PlayStation VRやHTC Viveが発売した――VR元年の年とも呼ばれる――2016年から2年。ゲーム業界において、VR(仮想現実)が大きなマーケットに成長した、とは言い難い。AR(拡張現実)を使った成功例として『Pokémon GO』があるとはいえ、これもまだまだスタンダードのエンターテイメントとして定着していない。

 


そもそも、VRやARにまだ未来はあるのだろうか? CEDEC 2018におけるパネルセッション「西洋におけるビデオゲームのテクノロジー」にて、これについての質問があった。

「素晴らしい質問! ……これが今回のパネルセッションでまだ話題に挙がっていなかった理由はもしかして、もうVRのトレンドが去り始めているからなのでは?」とパネルセッションの司会を努めたジュリアン・マーセロン氏が冗談半分に言うと、会場が笑いに包まれた。

VRの難しさについて語るジェローム・リアー氏(右)、CEDEC 2018にて。

確かに、Q-GAMESで働くジェローム・リア―氏が話すように、ゲームをVRに落とし込むのは開発が大変で誤魔化しが効かない。なのに、普及台数がPCや家庭ゲーム機と比べると圧倒的に少ない。

『VRを大きく成功させるためには大衆が興味を示す超大作が必要です』

EAのSEEDという最新技術を研究する部門に所属するトマシュ・スタチョィアク氏はVRの未来をそれほど心配していないが、大きく羽ばたくまで、人々が当初に想像したよりまだ時間がかかるという考えを示した。

「VRを大きく成功させるためには大衆が興味を示す超大作が必要です。そうでなければ誰も高いHMDは買いません。でも普及台数が少ない状態で莫大なお金を出して大作を作ろうという会社はどこにもないんです。投資しても見返りがあるかどうかがわからず、誰も最初の1歩を踏もうとしないのです」

もちろん、大手でもVRゲームを積極的に開発していはないわけではない。カプコンは『バイオハザード7 レジデント イービル』をVRに対応させ、全編を最初から最後までVRで遊べるビッグタイトルの最も早い例の1つと言われている。ベセスダも『Doom VFR』や『The Elder Scrolls V: Skyrim VR』と、同社の有名タイトルをVRで遊べるようにしている。しかし、上記のタイトルはVRなしでも遊ぶことができ、VRだけのために作られた体験ではない。

「VRが大ヒットしていないことにはもう1つの理由があると思います」とトマシュ氏は続けた。

「座ってVRでゲームをするというのは、我々がイメージした壮大なものではない。』

「座ってVRでゲームをするというのは、我々がイメージしたような壮大なものではないということです。80年代の映画みたいに自由自在に動き回って派手なアクションを繰り出せるものを想像していましたが、実際は椅子に座って周囲を見回している程度の体験がほとんどです。イメージ通りの本格的なVRをやりたいのであればVR専用の部屋が必要となります。家の広いアメリカではまだ可能かもしれませんが、ヨーロッパでは難しいし、日本となるとさらに難しいでしょう。なので、我々がみんなVRのために2軒目の家を買うほど裕福にならない限り、VRが近いうちに劇的に成長するのは難しいでしょう。それより、ARの方が可能性を感じています。メガネをするだけで楽しめるし、どこへ行っても使えるんです。自分の大学も職場もダンジョンになり得るし、椅子に座ることなくエキサイティングな体験ができます。なので、みんながVRに対して期待しているものは、実はARが実現させる可能性の方が高いんじゃないかと僕は見ていますね」

ARの成長に期待するトマシュ・スタチョィアク氏(中央)、CEDEC 2018にて。

司会のジュリアン氏は家庭で遊ぶVRだけでなく、施設などで遊ぶVRもあることを指摘した。同氏が所属するバンダイナムコはVR施設を最も積極的に作り出しているゲーム会社といっても過言ではなく、「VR ZONE」というアミューズメント施設で遊べるVR体験はVRの従来のイメージに近い体験と言えるだろう。

「施設で体験できるVRは80年代の映画でイメージしたものに最も近い」

長年にわたってノーティードッグで働き、今年の2月にPromethean AIという、バーチャルワールドを作るためのAIに特化したスタジオを設立したアンドリュー ・マキシモフ氏はこれについて肯定的な発言をした。

「施設でVRを体験する人のほとんどは満足して帰ります。その理由は、ここで体験するものがVRだけのために作られているからだと思います。それこそ、80年代の映画でイメージしたものに最も近い体験でしょうね」

筆者もVR ZONE SHINJUKUで『マリオカート アーケードグランプリ VR』や『ドラゴンクエストVR』を体験しているが、違う次元に入り込むには「見える」だけでは不十分で、その中で実際に身体を動かしてこそ臨場感が生まれると感じた。確かに、家でコントローラーを握りながらVRを遊ぶとは根本的に違う体験と言える。VRゲームは家庭で遊ぶものよりも、一種のアトラクションとして捉えるべきなのかもしれない。

VRは会議といったコーワーキングやソーシャルな目的で使われていくと思います。

しかし、アンドリュー氏によれば、VRが一番羽ばたけるのはそもそもゲームではない。

「僕が思うに、VRは会議といったコーワーキングやソーシャルな目的で使われていくと思います。会議で相手と同じ空間を共有するのは非常に便利で、相手がどんな仕事をしているのかが可視化され、お互いのモニターを見ることもできます。モニターの数に制限もないし、大人数でコーワーキングしている場合は用のある人の机に瞬間移動して相談することもできます。通常の職場と同じようなことができるわけですが、それがスピードアップして、しかも現実世界で同じ空間を共有する必要がなくなります。シリコンバレーは物価が高いので、人を雇うのは必然的に高くなります。スタッフの住む場所が、例えばピッツバーグであれば給料を安くしても生活の品質は上がるし、VR空間で一緒に働けるんです。このようにVR空間で長時間を過ごす人が増えていくと思いますし、VRで一緒に楽しい時間を過ごすためのコミュニケーションツールも人気になっていくでしょう。そして、コミュニケーションツールのなかにちょっとしたゲームを遊べば、もっと本格的なVRゲームに対する需要も高まるはずなので、そうういう相乗効果もあると思います」

VRがゲーム以外の目的でどう使われていくのかについて語るアンドリュー ・マキシモフ氏(中央)。

まだまだ歴史の浅いVRだが、すでに去ったトレンドではないようだ。今後の発展に注目していきたい。