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金足農・エース吉田「球数問題」に現場から異論反論


力投する金足農・吉田

 第100回全国高校野球選手権大会は21日、甲子園球場で決勝が行われ、大阪桐蔭(北大阪)が13―2で金足農(秋田)を下し、史上初の2度目の春夏連覇を達成した。金足農のエース・吉田輝星(3年)は中盤に集中打を浴びて5回132球、12失点でついに降板。秋田に優勝旗を届ける夢はかなわかった。県大会から一人で投げ抜いてきた右腕の球数は、今大会では、6試合で881球。高校野球ファン、有識者の間では日に日に「登板過多」を懸念する声が続出。日本高野連も将来的な投球制限導入を検討する中、現場の声を聞いた。

 秋田県勢103年ぶりの決勝に導いた吉田は、秋田大会から準決勝まで10試合連続の完投で1385球を投げている。決勝は大阪桐蔭の猛打に捕まり、5回までに132球を投げ、12失点で降板した。秋田大会を含めると11試合で1517球を投げた。

 他を圧倒する走り込みで鍛えた強靱な肉体と無尽蔵のスタミナが「一人エース」を支えていた。

 今大会は吉田同様、県大会からほぼ一人でマウンドを守ってきたエースたちの躍進が目立った。4強に進出した済美(愛媛)の山口直(3年)もその一人。タイブレークに突入した2回戦の星稜(石川)戦では、11失点しながら13回184球の熱投でチームを勝利に導いた。多くの野球ファンの胸を打った「一人エース」たちの力投だが、その一方ではネット上などを中心に大きな議論を呼んだ。球児の健康や故障リスクを懸念した「球数問題」だ。

 プロ野球OBも含めて議論は過熱している。20日の準決勝・金足農―日大三戦前の「レジェンド始球式」に登場した桑田真澄氏(50)も、吉田の体調を気遣った一人だ。

「まずは壊さないでほしいというのがある。どこか異常があれば、すぐに声を出してもらいたい」。その上で桑田氏は「今は連投できるルールの中でやっている。高校生には、その中でケガを最小限に抑えるフォームで投げてほしい。我々大人が(球数や連投に関する)球数制限などのルールづくりをしていかないといけない」と持論を展開。「どんな改革をしても高校野球がダメになることはあり得ない。時代に合った改革をどんどんやるべき」と、議論の活性化と改革の必要性を強く訴えた。

 未来ある選手の体調管理、故障予防という観点から「ルール」を設けて「登板過多」を防ぐ。その動きは、議論から実施へと加速している。

 実際、来月3日から宮崎で開催される「第12回BFA U18アジア選手権」では球数制限が採用されることが決定した。主な概要は投球数の最大を105球までと定め、その他、球数に応じて登板間隔の条件を設ける。105球を超えた場合は中4日のインターバル。2連投で計50球以上を投じた場合は、1日以上空けなければならない。

 この動きに日本高野連の竹中事務局長は「ウチも今後、参考にしていかないといけない。U―18では研究課題として実施する形になる」と明言。さらに「U―18の場合は(力のある)投手が8人もいる。だが、それを公立高校でできるのか。部員が10人程度のチームもある。そのあたりを考えていかないといけない」と課題を口にしながらも、高野連で球数制限の導入が前向きに検討されていることを示唆した。

 だが、この動きが高校野球界の「総意」ではない。現場には現場ならではの思いがある。

 金足農の秋本コーチは「球数制限には反対です。秋田は野球人口だけではなく、子供そのものの数も減ってきていて、小学校でも連合チームが増えています。限られた戦力の中で勝負しなければならない状況で、公立校で3人も4人も継投できる投手を確保するのは現実的に難しい。導入されれば、今大会のウチのような躍進は極めて難しい。お客さんのためにやっているわけではないが、ドラマも何も生まれなくなってしまうのではないでしょうか」と語る。

 また、済美の田坂部長は「ルールとして何球以内と制限するのは反対です。なにより生徒たちは甲子園に行きたい、投げたい、プレーしたいと思って入部してくる。我々は甲子園に行かせてあげるためにベストを尽くしている。そこをまず考えて、投手の起用や采配を振るっている。指導者が投手の状態、試合展開、いろんなバランスを測りながら判断していくのがいいと思います」と率直な思いを明かした。

 一方、複数投手の継投で勝ち上がってきた日大三の三木部長も「制限を設けるのは反対です。高校野球は教育の一環。今大会で言えば、吉田君の気迫や、一人でマウンドを守り抜くエースを仲間が助けようとする姿に、多くの人が心を揺さぶられ感じるものがあったのではないでしょうか。投球制限が設けられれば、埋没してしまう才能もあるのでは。私は一指導者として、そういうタフな選手を育てていきたい」と語った。

 また、やはり複数投手を擁する大阪桐蔭・橋本コーチは「賛成も反対もありません。ただ、導入するのであれば小、中、高校、大学、社会人も全部やる。高校だけでやっても意味は薄い。全部、統一できたらいいと思います」と持論を述べた。

 確かに球数制限を設ければ、強豪私学がますます強くなる傾向に拍車がかかり、となると野球留学などの制限など、同時に取り組まなければならない問題も出てくる。だが、いずれの指導者も「議論の活性化は歓迎すべきこと。様々な意見を吸い上げて答えを導いてほしい」。高校野球をより良くするため、今後も議論をしていくことが大切だと声を揃えた。記念すべき100回目の夏を迎えた高校野球。今大会では「球数制限」だけでなく「猛暑対策」なども話題となった。後の100年にどうつなげていくのかが今、問われている。

◆米でも議論=夏の大会で球数を投げた投手といえば2006年に優勝した早実(西東京)の斎藤佑樹(現日本ハム)だ。全7試合、69回で計948球。特に決勝の駒大苫小牧戦では延長15回を178球で完投し、翌日の再試合も9回118球で完投勝利した。14年準Vの三重の今井重太朗(現中部大)は全6試合、52回で814球だ。
 春のセンバツでは13年の済美(愛媛)2年エースの安楽智大(現楽天)。初登板の2回戦広陵(広島)戦では延長13回を232球で完投。サヨナラ負けした広陵の下石涼太(現トヨタ自動車)は12回1/3で219球投げている。安楽が5試合で772球を投じたことが議論を呼び、米国では「正気の沙汰ではない」と報じられた。2年春152キロ出ていた球速は、同年夏157キロをマークするほどにもなったが、2年秋に右ヒジを痛め、3年夏に復帰したものの150キロ超のボールは投げることができず、県大会3回戦で姿を消した。楽天入り後、現在も球速は高校時には及ばず、伸び悩んでいる。

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