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2018年08月25日 10時50分 JST | 更新 14時間前

中学生に避妊の方法を教えるフランスの性教育。日本との違いは?

幼稚園児から高校生まで「性と愛情表現」を学んでいます。

3月、東京都足立区の中学校の授業で行われた性教育が、都教育委員会から「不適切」という指摘を受けた事件があった。理由は、授業が「性交」や「避妊」に言及しており、中学の学習指導要領の範囲を超えているということだった。

しかし、それでは、教育現場は、あまりに子どもたちのリアルな生活とかけ離れてしまうのではないだろうか? 子どもたちは、ネット上のAV動画に無料で24時間アクセスでき、風俗店の宣伝など、商品化された性が溢れる社会に生きている。疑問を持たないないはずがない。

学校で「性とは何か」の説明を受けるチャンスを与えてあげなければ、子どもたちはネットで情報を探すことになる。有象無象の間違った情報を鵜呑みにして、大人になっていくかもしれない。

筆者の暮らすフランスの性教育は、日本とは大きく異なる。子どもたちの実生活に寄り添い、「性とは何か」や「性に関する自分の権利」を伝える性教育の現場をレポートする。

エイズ撲滅のポスターが街中に

フランスの街中では、巨大なエイズ撲滅運動のポスターをよく目にする。

Prado Natsuki

最近、パリ市で掲出されたポスターは「パリ市を、エイズを心配しないでセックスできる街にしよう」というものだ。

1980年代後半、エイズ感染者数が増加したこともあるだろう。フランスではエイズは他人事ではない。

7月23日版のル・モンド紙は、「今日開催されたアムステルダム市での国際エイズ予防会議で、資金不足ゆえ、エイズ感染が急速に増大する恐れがある」と報道した。

幼稚園児から高校生まで「性と愛情表現」を学ぶ

パリ市

フランスでは1980年代後半にエイズ患者が拡大した「エイズ・パニック」の結果、1995年から性教育が中学生の義務教育に組み込まれ、学校でコンドームの着用を教えるようになった。

実際には、資金や時間、校長の方針などによって全ての学校で守られているわけではないが、2003年からは、幼稚園児から高校生を対象に「性と愛情生活に関する授業」という名称で教えられ、性だけではなく愛情表現にも言及する授業になった。

講師を勤めるのは、多くの場合、医師、看護師、そして「プランニング・ファミリアル」と呼ばれる家庭計画センターの職員だ。

どんな授業が行われているのだろうか。1950年代後半に中絶とピルの合法化を求める運動を担い、性教育の普及や性暴力対策、性病予防のための知識を普及する団体「ONG」の副会長、キャロリン・レビーさんに聞いた。

――どのように授業するのですか?

基本的に私たちは、子供達が疑問に思っていることに答えると言う姿勢です。だから、まず、疑問に思っていることをなんでも質問してもらう。タブーはありません。

字が書ける年頃からは、質問を匿名で書かせて箱に入れて、そこから講師が任意に選んだ質問に答え、生徒に話し合わさせる方法をとります。

――どういう質問が多いですか?

幼稚園から小学校低学年の場合は、圧倒的に「赤ちゃんどうやってできるの? どこから出てくるの?」です。小学校高学年になると、「友達と恋人の違いって何?」、それから「男性の仕事、女性の仕事ってあるの?」という「らしさ」についての質問が多い。

中学生になると、性暴力、ポルノ映画に関する質問が多いかな。「セックスは絶対20分しなきゃいけないんですか?」とかね。要するに、彼らは何が普通なのか、何が良くて何が悪いかを知りたがる。

高校生になると、もうポルノ映画はフィクションだということがわかっている生徒が多い。だからセクハラ、性的同意、男女平等、性的権利について話します。

――子供たちの反応は?

最初は嫌がりますよ。中学生の女の子は、「私、セックスしないから関係ないもん」とか言って耳塞いでたり、ずっと横向いたままだったり。男の子は、大笑いしたり騒いで授業の邪魔したり。

そういう時は、「個人的なことを質問するわけではなくて、一般的に社会ではどのように性を捉えるか、どんなルールがあるかを話し合うんです」と言うとおとなしくなる。

そして、「もし個人的な相談がある人は、授業の後で、あるいはプランニング・ファミリアルに来てね。無料で産婦人科の診察を受けたり、ピルやコンドームをもらえ、親に知られたくなければ秘密は守られますよ」と付け加えます。

――保護者の反応はどうですか?

ほとんどは、「家庭では言いにくいこと言ってくれて助かる」と言ってくれます。

ただ、「性について教育すると、子どもたちは、性的にだらしなくなる」と、ネット上で性教育をやめさせる署名を集める宗教的に原理主義の人々、特にカトリック系の極右派もいますよ。

――#MeTooは子どもたちにも影響を与えましたか?

#MeToo以来、中学校、高校では校内セクハラ、また路上でのセクハラについての議論が増えています。

例えば、南部の公立高校では、スカートで登校する女子生徒が校内セクハラにあったために、学校側がスカートでの登校を禁止した。ところが女子生徒たちが「改めるべきは男子生徒の態度。私たちには自分が着たい服で登校する権利がある」とデモをしました。

# MeToo運動はまだ若い、頭が柔軟な未成年の子どもたちの意識も促したと言う点では、貴重なムーブメントだったと思います。

「相手の同意がない限りレイプ」実際の授業は?

