中国にビリビリ(bilibili)動画というサイトがあります。名前で想像できるように、弊社が運営している日本のニコニコ動画にインスパイアしてつくられたサービスですが、中国の人口が多いこともあり、もはやユーザー数ではニコニコ動画を超えており、今年の3月に米国NASDAQへの上場も果たしました。時価総額では弊社を超えており、本家のニコニコ動画としても、もはや、まったく侮れない存在となっています。
実はビリビリ動画の設立当初から、私たちとは縁があり、まだ学生ベンチャーである草創期のビリビリ動画の創設メンバーに対して、弊社の取締役の太田が資金を個人的に提供したこともありました。
ご存じのように中国はSNSへの外資規制があり、ビリビリ動画へ出資することは出来ませんでしたが、いまでもビリビリ動画で視聴できる日本のアニメ作品の配信権は弊社が仲介しているものも多く、良好な関係を続けています。資本関係などはありませんが、ネットにおけるUGC文化の担い手として、国境を越えた仲間であるといってもいいでしょう。
さて、今週ですが、そのビリビリ動画が、中国政府に行政指導を受けたというツイートがありました。
https://twitter.com/SonmiChina/status/1031927248993935360
bilibili動画の反省文
不適切な内容があったとして、一ヶ月のダウンロード禁止を命じられた「多くの政府関連部門と話し合い、以下の取り決めを行った
1.内容の全面的な整頓
2.計三個の検閲センターの増設
3.「風紀委員会」の募集を開始し、現在3.6万人が応募
今後はより社員共々の政治的覚悟を高める」
実は先月にこのような報道がありました。おそらくこの件を受けてのビリビリ動画の対応だと思われます。
CCTV(中国の中央テレビ)の報道動画
http://tv.cctv.com/2018/07/20/VIDEIDQWivJ7wpjg3oxyc5l1180720.shtml
------
タイトル:「CCTV曰く“ネット低俗漫画アニメ拒否” ビリビリなどのサイトがリストイン」
要約:
ネットにあるアニメ漫画作品は依然として低俗な内容が溢れており、(子供の)将来が心配。
主に露出度が高い少女、際どい言葉や仕草、兄妹恋愛などの内容も含まれており、
このような作品はなぜ審査が通るのか疑問に思う。
なお、ビリビリ側はCCTVの報道に対しての対応は特にありませんでした。
低俗なアニメとは、おもに日本のいわゆる深夜アニメのことを指していると思われます。
実は、このCCTVの報道があった7月20日にビリビリ動画は上海で大きなイベントを開催していました。ビリビリワールドという、これも日本のニコニコ超会議にインスパイアされたイベントです。
弊社からも何人も視察に現地にいっていたのですが、そのレポートには非常に気になることが書いてありました。イベント自体は非常に盛り上がっていたとのことなのですが、ビリビリ動画の現在の勢いから考えて、ビリビリワールドの参加者の数がそれほど多くなく、どうやら、当局から大きな規模での開催の許可が下りなかったらしいということ。現地の会場で公安が大量に動員されて監視をおこなっていたとのことです。CCTVの報道と合わせて、どうやらビリビリ動画は中国政府に目を付けられているようだとのことでした。
このことは、ビリビリ動画と中国での出来事、いわば他人事として片付けていいことではなく、われわれ日本人全員にとっての重大な問題だと私は思います。
というのは、今年の3月に日本でも話題になった中国の王毅外相の「精日は中国人のクズ」発言をご存じでしょうか?参考記事
精日とは、最近、中国で増加しているといわれる精神的日本人と呼ばれる人たちです。これは戦前の日本の軍国主義を賛美して、日本人になりたいと思っているひとたちであって、たんに日本のアニメや日本文化が好きなひとではないという解説もよく聞きますが、その説明は鵜呑みにはできないと思います。
なぜなら、戦前の日本の軍国主義を賛美する中国人が仮にいるとしても、社会問題となるほど大勢いるとは思いにくいからです。やはり本質的には日本文化や日本の価値観が中国に浸透することを中国政府が快く思っていないと解釈するべきだと思います。
そう考えたときに、少なくともサブカル分野においては、ビリビリ動画が日本文化を伝える最大の拠点であると、中国政府が考えたとしても、まったく不思議ではありません。
実際、今年のビリビリワールドでも、日本語でボカロやアニメの曲を歌っている中国のネットユーザーはたくさんいたとの報告も受けています。
日本文化、ひいては日本や日本人に好感を持つ中国人をビリビリ動画が大量に生みだしているのは間違いないところでしょう。
そのビリビリ動画が規制されるということは、日本にとって何を意味するのでしょうか?
