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『インターステラー』というSF映画がある(2014年公開)。滅びゆく地球にかわる居住地を求め、宇宙へと旅立つ宇宙飛行士たちを描いた壮大な物語だ。
著名な理論物理学者であるキップ・ソーンが科学面を監修し、ワームホール、事象の地平面、特異点など、最新の知見による正確な設定とリアルな映像が大きな話題となった。映画のために作られたブラックホールのCGに基づいて、ソーンらは一編の学術論文まで出している。
映画の舞台は近未来のアメリカだが、「科学」を取り巻く環境は芳しくないという設定だ。NASAは地下への潜伏を余儀なくされ、主人公の娘が通う小学校で使われている教科書には「アポロ11号の月面着陸は、ソ連に対するプロパガンダのための捏造だった」と書かれている。
このシーンを観たとき、私は笑えなかった。「科学を疑う」「客観的事実を軽視する」「理性より感情にしたがう」といった態度の広がりは、実際に世界中で進行している深刻な事態だからだ。
「Post-truth」の時代だなどと、あきらめ顔で受け入れるわけにはいかない。とりわけそれが教育現場にまで浸透すれば、取り返しのつかないことになる。
アメリカという国は、長らくこの問題に直面している。科学技術で世界をリードする一方で、保守的なキリスト教原理主義(とくに聖書を重んじる福音派プロテスタント)の影響力が強い。調査によって数字は異なるが、アメリカ人の3〜4割が今なお進化論を否定しているのだ。
そうした人々が拠りどころとしているのが、「創造論」だ。聖書にあるとおり、世界は神が7日間でつくり、人間を含むすべての生物を生み出したという立場である。ケンタッキー州にある「創造博物館」には、恐竜のいる森で暮らすアダムとイブの像が展示されているそうだ。
創造論に科学風の装いをまとわせた言説を、「創造科学」という。地球の年齢は1万年よりも若いとする「若い地球説」においては、「洪水地質学」が重要な役割を果たしている。世界中に見られる化石を含んだ分厚い地層は、すべて「ノアの洪水」によって短期間に堆積したものだというのだ。
海洋生物がまず泥に埋まり、次に陸上生物、泳ぐことができた哺乳類が最後に沈んだ。化石の層序に関してはこんな説明でごまかしているだけで、46億年にわたる地球史を詳らかにしてきた頑健な放射年代測定データについては無視を決め込んでいる。
このあからさまなニセ科学を初等・中等教育のカリキュラムに取り入れようとする動きが、アメリカでは絶えない。1920年代にはいくつもの州で進化論を教えることが禁じられ、1980年代にはアーカンソー州とルイジアナ州で「進化論と創造科学を同程度に取り扱う」という法律が制定された(その後廃止)。
現在は、創造科学にかわり、「インテリジェント・デザイン論(ID論)」を理科で扱おうという運動が広まっている。ID論とは、「この宇宙や自然は、人智を超えた”知的存在”が”デザイン”している」という仮説だ。生物の進化は認めるものの、そこには”知的存在”の設計や構想、意図があるとする立場である。