英政府、「合意なしブレグジット」対策発表 クレジットカード手数料値上げも

Dominic Raab Image copyright Reuters
Image caption ラーブ・ブレグジット担当相は、英政府による「合意なしブレグジット」の準備は、EUとの合意を通じて「無意味化する」ことを期待すると述べた

英国のドミニク・ラーブ欧州連合(EU)離脱担当相は23日、英国がEUとの合意がないままEUを離脱する場合の「実践的で釣り合いのとれた」対策を発表した。

「合意なしブレグジット」となった場合、国境での必要書類が増える可能性のある企業への説明や、医薬品不足を避けるための予防策などが、対策に盛り込まれた。

また、EU加盟国を訪れる英国民はクレジットカードの使用手数料が上がる可能性があるという。

実際にはEUと離脱条件で合意した上で離脱する方が実現可能性は高いと、複数の閣僚は話す。しかし、もし合意のない状態で離脱した場合、「短期的な混乱」はありえると言う。

BBCのクリス・メイソン政治担当編集委員は、今回発表された対策について、「細かな事例が大きく渦巻くおかゆ」のようなものだと説明。「専門的な内容がほとんどで、合意なしブレグジットの際にどのような規制が個々の産業にかかるか助言している」と話した。

最大野党・労働党は、合意なしブレグジットは「大惨事」で、「英国のための交渉で政府が完全に失敗した」ことを意味するだろうと批判している。

対策発表の直後、フィリップ・ハモンド英財務相は下院の財務省特別委員会宛ての書簡で、合意なしでEUを離脱した場合、英国の国内総生産(GDP)は向こう15年で7.7%縮小するとする財務省の警告を改めて示した。

合意なしブレグジット対策とは

24の文書にまとめられた対策は、医薬品や金融、農業といった産業にまたがっている。主な対策は以下の通り。

  • 英・EU加盟国間のクレジットカード決済費用は「おそらく上昇」する。この上昇分は追加手数料禁止の対象にならない
  • EU加盟国と取引のある企業は新たな税関検査に向けた準備を始める必要がある。新しいソフトウエアや人員・機材などの導入に費用がかかる場合もある
  • 在欧英国民は、EUが対応しなければ、英国の銀行や年金サービスへのアクセスを失う可能性がある
  • 英国のオーガニック食品メーカーは、EUへの輸出が困難になる可能性がある
  • 医薬品メーカーは、「円滑な」供給継続のために6週間分の在庫を確保しておくよう指導された
  • 英国は、EUで検査済みの新薬を今後も認可していく方針
  • EU加盟国からの低価格の小包は今後、VAT(付加価値税)免除の対象にならない
  • 現在たばこのパッケージに掲載されている警告画像は、EUが著作権を保有している。このため、英国では新しい画像が必要になる

ラーブ・ブレグジット担当相は、EUとの合意形成は「最重要の優先事項」であり、「最もあり得る展開」だと述べた上で、「別の可能性を検討する準備も必要だ」と話した。

また、合意なしブレグジットになれば、英国で食糧が不足し、「サンドイッチ飢きん」に陥るなどとする懸念を「突拍子もない意見」だと退けた。

「これだけは保証するが、突拍子もない意見とは裏腹に、ブレグジット後もBLTサンドを楽しむことができるし、食品の供給を維持するために陸軍を派遣する計画はない」

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英国は2019年3月29日にEUを離脱する予定。

EUとの交渉で懸案がいまだ残る中、離脱後の関係について合意に至らない場合に何が起こるか、議論されてきた。

たとえば警察・犯罪コミッショナー協会が、英国がEUの犯罪データベースにアクセスできなくなった場合のリスクについて警告したほか、マーク・カーニー・イングランド銀行(中銀)総裁も合意なしブレグジットは「非常に望ましくない」と述べた。

これに対してEU離脱派はこうした警告について、「恐怖を煽る作戦」と反発。EUと通商協定がないまま離脱しても、世界貿易機関(WTO)ルールを適用すれば済むことだと主張している。

保守党のジェイコブ・リース=モグ下院議員はBBCラジオ4の番組「トゥデイ」で、WTOのルールは「十分」で、合意なしの離脱のリスクは「馬鹿らしいほど誇張されている」と語った。

同じく離脱派のジョン・レッドウッド下院議員も、6週間分の医薬品を確保しろという要求は「少しやりすぎ」だが、政府は「極端に慎重」になっていると批判した。

対策への反応は?

EUの欧州委員会は、ブレグジットは「合意があってもなくても」混乱を引き起こすとしている。

「だからこそ全員が、特に経済の担い手が、準備する必要がある」

Workman chipping away at UK star in EU flag Image copyright PA

欧州委員会はすでに、合意に至らなかった場合についてのアセスメントを公表しており、在英EU市民にも在EU英国民にも「特別な措置がない」ままの状態になり、国境で「深刻な遅れ」が発生すると警告した。

英労働党の影のEU離脱担当相、キア・スタ-マー氏は、ラーブ氏の演説は「詳細に欠け、内容に欠け、合意なし離脱による深刻な影響を、政府がどのように抑えるつもりか、なんの答えも出していない」と指摘した。

ウェールズ自治政府のカーウィン・ジョーンズ首相は、合意なしブレグジットは「大きな混乱と、深刻で長期にわたる経済的・社会的ダメージ」の原因となると述べた。

業界団体からも批判の声が上がっている。全国農業労働組合は、この対策は英国の食品サプライチェーンにとって「壊滅的な」崖っぷちシナリオだと警鐘を鳴らした。

英産業連盟(CBI)は声明で、「WTOのルールをよりどころにEUと決裂しても大丈夫だと主張する人たちが、いかに幻想の世界に生きているか、客観的事実をもってしてもイデオロギーは変えられない世界に生きているか、あらわになった」と、政府の対策発表を批判した。

(英語記事 Credit card warning in UK's 'no-deal' plans

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