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「温暖化で猛暑になり、熱中症が激増」論が見落としていること

データで解き明かす「猛暑の真実」

平成に熱中症が急増した理由

熱中症という言葉を見かけるようになったのは、20年ぐらい前からだろうか。それまでも、夏の暑さがニュースになることはあったが、それが直接命にかかわるとは認識されていなかったと思う。

しかし、近年は熱中症による死者が、多い年は1000人を超え、今世紀に入ってからの総数は1万人に達する。

昔も熱中症の被害がなかったわけではない。日本では明治時代から死因の統計が行われていて、1909年からは“暑熱”の項目がある。

これによると、戦前でも毎年200~400人の暑熱死亡者があった(図1)。しかし当時は風水害や感染症が多く、暑熱はあまり注目されなかったようである。

筆者作成
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熱中症の死者は戦後には年間100人以下まで減ったが、1990年代になって急増し、今に至っている。その契機になったのは、1994年の猛暑だった。

今年(2018年)の暑さは普通ではない、経験したことがないと感じている人が多いと思うが、1994年の夏もそうだった。あちこちで40℃近い気温が観測され、全国の熱中症の死者数は約600人に達した。これ以降、毎年数百人の死者が記録されるようになった。

死因の統計基準は1995年に変更された。熱中症の死者数が急増したのは、それによる見かけのものではないかという見方があり、筆者もその影響が多少はあり得ると思う。また、1994年の猛暑によって熱中症が医療関係者に認識されるようになり、それまでは病死の扱いになっていたような人が、熱中症による死亡と診断されるようになったのかもしれない。

しかし一方、異状死の検案を行っている東京都監察医務院の医師によると、「30年ぐらい前まで、夏は仕事の少ない季節だったのに、今は逆で、夏は1年のうち一番忙しくなった」という。暑熱被害の急増を、現場は身をもって実感している。

 

図1から分かるように、戦前は子どもの被害が多く、14歳以下が死者全体の4割を占めていた(その大半は乳幼児)。これに対して、近年は被害者の多くが高齢者であり、年齢ごとに見ると80代の死者が最も多い。

なぜ高齢者の熱中症被害が増えたのだろうか。実は、高齢者の人口当たりの熱中症死者数、すなわち死亡率は、1940年ごろと近年とでほとんど差がない。

このことから、高齢者の被害が増えた最大の理由は、高齢者人口そのものの増加にあることが分かる。1940年に比べ、2015年の80歳以上の人口は、実に28倍になっている。

ここまでに述べてきたのは、熱中症が死亡の主因になったと判断されたものに限られる。現実には、暑さが病気の悪化や発作の誘因になった、いわば「暑熱関連死」も多いだろう。

東京都監察医務院のデータによると、熱中症の死者数が多い年は検案総数も多く、両者の増減幅は1:5ぐらいである(図2)。ということは、狭義の熱中症死者1人に対して、関連死を含めた被害総数はその数倍になる可能性がある。

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