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【FGO】ゲオルギウスの冤罪剣はほんとうに「冤罪」か?

st george2
(Yates Thompson MS 3 f274v)



 『Fate Grand Order』のゲオルギウス先生の宝具についての考察です。
 ざっと見たところ誰も言及してなかったようなのでメモ程度に残しておきます。だいぶ調べは甘いのでご容赦ください。

 
なお、型月作品については基本的に無知です。
 トンチンカンなことを言ってしまっているやもしれません。ほんとごめん。





 ① 汝は竜なりや?

 FGOにおけるゲオルギウスの宝具「力屠る祝福の剣(アスカロン)」は、誰でも彼でも「竜属性付与」効果があることから冤罪ソードと呼ばれることがありますね。
 竜属性付与の宝具名は、『Fate/Apocrypha』の企画段階では「汝は竜なり(アヴィスス・ドラコーニス)」だったそうです。
 以下はTYPE-MOON wikiからの引用です。


汝は竜なり(アヴィスス・ドラコーニス)

ランク:B
種別:対軍宝具
レンジ:1~99
最大捕捉:1000人
対象を一時的に竜種へと変える対軍宝具。
見た目は赤い十字が描かれたサーコートだが、厳密にはゲオルギウスの堅固なる信仰そのものであり、サーコートは宝具を発動させるための焦点にすぎない。
『Grand Order』では力屠る祝福の剣にこの能力が付与されている



 しかしなぜ、アヴィスス・ドラコーニス(Abyssus Draconis)=「淵の竜」が「竜属性の付与」になるのでしょうか?
 実は、きちんとした元ネタが存在しているのです。






 ② 深淵に棲まいし竜



 さて、まずは聖ゲオルギウスの伝説について触れておくのが定石でしょう。知っている方は読み飛ばしてください。
 以下に挙げるのは聖ゲオルギウスの名声を高めた聖人列伝『黄金伝説』。ヤコブス・デ・ウォラギネによって編纂されたこの書は中世ヨーロッパにおいて広く読まれ、キリスト教文学や美術など、様々なイメージの源泉となっていました。ここでは最もよく知られたバージョンを取り上げます。

 

《 聖ゲオルギウスはカッパドキア生まれの武将である。
 あるときリビア州のシレナにやってきたが、そこの潟には毒でもって大気を汚す竜が棲んでいた。市民は竜の怒りを鎮めるために羊を差し出していたが、やがて羊が足りなくなると、人間の子供を生贄にするようになった。

 ある日、とうとう王の一人娘がくじに当たってしまった。王は悲嘆に暮れ、泣く泣く娘を竜のすみかへと送り出した。
 そこに聖ゲオルギウスがやってきて、湖のそばで泣いている娘を発見した。わけを尋ねるが、娘は「他人を巻き込みたくないから、早くお行きなさい」という。しかし聖者は「どうなさったのかをおっしゃっていただくまでは、一歩もこの場から動きません」としつこく質問責めにする。その間にも湖より竜が現れ、首をもたげていた。聖ゲオルギウスは馬に飛び乗ると竜に向かって槍を振るい、えいと地面に叩きつけた。聖者は娘に言った。「あなたの帯を竜の顎にかけなさい。」すると竜はまるで犬のようにおとなしく娘のあとについて従った。

 そのまま街まで竜を引いてくると当然ながら市民は大パニック。
 聖者は言った。「あなたがたを竜から解放した代償をいただきに来ました。キリストのみを信じ、洗礼を受ければ、竜を殺してみせましょう。」 そこで王や市民はこぞって改宗した。聖ゲオルギウスは剣を抜き払って竜にとどめを刺した。
 竜の死骸は四頭の牛に牽かれて市外へと運び出された。王は聖ゲオルギウスに褒美を与えたが、聖者はすべて貧民に配ってしまった。最後に王に接吻して去っていった。
 

 さて、時はディオクレティアヌス帝の治世。キリスト教の迫害が猖獗を極め、恐れを成した信者は異教の偶像を崇拝する始末。これを見かねた聖ゲオルギウスは騎士としての装備をすべて売り払って貧民に与えると、代わりに僧服に袖を通した。

 かの地の太守・ダキアヌスは聖者に棄教を迫るが失敗。ならばと今度は棍棒や熱した鉄串で体を砕き、木に吊るし挙げて、刃で脇腹を切り裂き、露わになった臓腑に塩をすりこんだ。しかし、傷は主の力によって癒され無事であった。
 拷問に失敗したダキアヌスは、今度はお抱えの魔術師を呼びつけた。魔術師はワインに毒を盛って聖ゲオルギウスに勧めるが、何ともなかった。その様子を見た魔術師は足元に跪き、キリスト教徒にしてくれるよう嘆願した。ダキアヌスは魔術師の改宗を知り、即刻首を刎ねさせた。

