなってしまう。
「では、罠を張ったものにとって我らがいび──るあいを殺す事を求めていたという事なのでしょうか」
「先ほども言ったが、殺す殺さないは問題ではない。殺そうとすること自体が必要だったのだ。そもそも、だ。エントマと対等に戦えるレベルの相手が全力で逃げたとして、お前は殺せるのか」
「に、逃げる──ですか?」
やはり。ナーベの頭には相手が逃げる前提で行動していたという考えがなかった。
「そうだ。あれは吸血鬼<ヴァンパイア>の中でも中級の吸血姫<ヴァンパイア・プリンセス>だ。夜こそ最も能力が発揮できる存在だぞ。昼間なら兎も角、なぜそんな時間に寝る必要がある」
「あ──」
やっと気付いたようだ。イビルアイが本当は寝て居なくて、単に寝たふりをしていただけだと。ナーベが攻撃したり、俺がそのままナーベを止めていたら今頃どうなっていたことか。流石に《完全不可知化/パーフェクト・アンノウアブル》を掛けた状態では気付かれていないはずだ。もしあれを看破できるのであればエイトエッジ・アサシンが誰も倒されていない意味が考えられない。
「全て──擬態──」
「そうだ、ナーベ。私の情報が虚偽だと言った白金の竜王も、酒場で蒼の薔薇に情報を漏らしたのも、イビルアイが無防備に寝ている様に装って居たのも全て、我々を嵌めるための罠だったのだよ」
「さ、流石はモモン様です──そこまでお読みになられていたのは──」
「ナーベよ。私は言ったはずだぞ。決して人間を侮るな、とな」
そうはいったものの、水際で止められたのは奇跡に近い。あと数分、アルベドからの情報が遅れていたら今頃牢屋の中か、それともリ・エスティーゼ王国が廃墟と化して俺は目出度く世界の敵<ワールド・エネミー>の仲間入りをしていたかのどちらかだっただろう。
「しかし、なぜ今なのでしょうか」
「違うぞ、ナーベ。なぜ今なのか。ではなく、今しかないからだ」
「今──しか──?」
「明日の任命式にて私──アインズ・ウール・ゴウンは伯爵の位──辺境伯となる。そしてその後発生する大戦を経て発言力は一気に増し、辺境候──いや、大公と言っても差し支えない発言力を得るだろう。そこまで行った者を追い落とすにはどうすればいい。下手に手を出せばリ・エスティーゼ王国そのものが敵になるぞ?」
「だから、辺境伯になる前。今──と」
「そうだ。恐らく今回の黒幕にはプレイヤーが居る。そいつが白金の竜王に情報を流したか、スキルを使って我々の情報が虚偽であるとイビルアイに刷り込ませた。そうすればイビルアイはまずメンバーである蒼の薔薇へ、そしてリーダーであるラキュースよりラナーへと。そしてラナーの父である王へと情報が流れる。そう想定していたのだろう。しかし残念ながらはっきりとした情報を掴んでいないが故にその情報を『わざと』我々にも流した。それによって我らが短絡的な行動を取るよう罠を張ったのだ。そうすればアインズ・ウール・ゴウンが伯爵位を得る前に止めることができる、最大にして最善の方法だと思ったのだろう」
「モ、モモン様が止めて下さらなければ──とんでもないことに──」
ようやく事の重大さに気付いたのだろう。ナーベの身体が『カタカタ』と震え始めた。
「しかし。しかしだ、ナーベ。『この程度』の事。お前たちが至高の41人と呼ぶ我々が経験していないと思うか?この程度、些事である!」
「さ、些事──ですか」
「そうだ。この程度の事、打開できなくて何がアインズ・ウール・ゴウンか。私が怒っているのはな、ナーベ。お前が失敗したからではない。なぜ失敗したのか、そして次に失敗しないようにするにはどうすればいいのかを考えようとしなかったからだ」
「失敗するような私に、次はあるのでしょうか──」
失敗=死。という図式が好きなプレイヤーは確かに多かった。そもそも失敗したらそのまま死に繋がる事が多かったのも要因の一つだろう。しかし、誰も死にたかったわけではない。
「ナーベよ。お前が死した後に誰に尻拭いさせる気だ?」
「え──それは、私よりも能力のあるものに──」
「現在ナザリックで暇をしている者は居ないぞ。お前よりも能力があるものとなれば尚更だ。皆が時間を、休みを惜しみ忙しく働いている。その誰かにお前の負担を全て押し付けるのか?」
