働き方改革の必要性が一層高まる中、企業は効果的な対策を打ち出せずにいる。全社員に一律にするのではなく、従業員の意思決定の「クセ」を利用した働き方改革が必要だ。
(日経ビジネス2018年6月18日号より転載)
京都大学大学院
特定講師
政府・与党が今国会の最重要法案と位置付ける働き方改革関連法案。会期末である6月20日までに法案が成立する見通しだ。
長時間労働は、生産性の低下や健康状態の悪化につながることが知られている。日本に根強く残る慢性的な長時間労働の是正は喫緊の課題だ。企業には、迅速な対策が求められている。
ところが、働き方改革が必ずしも社員に歓迎されるとは限らない。例えば朝型勤務を全ての社員に対して推奨しても、否定的に捉えて行動に移さない社員もいるだろう。
それでは、どのような働き方改革が効果的なのだろうか。筆者は、行動経済学的な個人特性(意思決定のクセや性格)を利用した働き方改革を提案したい。
国内にあるメーカーA社の協力を得て実施した我々の分析では、社員一律に働き方改革をした場合でも、個人の特性によって残業の削減効果が大きく異なることが分かった。言い換えれば、従業員の個人特性に合わせた働き方改革を導入すれば、より効率的に長時間労働を改善できる可能性があるわけだ。
個人のクセが残業時間に影響
我々はA社から、社員の労働時間データの提供を受けた。また、A社社員を対象に個人特性に関するアンケート調査をし、A社の働き方改革によって、どのような個人特性(クセ)がある人でより残業時間が減っていたかを明らかにした。
今回着目した行動経済学的な特性は、時間選好と社会的選好と性格の3つ。
時間選好とは、将来と現在のどちらを重視するかといった「我慢強さ」に関する特性だ。ここでは、子供の頃に夏休みの宿題をいつ頃やっていたか質問し、先送りにする傾向があるか、もしくは計画通りに済ませる傾向があるかを調査した。
社会的選好とは、他人を気にするかどうかの指標である。具体的には、自分が1万円もらうと同時に他人もお金をもらうとすれば、その金額はいくらが好ましいかを質問した。他人も同様に1万円もらうことを望むなら「平等主義者」、自分が他人より損になるのを嫌うのであれば「周りを妬む人」、自分が他人より得をするのを嫌う場合は「向社会的な人」と分類した。
この他、外向性、協調性、誠実性、神経症傾向、開放性という5つの性格も調査した。
私自身のワーカーとしての経験と管理者としての経験から、残業の理由の半分は『残業代欲しさ』による。基本給だけでは自分が必要とする金額に満たないため、理由をこじつけてでも残業をしたがる。残りの半数(全体の4分の1)は自分の仕事の質を上げて上司に見せたい為。時間内では十分な品質レベルを得られないので残業で補っている。残りは『お付き合い』というか、必要性がないのに残業するタイプ。周りで残業しているのに先には帰り難いとか、職場の友人に合わせているなど。私が管理職を始めた頃には、私の会社は残業は『課長への事前の届け出』を前提に変えていた。この様に制度を変更しても、堂々と残業申請をするのが『残業代欲しさ』の人。特に派遣社員にこのタイプが多かった。仕事の質を上げたいタイプと『お付き合い』の残業は申請が減る。然し、仕事の質を上げたいタイプは隠れ残業が増えるようだ。家で仕事をしたり、残業届を出さずにズルズルと居残るが、申請がなかったことを問いただすと帰宅する。そして家で仕事の続きをする者もいる様だ。以前は、この様に隠れた努力による内容も含めて評価されたものだが、今はどうなのだろう?定年退職して10年にもなるので、最近の状況はニュースなどを経由するものしか知らないが、私の勤めた会社は外資系で、今比べても日本企業よりは先進的であったようだと思う。それ程日本の会社は世界と比べると『遅れている』というのが客観的な考察なのだろう。(2018/08/23 11:12)