ネットと出合い、売れっ子コピーライターから転身。50歳で「ほぼ日刊イトイ新聞」を立ち上げ、68歳でほぼ日を上場させた糸井重里さん。AI時代や人生100年時代、働き方改革など、様々なキーワードで表現される今の時代とその先にある近未来は、“変化し続けてきた”糸井さんの目にどのように映っているのか。
(聞き手:米田勝一=日経ビジネス アソシエ編集長/まとめ:高島三幸/写真:小川拓洋)
AI時代や人生100年時代、働き方改革など、様々なキーワードで表現される今を、どのように見ていらっしゃいますか。
例えば、競争社会という言葉を耳にする機会が多かった頃は、「ビジネス」や「スキル」が時代を象徴するキーワードだったと思うんです。競争で得られるものは栄誉とお金です。でも今は、その価値が相対的に下がり、「栄誉はおまえにやるよ、俺は楽しい方がいいから」という、自分の中の「生き方」という項目のパーセンテージが大きくなってきた。出世より、もっと休んで趣味を楽しみたいとかね。
インターネットによる人とのつながりや、シェアリングサービスの拡大もあって、お金をかけなくても案外何でもできるし、同時に自分のために大金を使っている人が素敵でないようにも見えてきた。NPOが人気の就職先になったり、慈善基金団体のためにお金を使うビル・ゲイツをカッコいいと思えたりするわけです。
「俺が一番いい意見を出してやる!」ではなく、「おまえの意見、いいな!」と言える人がカッコいいのも、今の時代の特徴だと思います。つまり競争よりも、協業や共同というスタイルが新しい価値を生み出し、面白そうだと多くの人が気づき始めた。スキルを丸暗記している人よりも、人のために率先して動き、仕事を仲良く進められる人の方が、これからは求められるんじゃないでしょうか。
社会は今、超高齢社会や人口減少といった様々な問題に直面しています。未来はどうしても、ネガティブなイメージになりがちですが。
例えば、この間のサッカーのワールドカップが開幕した時、多くの人が「日本チームは弱い」というのを前提に観ていましたよね。でも監督や選手本人たちは、決してネガティブな気持ちで挑んではいなかった。負けるに決まっていると思われている戦いに、「なぜそう決めつけるの?」「そうじゃないぞ! 俺らは」という気持ちで挑める人には、誰もかなわない。
だから僕も、未来を悲観的には見ていません。「自分がどうしたいか」という意志や動機を持った時に、“生命のうねりみたいなもの”が起こって、予測した前提を覆すことができるんだと思います。
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