記録的な暑い夏は過去最高の熱中症被害ももたらした。病院に運ばれた約半数は高齢者で、二人一緒に亡くなるなど老老介護の現実も浮かぶ。避暑でつながる街づくりを来夏への宿題とできないか。
注目したいのは、涼しい場所に人が集うクールシェアの試みだ。二〇一一年の東日本大震災直後、多摩美術大学の堀内正弘教授のゼミで節電を目的に発案された。現在は図書館などの公共施設や駅、カフェや銭湯、公園など全国の約一万三千地点が登録。インターネット上の地図などで公表され、環境省の地球温暖化防止の施策にも取り入れられている。
登録した場所は「クールシェア」のステッカーを掲げ、飲食店の場合は割引特典を用意しているところもある。地域の交流を促すため、自治体と大学が共同でイベントなどの場を提供している施設も参加している。
同様の試みは国外でも自然発生的に始まっているようだ。熱波に襲われたヘルシンキでは今夏、スーパーが市民の求めに応じ、土曜の夜に宿泊場所を提供したとフィンランド大使館がツイッターで投稿している。
総務省消防庁のまとめでは、四月三十日以降、全国で熱中症で搬送された患者は八万人を超え、六十五歳以上が48%を占める。警察発表で明らかにされている高齢者の死亡事例では、エアコンなどが使われていない場合も目立つ。
エアコンを使わないのは、皮膚の感覚が鈍くなるなどの身体的な特性や貧困、苦手意識などさまざまな指摘がされている。ニセ電話詐欺の被害がいまだ続いているところから考えても、必要な情報が高齢者に届いていない可能性もあるだろう。
東京の都営アパートで今月五日、遺体で発見された八十代ぐらいの夫婦とみられる男女の場合、部屋のエアコンは使われていなかったという。一日には男性が買い物に出掛けているのを近所の人が見かけている。
日常生活で立ち寄る場所が避暑と同時に異なる世代との交流の場となれば、身を守る知識は得やすくなるかもしれない。経済的に困っている世帯への安全網をしっかり張り巡らすことはもちろん必要だが、孤立をやわらげるための居場所づくりや周知にも、自治体は力を入れてみてはどうか。
気候変動は今年だけにとどまらず、高齢化はどんどん進む。知恵を分かち合い、社会で灼熱(しゃくねつ)をしのぎたい。
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