ドキュメンタリーの鬼才が語る、富と欲望の果て。
タイムシェアビジネスで巨万の富を得たものの、2008年の金融危機によりすべてを失ったアメリカ人実業家のデヴィッド・シーゲルは、ローレン・グリーンフールドによるドキュメンタリー『The Queen of Versailles (大富豪の華麗なる転落)』(2014年)のなかで、そう言い放った。そして、こう続けた。
「お金は人を幸せにしない。お金があっても富裕層の街の中で、不幸になるだけだ」
この言葉がきっかけとなり、グリーンフィールドは自身の永遠のテーマであった「富の影響」の実態について、さらに掘り下げることを決めた。そうして完成されたのが、最新作となるドキュメンタリー映画『Generation Wealth (富の世代)』だ。
アメリカの“公務員のトップ”といえる大統領が不動産実業家であり、リアリティー番組のスターであり、24金の塗装が施されたペントハウスの所有者である、今という時代は、大企業が政治を動かす資本主義=コーポレート・キャピタリズム(Coporate Capitalism)の極みだ。アメリカだけではない。アメリカの延長線上にある他の西洋諸国は、もはや、経済体制における道徳的指針を見失ってしまっている。
しかし、それをインスタグラムのせいにしてはいけない。90年代以降、グリーンフィールドは写真家、映像作家として、マテリアリズムやセレブ崇拝、人々の自己顕示欲について、作品を通して世に問いかけてきた。
97年に発表された彼女の初の写真集『Fast Forward: Growing up in the Shadow of Hollywood(早送りの人生:ハリウッドの影に育って)』では、メディア漬けの生活を送る現代の子どもたちが、子どもらしさを早々に失っていく実態を描きとった。
以降も彼女は、ユースカルチャー、ジェンダー、消費主義などをテーマに、写真集『Girl Culture』やドキュメンタリー作品『Thin』、『Kids Money』、『The Queen of Versailles(大富豪の華麗なる転落)』といった作品を次々に発表してきた。
「2008年の世界金融危機が起きて初めて、私の関心をとらえて離さなかった様々な事象に、共通のテーマを見い出すことができた。それらは同じテーマを持つ物語の一部であり、私の作品に登場する登場人物たちは、同じ過ちを犯し、不思議なほど類似した結果に苦しんでいた」
『The Queen of Versailles(大富豪の華麗なる転落)』の被写体となったシーゲルと妻のジャッキーは、アメリカ最大の私邸を建設していたが、最終的には、差し押さえられてしまう。
最新作である『Generation Wealth(富の世代)』には、FBIに追われ、アメリカで225年の実刑判決を受けた元ヘッジファンドマネージャーのフロリアン・ホムや、俳優チャーリー・シーンとの36時間におよぶ乱痴気騒ぎで有名になった元チアリーダーでポルノ女優のケイシー・ジョーダン(依存症に陥った末に破産)などが登場する。
こうした登場人物たちに共通するのは、コーポレートキャピタリズムにおける国際金融システムへの関与や、日常的なマスメディア依存、それに派生する自己の商品化だ。その意味でも、世界金融危機は一つの教訓であり、グリーンフィールドが記録しなければならないテーマだった。
しかし皮肉なことに、グリーンフィールド自身が、制作の過程であるパターンに陥っていることに気づく。
「次第に、仕事に対する倫理観が強迫観念と化していったことに気づいたわ。つまり、多くのもの(取材)を得れば得るほど、より多くを得たいと思うようになり、それが必要だと思えば思うほど、家族との貴重な生活が犠牲になっていった。これは、私が被写体としてきた人々が抱える社会の病と、まったく同質の病だった」
ドキュメンタリーに登場する人々は、よりわかりやすい破壊的な衝動や野望を持っていたが、中毒的な行動という観点では、確かに同じだ。グリーンフィールドが求めるのは、金銭や完璧な体型ではないが、絶えず“より多く”を探し求めていたのだ。仕事とその延長線上にある成功に対する中毒という意味では、多かれ少なかれ、誰も危険な夢を追っているといえるのだ。
絶えずより多くを求める行動には、終わりがない。その代償として、家族やコミュニティ、信条、幸福といった、自分たらしめる大切なものを失い、行き先はついに断たれるのだ。
この映画製作の過程において、グリーンフィールドは折に触れて、西洋文化の衰退を目の当たりにしているような感覚に陥ったという。私たちがこのまま同じ道を歩み続けた場合、未来は持続不可能なものとなるだろう。経済、環境、家族、コミュニティ、精神など、すべてが少しずつ壊れていくはずだ。
しかし、希望がないわけではない。グリーンフィールド作品に登場する、2008年の金融危機で人生を狂わされた多くの人々のように、悲惨な状況の中でも変化の可能性を見出すことができれば、私たちは未来を取り戻すことができるかもしれない。依存症から脱却するには、一度、どん底を経験する必要があるのだ。そして今こそ、真っ向から対峙する必要がある。手遅れになる前に。
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