この数週間、トルコの経済危機の可能性が取り沙汰されている。
日本の投資家(特に個人投資家)は、代表的な高金利通貨の1つであるトルコリラヘの投資を好んで行ってきた。トルコの場合、国債を含む債券の利回りの急騰、及び、株価の下落にも見舞われているため、トルコの金融資産への投資は大きな損失を被っているはずである。
現に、「この1か月間で、日本で運用されているトルコ関連の投資信託の損失額は数千億円に上るだろう」という報道もなされている。
日本人投資家によるトルコの金融資産への投資はかなりの人気だが、トルコ経済については意外と知られていない。
筆者の所属する会社では、トルコ関連の金融商品はリスクが高すぎるため扱ってないが、それでも毎月の会議でトルコ経済の情勢等を検討している。だが、様々な経済指標をみても、いまひとつピンとこないのが正直な実感である。
ここにきて、多くの調査機関らがトルコ経済についてのレポートを発表している。そのほとんどが、まるで「そもそもトルコの金融資産に投資するヤツが勉強不足だったのだ」と言わんばかりにトルコ経済自体のリスクを指摘する内容である。
代表的なものが、「トルコは経常収支と財政収支の双子の赤字を構造的に抱えている国でいつ経済危機に直面してもおかしくなかった」という指摘である。
OECDによれば、トルコは国際的な基準で財政関連の統計を公表していない点が問題であるとされており、例えば、OECDの経済予測(エコノミックアウトルック)の付表の財政関連指標にはトルコの数字は掲載されていない。
従って、公正な国際比較は難しいが、トルコ財務省の統計では、2017年の単年の財政赤字はGDP比で1.6%に過ぎない。
また、政府の総債務残高は2016年時点で、GDP比で30.3%である。ユーロ加盟の基準がGDP比で財政赤字が3%以下、政府の総債務残高が60%以下なので、トルコ政府発表の指標を信じるならば、トルコはいますぐユーロに加盟できる「健全財政」である。「財政破綻が間近か」という状況ではない。
また、2017年の実質GDP成長率は前年比で7.4%増と堅調である。家電等の耐久消費財消費への減税措置や金融機関融資に対する政府保証の拡大によって、個人消費や設備投資が堅調である。月次で発表される鉱工業生産指数や小売売上高もそれぞれ前年比で8%程度の伸び率を維持しており、景気が減速しているという感じではない。
財政的措置で経済が持ち上げられているという指摘があるが、前述のように、財政赤字の規模はそれほど大きくないので、財政支出が経済を牽引していたとしても何ら問題ではないはずだ。
一方、「双子の赤字」のうち、経常収支赤字(2017年はGDP比で5.6%の赤字)を問題視する向きもある。だが、経常収支赤字のほとんどは輸入の急増によるものである。輸入の急増は、前述の個人消費、設備投資といった内需拡大によるものである(典型的なI-Sバランス論)。好調な内需の裏返しである。
ところで、「強権的だ」と、なにかにつけ評判の悪いエルドアン政権だが、所得の再分配政策にも成功してきた。OECDの「エコノミックサーベイ」によれば、所得格差は縮小している。これに加え、エルドアン政権の最大の成功は「ゲジェコンドゥ」という都市のスラム問題を解決したことである。
エルドアン政権は、都市のスラムを強制的に取り壊し、そこに低所得者向けの高層住宅を建設し、低家賃で住まわせた。この政策を推し進めるために、公共投資を拡大させ、これが、トルコの都市圏の建設投資を活性化させ、経済成長率も上昇してきた。つまり、多くの先進国がなかなか実現できないでいる「リベラル」的な再分配政策にも、ある程度は成功している。
このように、トルコのマクロ経済状況をみていくと、危機に陥るような状況ではないと考えざるを得なくなる。