「そ、それは──」
死を求めてはならない。死んで最も被害を受けるのは己ではなく、周りなのである。
これはたっち・みーさんの言葉だ。死んでも良い。だが死のうとするな。と。効率を求めなければ死ぬことはある。それは許容する。だが、例え誰かのためであろうと死のうとしてはいけない。と。
皆には皆の役目がある。それはそれぞれが全うすべきことなのだから。
「ナーベよ、逃げるな。死は訪れるものであって求めるものではない。美しき死よりも無様な生を選ぶのだ。生きているということは、次があるという事。挽回できるチャンスがあるという事なのだからな」
「──はい」
「それにだ、ナーベ。今回の事は自分で考えた行動だったのだろう?その事については、私は嬉しく思って居るぞ。お前らしく少々短絡的な行動ではあったがな。『次は』もっと考えて動くのだ。よいな、ナーベ」
「ありがとう──ございます──」
声を押し殺し、泣き始めるナーベを残して部屋を出る。失敗したナーベの尻拭いをしなければならないから。今頃盛大に舌打ちをして、盛大に悪態をついているだろうイビルアイのもとへと。
「ん──」
誰かが優しく私の頭を撫でている。だれだっけ──
ゆるりとまどろむ意識がふとした拍子に一気に覚醒する。嫌な感覚だ。だけど『これ』に助けられたのは一度や二度ではない。
一気に感覚が鋭敏になる。そして気付く。『生者』が居ない。そして髪を透く細く硬い、慣れた感触。それが、モモンさんのものだと一瞬で気付いてしまった。
「起きているのだろう、イビルアイ」
「は、はひ──」
まるで悪戯が成功した子供の様に楽しそうな声。こんな無邪気な声をする人が嘘をつくのだろうか。そもそも千年などという壮大な話を。第一私に嘘をついて何の利点があるのか。利点があるとすれば、私を落とそうとしてちょっと拭かしたとか──
「あ──あうあうあうあう──」
「フフフ──」
私に嘘などついて欲しくはないけれど、私を落とすために手練手管は使ってほしい。それだけで彼の心を独り占めに出来ていると錯覚できるから。
ちらりと彼の表情を伺いみる。顔に表情はないはずなのに、悔しい程に勝ち誇った顔をしているとはっきりとわかってしまう。そう、今私は彼に弄ばれているのだ。
そうだ、私のような田舎娘を落とすために手練手管など使わずとも、彼なら簡単に落とせるだろう。ただ頭を撫でられているだけだというのに、全身に力が入らなくなって下の方が相当イケないことになってしまっている。そんな私に嘘をつく利点など何一つあるはずもない。
「ひぅ──」
『ギシリ』とベッドが鳴る。鎧を付けぬ、一糸纏わぬ姿で彼が私に覆い被さってきたのだ。
駄目だ。まだ何もされていないのに、全身が熔かされている。全てをめちゃくちゃにしてほしいと身体が訴えている。
やっぱりおかしかったんだ。モモンさんは何一つ嘘をついていない。もし本当に嘘だというならば、嘘の情報をモモンさんが刷り込──
「ひやぅっ!?」
「フフフ、どこにも逃がさないぞ?」
モモンさんに覆い被され、抱きしめられ、耳元で囁かれた私にそれ以上何かを考える余裕など欠片ほども残されていなかった。
「もっとお前の顔を見せてくれ──」
いま、この瞬間だけは──
説明、もとい陰謀回続きます。
イビルアイ死んだー!?って思った人いましたか?
きっと鍛われている方々にとってすぐに分かった話ですね。
相変わらず乙女していますうちのイビルアイさん。ちょっとした悩み程度ならば押し倒されぎゅってってされてちょっと囁かれるだけでどうでもよくなります。現代でいうならホストにドハマりしてる感じでしょうか。相手骨なのにネ。
もう少しでこの章も終わります。お題募集は6章が終わるまでです。
まだまだ募集していますので、どしどしご応募ください。
当選された方は私のお気に入りの一人になります。
分かりやすく言うと『先行公開作品』を一般の方より先に読めます。
これから外伝とかも先行公開方式で行きますし、(求める人がいるならですが?)x指定な奴を突っ込みます。xな方は絶対に一般公開しません。私のお気に入りに入っている方のみの公開となります。
また、ほかの関係ない外伝等もお気に入りの方専用のものも出す予定ですので
狙った方が色々良いですよ?(コショ