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「再発防止策検討会」の名の下に、個人攻撃でつるし上げ

 事象がインシデントに認定された場合はどうなるか。すぐに再発防止策を検討せよと、部長などの上司から命じられるのは確実だ。これがまた厄介である。

 再発防止策検討会ではなぜなぜ分析などの原因追究が行われ、そのインシデントが起きた原因を深掘りしていく。ホワイトボードには付箋が並び、様々な要因が洗い出されていく。ここで前向きな対策の検討が話し合われるならいいが、残念ながら多くの場合、そうはならない。インシデントが起きた原因が、担当者個人の問題にすり替えられてしまう。代表例が次の2つだ。当事者はたまったものではない。

  1. 担当者(当事者)の注意力が足りない
  2. 担当者のスキルや習熟レベルが低い

 これは単なる個人攻撃である。そして打ち出される再発防止策は先ほどと同じか、その強化だ。

  1. さらに担当者の注意力を高める
  2. さらにダブルチェックとトリプルチェックを強化する
  3. さらにチェックリストを増やす

 要は、日本企業特有の「個人の気合いと根性でナントカしろ」となるわけだ。これでは同じミスは永遠になくならない。

 ヒューマンエラーの撲滅において、体育会系の気合いと根性論はナンセンスである。組織の成長を妨げるだけ。インシデントの再発防止策は、仕組みをガラッと変えるくらいの覚悟で臨むべき案件である。個人のスキルや注意力に依存する対策をいくら出しても、インシデントはいつまでたってもなくならない。

隠蔽体質はスクスク育つ

 こうした個人攻撃と二重三重のチェックが毎回繰り返されると、IT職場はどうなるか。現場担当者はインシデントを報告してこなくなる。言えば罵倒されるのは目に見えているし、はっきりいって面倒だからだ。

 「この程度ならインシデントじゃないよね」「うまくごまかせたから報告しなくてもいいや」「とりあえず大きな影響はなさそうだからスルーしよう」

 担当者自身が自分の都合のいいように勝手に判断し始め、インシデントが顕在化しなくなる。こうしてあっという間に「報告しない」「隠蔽する」組織風土が育まれていく。その「成長」スピードは驚くほど速い。

 だがいつまでもインシデントを隠し通せるわけがない。ある日、トラブルが発覚する。経営陣や部長は激怒し、「どうして報告しなかったんだ!」とわめく。

 現場担当者は皆、下を向いて黙り込む。だが心の中では「報告すると個人攻撃されて、嫌な思いをするだけ。正直言って面倒くさいんですよ」とつぶやいている。

 そもそも人が介在する業務では多かれ少なかれ、インシデントが発生する。ゼロにするのは不可能である。

 大切なのはインシデントをゼロにすることではない。問題が起きたら素早く上司に報告される体制や雰囲気を築くことだ。それなしには、再発防止策の打ちようがない。

 インシデント・ゼロは、様々な手を尽くした行動の結果にすぎない。スローガンや努力目標として掲げるのは結構だが、「ゼロ」という数字を必達目標にした途端に話がおかしくなる。

 インシデントが起きたら、すぐに報告してくれた担当者を褒めるくらいでちょうどよい。「インシデントを発見してくれて、ありがとう」の一言を、上司が部下に言えるかどうかで、現場の雰囲気や体質は全然違ってくる。それがインシデントやヒヤリハットを健全に見える化できる組織風土を醸成する。