 あくる日、ダキアヌスは両刃の剣が並んだ車輪でもって聖者を轢かせたが、壊れたのは車輪の方であった。今度は煮えたぎる鉛でもって釜茹でにした。しかし、主の加護のおかげで風呂に浸かっている如き心地であった。
 ダキアヌスは身体への攻撃が失敗に終わると、今度は言葉巧みに改宗を迫る。聖ゲオルギウスは言われた通りに偶像の前に跪いて祈るような恰好をした。すると天から火が降り注ぎ、異教の寺院や僧侶を焼き尽くした。これを見たダキアヌスの妻はキリスト教徒になった。

 翌日、ダキアヌスは聖ゲオルギウスを市中引き回しの上、打ち首の刑にした。ダキアヌスが処刑を終えて館へと帰ると、天から炎が降り注ぎ、従者もろとも焼き尽くしてしまった。》



 お分かり頂けただろうか…。ここでは前半が竜退治説話後半は殉教のエピソードと二段構成を取っています。
 聖ゲオルギウスの伝説が成立したのは、およそ五世紀頃、ギリシア語圏でのこと。初期の聖ゲオルギウスの伝説には竜退治のエピソードは存在せず、メインとなるのは後半のダディアヌス(ダキアヌス)による拷問と殉教の話でした。
 
馬に乗って竜退治をする描写は十世紀になってようやく見られるようになります。こうした「竜退治者」としての聖者の姿はコンスタンティノープルで育まれたと言われています。東西の文化が入り混じるこの地で、ゲオルギウス以前に有名だったドラゴンスレイヤー――たとえば聖テオドーロ(元・ヴェネツィアの守護聖人)――のエピソードなどを吸収して誕生したそうです。


 初期の伝説において、竜退治の説話はなくとも「竜」は登場します。ただし、必ずしも「竜」の姿をしているわけではありません。
 ジョセフ・フォンテンローズの『ピュトン―デルフォイの神話とその起源についての研究』(Python: A Study of Delphic Myth and Its Origins)によると、

 迫害者ダディアヌスは「淵の竜」(drakon of the abyss)、あるいはただ単に「竜」と呼ばれていた


そうです。
 古代ギリシアにおいて、過酷な為政者を「竜」(drakon)ドラコーンと呼ぶ伝統があったからです。


 もうひとつ例を挙げてみます。
 ウーヴェ・シュテッフェン著『ドラゴン―反社会の怪獣』(青土社、1996年)を見てみましょう。聖ゲオルギウスの活躍を描いた民衆本において、キリスト教を弾圧する人物――すなわち…

ディオクレティアヌス帝や太守ダキアヌスは「淵から出てきた竜(ブティオス・ドラコーン)」と呼ばれていた


そうです。
 また、コプト語の殉教伝においても、全く同じ呼び方をされていたそうです。


 これってアヴィスス・ドラコーニス=「淵の竜」と同じじゃねえか?



 このふたつの文脈において、「淵の竜」はヒトの姿をとって現れます。
 聖ゲオルギウスを殺すことに失敗した毒竜は、今度は死刑執行人や皇帝に身をやつしてキリスト教徒の迫害に乗り出します。竜のみならず、こうした残酷な人間もまたキリスト教国を毒で汚染する敵というわけです。



 ③ 赤い十字の旗が翻るとき


 冒頭に挙げた「汝は竜なり(アヴィスス・ドラコーニス)」の説明に、

「見た目は赤い十字が描かれたサーコートだが、厳密にはゲオルギウスの堅固なる信仰そのものであり、サーコートは宝具を発動させるための焦点にすぎない」



 とあります。これもちょっとしたヒントとなります。



 マグノアルト・ツィーゲルバウル(Magnoald Ziegelbauer 1689-1750年)による著作『聖ゲオルギウス旗についての歴史的報告』を引いてみれば、

「(聖ゲオルギウスの赤い十字は)信仰の敵、あるいは国の敵である竜を仕留める時でなければ、掲げられることはなかった」


とあります。
 つまり赤い十字のサーコートをまとっている時点で、すでに相手を敵(=竜)と見なしているのです。特攻服並みに攻撃的な衣装なんですよあれ。


以下まとめ。
 「竜」である条件として、「竜の姿をしていること」は必須ではない。ディオクレティアヌス帝や太守ダキアヌスのように、ヒトの姿をした「竜」もいる。赤い十字を身にまとうことによって敵の「罪」を白日の下に晒し、その中に「竜」を見出しているということなのでしょう。

 「汝は竜、罪ありき」というより、むしろ「罪ありき、すなわち汝は竜なり」というニュアンスのように思えます。

 至極まっとうな事を言っているだけで、誰でも彼でも竜認定というわけではなかったんですね。


 ちなみに私がゲオルギウス先生を引いたタイミングですが、聖人伝の絵画に登場するドラゴンが性器に至るまで緻密に描かれているという話をした直後でした。さすがです。





 
 《参考文献》

 ウーヴェ・シュテッフェン、村山雅人訳『ドラゴン : 反社会の怪獣』(青土社、1996年)
 ヤコブス・デ・ウォラギネ『黄金伝説 2』(平凡社、2006年)
 Daniel Ogden, Drakon: Dragon Myth and Serpent Cult in the Greek and Roman Worlds, Oxford, 2013.

 Joseph Eddy Fontenrose, Python: A Study of Delphic Myth and Its Origins, California, 1959, p.518.




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