ターゲットは中小企業。それはCCPに限ったことではない。黒字経営であれば、彼らの目には、とても魅力的に映る。そのなかでも、老舗企業に狙いを絞ってくるだろう。
創業100年を超える老舗企業は日本に約3万3000社もある。その半数は従業員10人未満の小さな会社だ。後継者のいない老舗企業も数多く、廃業は年間400件を超えている。昨年もっとも多かった廃業は、ホテル・旅館で18件(帝国データバンク調べ)だった。
老舗企業は、それだけでブランドという貴重な企業価値を持っている。製造業でいえば、類稀な技術と技能を持ちあわせている。非製造業でいえば、長年培われた技能や伝統が持ち味である。なにより、メイド・イン・ジャパンは、それだけで世界に通用する。そんな中小企業が、M&A市場に大量に売りに出てくるのだ。
たとえば、ホテルや観光サービス業では訪日外国人向けに特化する。製造業ではメイド・イン・ジャパンというブランドを売りにして、アジア向けの製品輸出を拡大するといった事業転換が考えられる。中国を中心とした外資系企業が、後継者不在の中小企業に対する有力な買い手となるのは間違いない。
冒頭で紹介したように、中国人富裕層は日本の中小企業の買収に興味を示している。中国北京市でIT企業を経営する40代の知人は、年収が日本円で1億円を超えている。彼が「日本企業を買いたい」というのには、これまで見てきたような事情があったのだ。
「親切、丁寧、そして伝統もある。医療面が充実しているのも素晴らしい。中国人の金持ちは、医療費を踏み倒すようなことはしない。自由診療でもまったくかまいません。将来、そんな日本と中国を行き来できたらと思っている富裕層は、私だけではありません。そのためなら、日本に投資をして、日本と中国に会社を持ちたい。日本に会社を設立するのもいいが、興味のある日本企業が売りに出たら買ってもいいと思っているのです」
そういって、彼は具体的な社名こそ出さなかったが、ヒントを与えてくれた。「インバウンドの中国人相手に、老舗ホテルや旅館、日本料理店、旅行代理店かな。IT関連や不動産業などもいいですね」
中小企業のM&Aの成約事例をみると、数100万円から数億円といった案件も多い。その価格なら、中国人富裕層のポケットマネーで十分すぎるほど対応できる。
中小企業のM&Aに外資系企業が入る余地はないとの意見もある。経営者に根強い抵抗感があるといわれているからだ。しかし、ここ数年の中国や台湾企業による大手家電メーカーや家電事業の買収などをいったい誰が予想していただろうか。中国企業のみならず、アジアの企業や中国人富裕層も食指を伸ばす。日本の中小企業が爆買いされる日はもう目の前だ。