メチャうまそうな料理グラフィックを実現した3つのポイント
2018年8月22日~24日の3日間、神奈川県・パシフィコ横浜にて開催されたCEDEC 2018。最終日に行われたセッション、“FINAL FANTASY XVにおける料理 限界に挑んだグラフィック表現とその活用法”の模様をリポートしよう。
セッションの講演者は、Luminous Productionsの3Dキャラクターデザイナーである松尾祐樹氏だ。 2007年にスクウェア・エニックスに入社し、『キングダム ハーツ』シリーズや、『ファイナルファンタジー』シリーズなどに、リアルタイムのキャラクターモデラーとして参加。『ファイナルファンタジーXV』(以下、『FF XV』)ではNPCや料理のアセット制作を担当しており、今回のセッションはその料理制作のテクニック解説がおもな内容となる。超絶クオリティーで大きな話題となった料理表現の手法が明かされるとあって、立ち見も含めて多くの聴講者がひしめく大盛況の講演となった。
セッションでは冒頭、松尾氏のあいさつと自己紹介に続き、料理アセットの作成方法を簡単にまとめた動画を公開。ここではざっくりと、実物の料理を撮影してデータ化し、加工してゲーム内に実装する様子が流された。
続いては、技術的な部分の具体的な説明となった。プレイした方ならご存じかと思うが、『FF XV』では、1日の終わりにキャンプとなり、そこで仲間のキャラクタ―が料理を作ってくれる。この料理の役割について、「ひと言でいうと、ユーザーへのご褒美だと思っています。なのでおいしそうに見せなければならないし、そのためにアップで表現することにしました」と振り返る松尾氏。大きく映すことが必要で、そうなると通常のアセット仕様では難しかったそうだ。そこで、アップに耐えられる品質を求めていくことになる。
さまざまな検証を重ねて松尾氏がたどりついた、品質を上げるために必要な手法の結果は、“良質な素材を用意する”、“データの制約を極力なくす”、“柔らかさと透明感を出す”の3つ。以下はこの3つのポイントに沿った形で、より突っ込んだテクニックが紹介された。
フォトグラメトリーで実物を3Dモデル化
最初のポイントである“良質な素材を用意する”に対して効果的だったのは、フォトグラメトリーだ。これは複数の角度から写真を撮り、解析ソフトを通すことで3Dモデルに再現する技術のこと。松尾氏の場合は、最初は実験的に、スマホアプリで試してみたという。
「大きな固まりを作るという意味では、十分活用できたと思っています。ただ、アップに耐えうるものではなかったので、いろいろと調整する手間がかかりました。そこで、スキャンの精度を上げていくことを模索したわけです」(松尾氏)。
スマホアプリで、スキャンの手法自体は有効だということがわかったので、つぎは撮影環境をしっかりと整える段階に。ちなみに撮影ブースはダンボールと模造紙で自作したそうだが、「かぶせたビニール袋で光量を調節できたり、見た目のわりに、市販のものより使いやすい部分もあったりしました」(松尾氏)とのことだ。
撮影方法は、1周30枚を3段の角度で撮るという、オーソドックスなもの。ここで重要なのが、撮影する実際の料理が、そもそもおいしそうに見えないと話にならないということだ。そこで腕の立つ料理人が必要となったわけだが、「たまたま料理がすごく好きなアートディレクターの方がいまして。彼にすべての料理を作っていただき、お皿の上でディレクションする、ということをやってもらいました」(松尾氏)という。料理は冷めると見た目も悪くなるので、料理中はそばで待機し、完成するとすぐに撮影に臨んだそうだ。こうして、高品質なスキャンデータの作成が実現する運びとなった。
キャラを超えるメモリで料理を再現!?
つぎのポイントは“データの制約を極力なくす”ことだが、スキャンの手法が確立できたため、スキャンデータをそのままCGにすることが可能となった。ちなみに『FF XV』におけるおもな料理アセットのスペックは、5~15万ポリゴン前後で、トータルメモリは100M以下。
「プレイヤーキャラクターのメモリ数が40M以下でしたので、料理1個に対して、キャラクター2.5人分のメモリが当てられていたことになります(笑)。これくらい使えると、デザイナーも余裕を持って作れるわけです」(松尾氏)。
なぜそれだけのメモリを使用できたかというと、料理の登場がキャンプシーンのみだった点が大きいと松尾氏は言う。通常のオープンワールドの舞台とは違うシーンなため、モンスターやNPCといったアセットは必要ない。そのぶん浮いたメモリをたっぷり使うことができたわけだ
続いては、具体的なアセットの制作フローが説明された。まずは元データに多少のリダクションを施すことになるが、これはZbrushの自動機能を活用。
「ここまででベースとなる品質は確保できているのですが、ここからデザイナーがかなりこだわって手を加え、仕上げていきました」と松尾氏。ノーマルマップにディテールを加えたり、スぺキュラ調整で光の照りを出したり、特殊な加工を入れたりすることで、よりおいしく見えることを追求した。
「『FF XV』の料理が注目され、こうして皆さんに興味を持っていただけるのも、そうしたデザイナーたちの努力の賜物かと思います」(松尾氏)。
後の仕上げはシェーダとファズを活用
3つ目のポイントの“柔らかさと透明感を出す”ために重要となったのが、シェーダによる表現だ。『FF XV』の料理では、肌色を表現するSSS(サブサーフェイス・スキャタリング)をベースに、色を選べるように拡張して使用。より柔らかく見せることを実現している。また小籠包のように白くて透明感のあるものに対しては、自己発光の効果を加えることで、くすみを取っておいしそうに見えるような工夫がなされているとのこと。
加えて使用したのが、ファズと呼ばれる技術で、これにより透過している表現がリッチになる。ちなみにイクラや、ガラス瓶などに使われたそうだ。
以上の3ポイントを踏まえて料理を作成し、「ユーザーに気に入ってもらえたことは、結果としてすごく重要だったと思っています」と松尾氏は振り返る。
「キャラクターの美形の定義などは、各国さまざまなのですが、料理がおいしそうと思うのは、世界共通のようです。社内で、よく外国の方に見学ツアーを組んでいるのですが、訪れた方の国の料理をお見せしたりするとすごく喜んでくださりました」(松尾氏)。
また、料理をしっかり再現したことにより、日清食品のカップラーメンとのコラボや、スクウェア・エニックスのカフェで実際にゲームと同様の料理が出せたりといった展開も実現している。これについても松尾氏は、「高品質の料理アセットの作成が、さまざまなお客様に興味を持っていただくきっかけになったのではと思います」と語った。
最後に松尾氏はまとめとして、“出来立ての料理をCGに起こして良質な素材を用意”、“半自動のリダクションでコスト削減と作業時間確保を実現”、“アセットの内容については事前にしっかり交渉”、“おいしそうという感覚は世界共通”と、今回の事例で得たノウハウを総括。大きな拍手に包まれてセッションを終えた。