Le Planning Familial
プランニング・ファミリアルの授業風景

実際の授業風景を紹介したいが、残念ながら、フランスでは授業参観がないので、動画を参考にする。

テレグラム紙の電子版に、ブルターニュ地方ドアルドネ市での高校生を対象にした授業風景が動画で紹介されている。

その授業は、匿名で出す質問に対してプランニング・ファミリアルから送られてきた講師が答えるというもの。レイプに関する質問について、経験たっぷりの年配の女性講師は、まず法的定義について話した。定義がわかっていなければ、自分が被害にあっていることもわからず「なんとなく言いなりになってしまった」という事態になってしまったり、また、加害者になっていることも理解できないからだ。

「法的には、膣、肛門、口を通して相手の身体内に同意なしに侵入することは、レイプとみなされます。ペニスだけではなくて、指や物を入れることも、相手の同意がない限りレイプですよ」

もう大人の体格をした高校生の男の子たちは、居心地の悪さを隠すためか、「えーー口もなの!」と言ってダミ声で大笑いする。

しかし、講師が「被害者が未成年ならば、成人してから20年間、成人なら被害を受けてから10年間、訴えることができます」と伝えると、「時効が長いんだねえ」とシーンとなる。(8月1日に採択された「性暴力と性差別に関する法」では、未成年に対するレイプの時効は30年に延長、すなわち48歳まで訴えることができるようになった

もう一つの動画は、France3局のニュースで放映されたもの。ポワチエ市の高校で16歳を対象にした授業だ。

40年間プランニング・ファミリアルで働いてきた講師フランソワーズさんが、女性の身体の構造について教える。そして最後に復習。

「女性の生殖器はなんて言いますか? さあ、みんなで言ってみましょう!」

そこでみんなで、男の子も声を合わせて大きな声でハッキリ「ヴ、ル、ヴ!」と言う。笑っている生徒もいるがそれでもいい。科学的な正式な名称を、口に出しにくてもハッキリ言うことは、性は下品なこと、コソコソしなくてはいけないことという偏見をなくす第一歩だからだ。

講師は、「パートナーの身体の構造を知ることは、パートナーを尊重する第一歩。特に女の子には自分の身体のことを、例えばクリトリスは何か、どこにあるか知らない子どもが多すぎる」と言う。

「性に関する自分の権利を知る」

franckreporter via Getty Images

ここで注目したいのは、フランスでの性教育は必ずしも、自分だけのことと捉えられているわけではなく、「他者との関係」と捉えられていることである。

性に関する知識を学び、自分の権利を知る場でもあるが、それを他者との関係性において、社会の中で捉えるということである。だから、避妊は女性だけの問題ではなく、男女両方の問題として男女一緒に学ぶ。

女性の身体について男子生徒も学び、女の子は自分が受けた校内セクハラをみんなの前で話し、そうした発言を通して、男の子も自分の軽々しい言動を自覚する。

「まずは、性に関する自分の権利を知ること。それが、性暴力やセクハラを減少させるまず第一歩です。子どもに対する性暴力の早期発見にもつながります」と、レビーさんは語る。

授業中に「身体は自分のもの」と教えると、「でも、僕のおじさんは、僕のペニスを触ったよ」と言い出すような子供がいるからだ。ペドフィリー(小児愛)の早期発見につながり、警察に被害を通報することもあるのだ。

フランスには、挨拶がわりにハグをし、頰にキスをする習慣(ビズと言う)がある。この辺りの距離感は、スキンシップが多いお国柄なのでとても難しいが、学校では、「相手が大人であろうと先生であろうと、イヤなことは、はっきり拒否すること」と、子ども達に自分の権利を教えている。

prado natsuki
薬局で無料でもらえる性教育の小冊子には、コンドームがついている。

日本の性教育はどうなるのか

フランスでも、これまでに性教育を義務とするまでには大きな戦いがあった。60年代末から70年にかけての学生運動、1967年のピル解禁、1975年の中絶合法化を経て、性は「権利」として意識されるようになった。

70年代に、性教育に関するパンフレットを書いた医者が職務停止処分を受けたり、性について高校生(?)に話した哲学教師が逮捕される事件を経て、ようやく学校での性教育が始まったが、当時はあくまで各学校が自発的に行う課外授業というものだった。

義務教育となったのは80年代末からエイズパニックが起きた後のこと。そこに至るまでには、エイズ撲滅運動協会が高校に乱入してコンドームを配布する運動も行われた。この様子は、2017年にカンヌ映画祭でグランプリを受賞した「BMP ビート・パー・ミニット」で描かれている。

フランスの性教育は"棚からボタ餅"のように労せずによいものが降ってきたわけではなく、市民が要請し、デモをし、非合法なこともあえて行動した結果、獲得されたものである。

これから日本の性教育はどうするのだろう? セクハラ、性暴力、望まない妊娠.....。性にまつわる問題は山積みである。教育の現場でも早期教育が必要ではないだろうか?

「教育委員会から指摘があるから......」では何も進んでいかない。民主主義の主権は私たちにある。子どもたちのために、何かできるかを考えていくべきだろう。

(文:プラド夏樹 編集:笹川かおり)

プラド夏樹さんの新刊『フランス人の性 なぜ「#MeToo」への反対が起きたのか』(光文社新書)が発売中。

プラド夏樹/光文社

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