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【社会】

<憲法を見つめて 住民投票の教訓>(上)大阪都構想 規制なき広告、市民分断

 「住民投票に名を借りた市民の分断だった。二度とやりたくない」。「fusae」の名で市民運動をする大阪市の女性(48)がため息交じりに振り返るのは、大阪都構想の是非を問うた二〇一五年の住民投票だ。

 都構想は大阪市を廃止して特別区に分割する制度改革だ。提唱者の前大阪市長・橋下徹(49)の言葉を借りれば、住民投票は政治生命をかけた「戦(いくさ)」だった。結果は反対が賛成をわずかに上回り、敗れた橋下は政界を引退した。

 都構想に反対したfusaeにとっては勝ち戦だったにもかかわらず、住民投票を嫌悪する。「都構想は住民が望んだのではなく、橋下のトップダウン。正しい情報が行き渡らないまま、その是非よりも橋下か反橋下で判断を迫られた」

 橋下は都構想の住民投票を「憲法改正の予行練習」と位置づけた。改憲に前のめりなのは、橋下と気脈を通じる首相の安倍晋三(63)だ。fusaeは「大阪市民の生活が改憲の実験台にされた。改憲の国民投票では国民が分断されるのではないか」と危ぶむ。

 都構想の住民投票は国民投票と似ている。都構想をにらんで一二年に成立した大都市地域特別区設置法に基づき、国民投票と同様に法的拘束力を持つ。いずれも選挙より制約が少なく、運動費用やビラ、ポスターの作製・配布は無制限だ。

 住民投票では賛成、反対のキャンペーンが過熱した。橋下率いる維新は広告費に数億円をつぎ込んだとされ、橋下自身が登場するテレビCMを投票当日まで大量に流した。映像と音声を伴うCMの影響は大きく、無制限に認めれば、資金力のある側が有利になりかねない。国民投票の場合、賛否を呼びかけるCMは投票の十四日前から禁じられるが、それ以前は自由だ。

 「運動を無制限にやったからこそ、大阪ではかつてないほど高い投票率(66・83%)になった。大阪の民度は日本で一番上がったんちゃうんかな」と語るのは、大阪維新の会幹事長で大阪府議の今井豊(61)だ。

 その今井も、資金力の有無が賛否を左右する可能性は否定しない。国民投票では自民党と共闘するかもしれない。「自民党はなんぼでも金あるやん。その差は絶対に出てきますよ」

 住民投票や海外の国民投票に詳しいジャーナリストの今井一(64)は「CMは、自分は影響を受けていないと思っても、無意識のうちに影響を受けてしまう怖さがある」とCM規制の必要性を訴える。

 その上で国民的議論の広がりに期待する。「いま一番やらなければいけないのは議論の場を設けることだ。安倍改憲に賛成の人と反対の人が毎月のように討論会を開き、直接意見を戦わせてほしい」 =敬称略

 ◇    ◇ 

 日本では国民投票の経験はないが、地方では住民投票が四百件以上も行われている。国民が議員を介さず、自ら一票を投じて国や自治体の意思決定に参加する直接民主制とはどういうものか。改憲が大きな争点になりそうな九月の自民党総裁選を前に、住民投票の経験から考える。 (佐藤圭)

<憲法改正手続き> 憲法96条は、衆参各院の総議員の3分の2以上の賛成で国会が改憲案を発議し、国民投票で過半数の賛成を得る必要があると定めている。この手続きを具体化した国民投票法が第1次安倍内閣の2007年に成立した。国民投票は、発議後60日から180日以内で国会が議決した日に実施。投票権者は18歳以上。有効投票の過半数で改憲案は成立する。

 

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