こんにちは。
本日のテーマは「週刊少年ジャンプ」。昨年から創刊50周年ということで様々な企画やイベントなどを日本各地で行っているみたいですが、最近僕は「少年ジャンプ、また黄金期がやってきたのかもな」と思っています。なにせ、連載作品のジャンルが幅広く、おもしろい!一時期、主人公が「最強の敵を倒す」たびにまた別の「最強の敵」が金太郎飴みたく次々出てくるだけの漫画が隆盛だった頃はこの雑誌を見限っていたんだけど、その傾向がだんだん薄くなってきているように感じます。そんな最近イチオシの作品がこの「アクタージュ act-age」
子どもの頃から家庭環境により孤独を感じていた少女「夜凪景(よなぎけい)」は、自宅の押し入れにあった大量の名画ビデオを繰り返し見続けているうちに現実と物語の境界を自由に歩けるような危うさを身に着けた。その特異な才能を若手監督に発掘されて、景は女優の道を進んでいく。という漫画。連載当初は雑誌の掲載順が後ろだったため10数回で打ち切りかな。と思っていたらいつの間にやら注目度が高まっていき、最近作者はananの取材も受けています。
この他には物語冒頭でアットホームな孤児院の話かと思いきや、急転直下サスペンスサバイバルホラーだった「約束のネバーランド」もおすすめ。
少年たちの知力を駆使した人間を食らう鬼やその配下の人間たちと頭脳戦 / 心理戦は大人が読んでも手に汗握るほど質が高い。
後、地球にいた現代人全員がいきなり石化して数千年。科学知識の豊富な少年がついに石化から目覚め、ほぼ原始時代に戻った日本で科学の力を使い、文明をやり直そうとする壮大なSF物語「Dr.STONE(ドクターストーン)」も濃い。身の回りにあるものを材料に膨大な科学知識で酒やサルファ剤、水力発電や電池などを次々に開発。最近では蒸気機関を使った車や電話まで出てくるありさま。あまりにも荒唐無稽なんだけど、材料に含まれている化学成分などを説明に交えているので妙に説得力があるのが面白い。この先、作品で携帯ゲーム機を作ろう!という展開になっても僕はたぶん驚きません。
こんな具合に、今までの「友情」「努力」「勝利」をテーマに主人公と敵が、単純にボコボコ殴って戦ったり試合したりするのがメインだった雑誌に、このような以前だったら「本流から外れた邪道」扱いされていた作品が多く並ぶようになってきているのです。たぶんその大きな理由は「みんな戦いに飽きたから」「際限のない戦いを続ける作品に疲れた」からだろうと僕は思います。
80年代から数年前のジャンプは前述したとおりエンドレスの戦いや試合などを続ける作品が中心でした。最強とされるラスボスとの戦いを連載を長引かせるため数ヶ月にわたって長引かせたり、やっと倒したと思いきやその「最強を超える最強」という敵の出現によってまたエンドレスな戦いスタート。その敵を倒したら「また最強を越えた最強をさらに上回る最強」なラスボスの出現で戦いが始まって、苦戦の末勝利。そしてまた「今までの敵と次元の違うラスボスの出現」。そりゃ読者も「お前らいい加減にしろ」と怒鳴ってやりたくもなりますよ。そういう意味では現在の少年ジャンプには「ドラゴンボールの孫悟空」や「北斗の拳」のケンシロウみたく、具体的な目標もなく戦いをつづける主人公ってあまりいません。「ONE PIECE」のルフィは海賊王になることが目的だし、その他のバトル作品も倒すべき敵を大目標に掲げているため、それを打倒したら物語も完結になることは想像できます。ただその目標達成を長引かせる努力を編集部は続けるだろうけれど。ついでにいっておくと、この際限のないインフレバトルの隘路で迷走中の作品が「食欲+性欲」をコンセプトに、料理勝負で負けた方がヌードになる「食戟のソーマ」。主人公が通う学校で最強の実力者「十傑」打倒を果たした後、物語において世界最高峰の実力者である主人公の父親を破った「闇の料理人」との戦い編に入り、人気が落ちてきているのか掲載の順序も雑誌の後ろ側になってきております。これはソーマが料理漫画でありながら「学園漫画」でもあったため、学園で最強となった主人公に対して読者が燃え尽き症候群みたいな心境になっているためと考えています。この作品の人気を長引かせたいんだったら海外にあるライバル校との戦いや、かつて戦ったOBたちを超える実力者集団みたく敵のランクをもう少しだけ下げるべきでした。ま、どうでもいいけど。
80年代~平成という時代はまだ高度成長期のメンタリティーを僕ら日本人はどこかで引きずっており「努力すればするほど成長できる。夢もかなえられる」と、信じられた時代でした。だけどこの数年で、僕らはその『成長』は幻想と気づいてしまった。マンガのキャラみたいに際限のない成長なんてありえないよ。という現実に対して戦えば戦うほど強くなっていく主人公。このギャップにみんなは疲れて飽きたのだろう。それだったら最初から目標を設定して戦い、主人公がその目標の進捗によって相応の成長を遂げて目標を達成する。その方がリアリティもあって共感できるからこそ無制限バトル漫画作品は減り、戦いや様々な経験を通じて成長を果たしていく「目標達成漫画」は今後も増えていくのでしょう、たぶん。
結果的にジャンプの漫画は怒涛の如き勢いと爽快感、なんともいえないカタルシスを捨ててリアリズムと説得力、ドラマ性を手にしたとも言えます。嘗て600万部以上売っていた頃よりも雑誌売り上げは下がっているけど、作品の質は間違いなくその頃よりも上がっている。作品のクオリティという意味で現在のジャンプは今また黄金期だと思うけど、その根底にあるものが述べてきた通り「成長」という名のイデオロギーからの脱却だったとしたら、それはこの国の成熟というか老いであるといえるのかも知れません。
「少年ジャンプ」黄金のキセキ [ 後藤 広喜 ]
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