東京医科大学医学部の入学試験で女子の受験者が一律で減点された問題は、女子差別として波紋を呼んでいる。これは、単なる女子差別だけの問題ではなく、医療界が抱える医師不足が根底にある。
どの診療科も激務だが、お産の現場を預かる産婦人科は特に医師不足に陥っている。
日本産婦人科医会が2017年11月に発表した「周産期医療の現状と『働き方改革』~施設情報調査2017より~」から、周産期医療(妊娠22週から出生後7日未満までの期間の医療)の現場の厳しい状況が分かる。
日本の場合、海外に比べ周産期死亡率が低く、高度な医療がそれを支えている。だが、「無事に生まれて当たり前」という意識があるなかで、2004年、福島県立大野病院で帝王切開手術を受けた産婦が死亡。
当時、執刀医は医師1人体制という医師不足のなかで起きた死亡事故だったが、業務上過失致死と医師法違反の容疑で執刀医が2006年に逮捕された。
この事件とセンセーショナルな報道により、産婦人科を専攻する研修医が激減した。
お産の現場から去る医師も続出。妊産婦や新生児が死亡すると訴訟が起こるリスクが高く、報われなさがある。
大野病院の医師は無罪となったが、医師不足のなかで「どこでも起こりうる事故だ」と、全国の医療現場を震撼させた事件だ。
医師には医師法により応召義務が課せられ、患者がいればいつでも診療しなければならないとされている。
だからこそ、いつお産になるか分からない産婦人科は激務で敬遠されがち。少ない医師がお産を支えてきた。だからこそ、大野病院事件のように産婦人科医が1人という体制のなかで手術が行われたのだ。
大野病院事件のほか、救急搬送された妊婦の受け先がなく結果として死亡してしまった事件などを通して、これでは周産期医療の現場がもたないと、国を挙げて対策が講じられるようになり、専攻医数も回復した。
産婦人科医会の調べでは、産婦人科の専攻医は2006年に66人だったが2012年に443人となり、2017年は360人となった。産科や小児科の女性比率は他の診療科より高く約3割を占めている。
医師数は回復してきたものの、働き方改革が医師に当てはまるわけではない。「現在の医師数で労働時間を守れるはずがない。患者が置き去りとなる」と医療界から反発の声があがっている。