坂井崇俊編集長による韓国調査レポートです。前編はこちらからご覧下さい。
― 韓国の状況は日本の未来を見ているようで本当に恐ろしいですね。つづいて、著作権の非親告罪化についてはいかがでしょうか。
韓国も日本と同様、当初の著作権は親告罪でした。ところが、2007年の米韓FTAの動きと相まって、営利又は常習の著作権侵害については、非親告罪化されました。今回のTPPにおける著作権の非親告罪化の範囲と比べても、かなり広い範囲で非親告罪化されたといってもいいでしょう。
一つ大きな問題にコピーライトトロールと呼ばれる問題があります。韓国で起きた一つの事件で、チャットで悪口を言われた弁護士が高校生に謝罪金を要求したという事件がありました。これのみで留まれば、大人げないぐらいで済んだのでしょうか、実際のこの弁護士は、その高校生が行っていた著作権侵害をみつけ、その件で刑事告発を行ったのです。
警察からの出頭要請を受けた高校生は、悪口を言った件の謝罪金を弁護士に支払えば、告発が取り消され、事件化されないことを知っていましたが、貧しい家庭で、母親に謝罪金を払ってもらえないとして、飛び降り自殺をしてしまったのです。
このコピーライトトロールの問題は、特に未成年に集中しているようです。小学生・中学生・高校生ごとに示談金の相場が決まっており、警察から、示談を進めるようなことを言われるケースもあるそうです。実際の捜査になると学校に行けなくなったり、色々と不都合がでますから、普通の親は示談金を払って解決させてしまうのだそうです。
また、自身が被っている著作権被害は少ないにも関わらず、別の著作権侵害しているものを見つけ刑事告発をすることで、自分の著作権侵害の民事事件を有利に進めようとするケースもあるそうです。
日本での著作権の非親告罪化の際に懸念されていた、サークル同士の差し合いを超えたところで、問題が起こっています。今後、著作権法が法制化される上で、このコピーライトトロールなどの問題はしっかり念頭に置き見ていく必要があるのでは無いかと思っています。
― なるほど、ありがとうございます。ゲームシャットダウン制についてはいかがでしょうか。
この問題は、ゲーム産業の衰退と通信の秘密という観点から見ていく必要があります。まず、ゲーム産業の衰退の問題です。
強制的シャットダウン制により、韓国では青少年は0~6時の間、韓国内のネットゲームをすることが出来ません。そのため成人も含めた本人確認を厳格にする必要が出てきました。そのシステム開発投資や、逆にユーザーも面倒な韓国内のゲームを避けるという動きが出てきました。その結果、従業員数▲25%、会社数▲30%、市場規模▲22%など、韓国内のゲーム産業は大きな打撃を受けてしまいました。
もう一つが通信の秘密の問題です。これらの本人確認を行う際は従来、住民登録番号(現在ではi-PIN)が使われていました。また、ゲーム以外にも10万人以上の訪問者数がいるサイト(約2,500サイト)にも同様に厳格な本人確認が求められています。日本でいえば、にちゃんねるに書き込みをする時に、マイナンバーが必要になるイメージでしょうか。
日本でも掲示板上の殺人予告などで問題になることはあります。しかし、掲示板の運営者とプロバイダーの協力で書いた人は特定されています。韓国では事件が起こる前から、国家がゲームやネットの履歴を管理したいような意図が見え、恐ろしいことだと思っています。日本でもこういった議論は良く起こります。注視していきたいと思っています。
― 表現の自由を巡って、他に韓国ではどのような問題があるのでしょうか。
冒頭にも少し触れましたが、この図の絵を見てください。テレビの放送画面ですが、手でもっているたばこにモザイクがかけられています。殺人事件でのナイフも同様にモザイクがかけられるようです。タバコ自体は合法ですし、大人のタバコを吸っているのを子どもが見ることもあるでしょう。にもかかわらず、テレビになるとモザイクがかけられてしまうという、なんともおかしな状況になっています。
また、日本のR15程度のコンテンツを韓国では成人でも見ることは出来ないと言われています。日本のDMM-R18を韓国から閲覧しようとすると、警告が出てコンテンツを見ることができません。成人・未成年に関わらずサイトを見ることが出来ないというのは日本では考えられない状況だと言えます。
他にも日本の青少年健全育成基本法に該当する青少年保護法が1997年に成立しました。それを受けて、漫画業界が自主規制を強めた結果、青年雑誌というジャンルが消え、子ども向け教育漫画だけがのこるといういびつな構造になってしまいました。マンガ家も、掲載する側も構想段階で、規制になりそうなものを避けてしまったからです。
また、韓国では名誉毀損が非親告罪であることに関連していくつか問題が起こっています。産経新聞の支局長のセウォール号問題でも、本人は告訴をしていないもの関わらず朴槿恵大統領の名誉毀損の罪ですし、この11月に起こった「帝国の慰安婦」問題でも(誰の名誉が毀損されたかは分かりませんが)名誉毀損で、国家が表現の内容まで介入してきています。
― いろいろな問題が韓国で起こっているのですね。
はい、実際に韓国に行ってきて、規制の怖さを感じましたね。法律が一つ通ってしまうだけで、世の中が大きく変わってしまう。それは、表現の自由という観点からも、産業の振興という意味でも感じました。反面教師というわけではないですが、規制のその先にあるものを見てきて、より一層AFEEの活動に力を入れていかなければと感じました。
― 今日はありがとうございました。
*韓国の国会にて。左から坂井崇俊(AFEE編集長)、山田太郎参議院議員(AFEE名誉顧問)、荻野幸太郎(うぐいすリボン理事)、朴景信教授(オープンネット理事)