ゲーム開発者向け会議CEDEC 2018におけるセッションにて、任天堂の宮本茂は『スーパーマリオ ラン』の開発の流れや、モバイルゲームの良し悪しについて語った。
任天堂初のモバイルアプリ『Miitomo』やナイアンティックの『Pokémon GO』に続いて、宮本茂も『スーパーマリオ ラン』で初めてモバイルゲームを作ることになった。今となっては筆者も任天堂がモバイルゲームを作るという事実に慣れつつある。しかし、約40年以上にわたって自社プラットフォームでしかゲームを作ってこなかった宮本茂が他社プラットフォームでマリオのゲームを開発するという事実から、スマートフォン端末がいかにゲーム業界を変えたかわかる。
DSにもタッチスクリーンとカメラがついていたのに! と宮本はセッションで冗談半分に悔しがっていたが、同氏にとってもスマートフォン向けにゲームを作るというのはさまざまな意味で新鮮な経験だったようだ。
スマホは無視できない立場にあったんです。
「この頃は任天堂でずっと『一人でも多くの人に』というテーマを抱えていたので、スマホは無視できない立場にあったんです」と宮本は当時、任天堂がモバイルゲームを作るようになったきっかけについて話した。
宮本によれば、自社ハード向けにゲームを作る上でのメリットは「ハードウェアを自分たちで決められるというメリット、それから作ったら終わりという作りやすさがあります。他社となるといろんなバージョンを作ることになり、膨大な仕事量になります。でも、覚悟してやることになりました」とのこと。
そして、宮本が作ることになったのは任天堂の看板キャラクターの新作ゲーム『スーパーマリオ ラン』となった。モバイルゲームということで、軽く遊びたい人も大勢いるはずで、そのためにはマリオが自動的に走り、タッチでジャンプするだけという極めて簡単な操作系を採用することにしたそうだ。それでも、悔しくてやり直したくなるようなバランス調整を行ったが、本格的なマリオの横スクロールアクションゲームよりはずっと易しい難度を目指した。
作ったアプリに対して適正なお金を払ってもらいたい
「しかし、長年ゲームを作ってきた自分はついついチャレンジという血が騒いで、少し難しくしてしまいました。結果、簡単に作ったつもりだったんですけど、モバイルは遊んだ(人の)履歴が手に入り、驚いたのはステージ3辺りでほとんどの人があきらめたことですね(笑)。そういう現実を見て、さらに開発を続けていきました。そして、上手でも下手でも簡単にクリアできるけど、パーフェクトをとることでスコア狙いができるという二重構造のゲームにしました。それが『スーパーマリオ ラン』の『リミックス10』なんですけど、これは(本編の配信から)半年経ってから作りました。最初からこれを作ればよかったのかもしれないんですけど、様子を見ながら次のゲームの作り方がわかるというモバイルゲームならではの流れに初めて気が付きましたね」と宮本。
モバイルゲームとなると、ここ10年の大きな課題といえば売り方である。課金性が最も収益につながりやすいが、重課金のゲームを問題視している人も少なくない。任天堂は社内でこれについて何度も議論し、いくつかの方針を決めたという。
「ゲームのスタイルにもよりますが、お金を出していただくのはサービスや開発したデータに対してであって、パラメータやレア度を調整して価値を高めることはやめようと決めました。作ったアプリに対して適正なお金を払ってもらいたいんです。巨大なマーケットがあるわけですから、できるだけたくさんの人にリーズナブルな課金をしてもらっても利益が出るはずですね。それが任天堂らしいビジネスだと思いますし、小さい子供まで遊ぶ任天堂のゲームの場合は重課金の制度をとらないと考えて進めたわけです」と宮本は、任天堂のモバイルゲームの売り方について説明した。