サブスクリプション提供者を悩ます、パスワード「共有」問題

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サブスクリプションは、読者から安定した収益を引き出すのにうってつけの方法だ。ただ、ユーザーの知り合いたちに、ログイン情報を共有されるおそれがある。

パブリッシャーがサブスクリプションビジネスを成長させるつもりなら、Netflix(ネットフリックス)やSpotify(スポティファイ)といったサブスクリプションサービスが長年取り組んできたパスワード共有問題への対処法を見つけ出す必要がある。

サブスクリプション契約者は、パブリッシャーのオーディエンスのなかでいちばん熱心な層であることが多く、アクセスを制限すると彼らによるサービス伝道の妨げになる。しかし、あからさまなパスワード共有を可能にすれば、サブスクリプション契約しようという人の意欲を削ぐことになる。ユーザーをいら立たせることなく共有を制限するのは簡単ではない。

成人全体だと12%

パスワード共有は、デジタル動画をはじめとするコンテンツのサブスクリプションを提供している企業にはよく知られた問題だ。2017年夏に公開されたロイター(Reuters)とイプソス(Ipsos)の調査では、同一世帯ではない人のログイン情報を使ってコンテンツのストリーミングを利用したことがある人は、18~24歳だと5分の1以上で、成人全体だと12%だった。

一方で、NetflixやHBOのシニア幹部たちは一様にパスワード共有の影響を軽視している。NetflixのCFOのデビッド・ウェルズ氏は2016年、パスワード共有の取り締まりは必ずしもサブスクリプション契約者の増加にはつながらないと語った。

ニュースパブリッシャーのサブスクリプションのオーディエンスのあいだに、この行為がどれくらい広がっているのかは、はっきりしていない。この記事のために、ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)、ワシントン・ポスト(The Washington Post)、マクラッチー(McClatchy)、トロンク(Tronc)、フィナンシャル・タイムズ(Financial Times)、ガネット(Gannett)などのニュースパブリッシャーにパスワード共有についての見解を問い合わせたが、いずれも要求に応じず、幹部へのインタビューも許可されなかった。ペイウォールのサービスベンダーであるピアノ(Piano)で戦略担当のSVPを務めるマイケル・シルバーマン氏によると、時折、問題について聞くが、懸念が高まってはいないという。

カスタマーサービスが困る

パスワード共有の排除が難しいのは、使われるデバイスがたくさんあるからだ。

「アクセス制限に踏み出すと必ずカスタマーサービスが困ることになる」と語ったのは、WordPressのパブリッシャー向けにペイウォールなどの製品を開発するソフトウェア企業、ジーン101(Zeen101)の創業者のピーター・エリクソン氏だ。

また、正規のログインがどれなのかを判別するのも難しい。違う国のコンピューターからアカウントにログインしている人がいたとしても、契約者が旅行しているだけなのかもしれない。新しいブラウザから新たなログインがあったとしても、長年使ったChromeからFirefoxに乗り換えることにしただけなのかもしれない。

それに、制限を厳しくしすぎると、理不尽なパブリッシャーだと見られるおそれがある。「『サブスクリプション契約をしていて、妻と共有できないなんてことはないだろう?』という想像が(ほとんどの人に)ある」と、エリクソン氏は語った。

マーケティング的にも課題

パスワードを共有している人の識別が難しいことは、マーケティング上も重大だ。理屈のうえでは、友人や家族の会員資格を通じてサブスクリプションコンテンツにアクセスしている人は、マーケターの絶好のターゲットになるべき人だ。しかし、識別できなければターゲティングはできない。

多くのパブリッシャーは、サブスクリプションの方針に柔軟性を持たせている。ニューヨーク・タイムズは、サブスクリプション契約者のFAQで、デジタルサブスクリプション契約者はアカウントを「1人または2人」と共有できるとしている。ワシントン・ポストは、サブスクリプション契約者のパスワードを共有することは認めていないが、共有できるおまけのサブスクリプションをひとつ支給している。

「サブスクリプション契約者は我々のいちばんの『大使(アンバサダー)』だと考えている」と、ワシントン・ポストのマーケティング担当VP、ミキ・キング氏は文書で説明した。「そのため、我々は新しい読者がワシントン・ポストのコンテンツの幅広さと質の高いジャーナリズムを発見するのに役立つように、プレミアムサブスクリプション契約者がアクセスを共有するのを歓迎している」と、キング氏は語った。

デバイス数でアクセス制限

ユーザーのIPアドレスを見てもすべての共有がわかるわけではない。たとえば、大手企業は同じIPアドレスを使っているところが多く、ひとりのログイン情報でオフィス全体がサブスクリプションにアクセスしていても見分けがつかない。

そのため一部のパブリッシャーはデバイス数でアクセスを制限している。たとえば、ウォールストリート・ジャーナル(The Wall Street Journal)は、デジタルサブスクリプション契約者に、最大5台のデバイスからのアクセスを許可しており、どの5台なのかは変更できるようにしているという。

ほかに、新聞チェーンのマクラッチー(McClatchy)のように、個人のパスワード共有については、プライバシーの問題と見なして口出ししないというアプローチをとっているところもある。マクラッチーは現在、家族向けとオフィス向けのサブスクリプションプランを開発中だ。

まだ最優先課題ではない

ジーン101のエリクソン氏によると、パブリッシャーはニュースのパーソナライズを提供することで共有を間接的に減らすことができる。どのように読んでいるのかに基づいてサイトの体験がカスタマイズされると、契約者はほかの人にサブスクリプションを使わせて体験が濁るのを嫌がるようになるだろう。

結局のところ、成長重視という理由から、パスワードの共有がまだ最優先の問題にはなっていないパブリッシャーが多い。

「業界全体という点でも、もちろん新規参入者という点でも、成長の余地がまだ大きい」と、ピアノのシルバーマン氏は語る。「サブスクリプション数を増やしリテンションを向上させるためにパブリッシャーが使える戦術はいくらでもあるので、共有を制限する複雑な機能の構築を心配する必要はまだないのだ」。

Max Willens(原文 / 訳:ガリレオ)

 

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