表面上では、いったんは沈静化していますが、数年前の尖閣問題では日中は軍事衝突一歩手前の緊張状態が続きました。
愛国的なネットユーザーは日本にも中国にもいて、彼らは日中の対立を煽り、世論に影響を与えます。
世論の過激化はいうまでもなく、軍事的衝突の危険を増す方向にしか作用しないでしょう。
そういう世論の過激化を防ぐ、最後の砦はやはり日中のネットユーザーたちの相互理解であり、文化交流であると私は信じます。
ネットユーザーの右傾化は日本のネット全体の傾向だと思いますが、ニコニコ動画ではとくにコメントシステムのせいで熱心なユーザーの意見が拡大して可視化される傾向にあります。
私はニコニコ動画が日本人の対外感情の悪化の拠点となるのをよしとせず、場を提供する立場から、なにができるかを考えて、中国や韓国の”事実”を伝えることを積極的におこなってきました。(こういうことを書くとニコニコ動画はヘイトスピーチを行う人間を放置していると非難する人が現れますが、私はヘイトスピーチの削除はおこなったとしても、該当する人の発言権を奪うべきという意見は、言論統制につながる非常に危険な考え方であると思っており、まったく賛成しません)たとえば反日映画として日本で上映できなかった作品が、実際にどんな内容なのかを見てみるという企画や、日韓問題については英国BBCワールドと共同でドキュメンタリー番組を第三者的な目線から制作してもらいました。中国での軍事パレードや、中国版の紅白歌合戦みたいなものも生中継をおこなったりしました。まずは日本のユーザーに現実を直視してもらうことから始めようとした企画です。
実際に見てみると反日映画というのがそれほど反日的ではなかったり、普通に面白い映画だったり、日本人だけでなく韓国人も知らない事実が分かったり、軍事パレードの中継では中国と開戦しようなんて勇ましいコメントはまったく消えました。中国版の紅白歌合戦の中継では、かけられている予算の規模の違いに、日本の経済力は、もはや中国に負けているという現実が見えました。
また、私たちの試みは日本以上に中国でも大きく報道され、日本人に中国の現実が伝わったという歓迎の声があがりました。
こうした相互理解は必ず日本と中国の世論をお互いに改善させ、日中間の安全保障の一助としても機能するはずだと私は信じています。
さて。
話をビリビリ動画に戻すと、日本と中国のネットユーザーが共有できるサブカルチャーの文化の場としてのビリビリ動画をどうやって維持することができるかは、そういうわけで、日本と中国の幸せな未来にとっても、決して無視できない重要なことではないか、と思います。
そのために、なにをしなければいけないかを、この間、いろいろ考えたのですが、ひとつの結論に至りました。
それはビリビリ動画が育ててきた中国のネット文化を共有する日本のネットユーザーが増えるべきだということです。もはや、ビリビリ動画はたんに日本のサブカルチャーを輸入しただけの存在ではありません。
中国のボカロ文化についても、いちばん人気があるのは、もはや初音ミクではなく、中国産のボーカロイドです。ベースは同じところから生まれたものについてもすでに独自の進化を遂げています。ビリビリ動画の機能についても本家ニコニコ動画にないものもたくさんあります。
また、マンガ文化ということについていうと、中国のマンガのレベルは非常に高くなっていて、絵のうまさだけなら中国のマンガのほうが、もはやレベルは上ですし、日本のマンガと見分けがつきません。
ゲームやアニメも中国でつくられた凄い作品がどんどん出てきています。
ビリビリ動画は日本のサブカルチャーに起源とする文化を中国に持ち込んだかもしれないが、もはや、それは中国独自の文化として、発展しています。
しかし、まだ、日本全体としては中国が大国として、あらゆる面で日本を超える存在になりつつあることを予感としては持っていても、まだまだ、現実感に乏しいひとが大半ではないでしょうか。特に文化の面ではまだまだ日本が上で、今後も負けるなんて想像もしていないひとが多いでしょう。
それは日本と中国の関係にとって、とても危険な状態ではないかと、私は思います。
日本は、そろそろ中国からも文化を持ってくることに目を向けるべきなのだと思います。
そして日本と中国が共有するネット文化の場としてビリビリ動画が役割をはたすことができれば、たんなる日本文化の流入減として、ビリビリ動画が目をつけられることもないのではないか。そんなことを、冒頭のツイートを見て、考えたのです。
以上
-
次の記事これより新しい記事はありません。
-
前の記事2018-07-31 19:08:31昨日の川松都議との討論会について2コメ