日本でも関心が高まるe-Sports
現在インドネシアで開催中の第18回アジア競技大会でe-Sportsがデモンストレーション競技として実施されます(メダル種目としての正式採用は2022年第19回中国・杭州大会を予定)。そのうち、ウイニングイレブンとハースストーンに日本選手が派遣されていますし、来年秋に茨城県で開催される第74回国民体育大会(いきいき茨城ゆめ国体)でやはりウイニングイレブンがe-Sports競技として導入されることになっているなど、日本でもe-Sportsへの関心が徐々に高まりつつあります。
さらに、世界的に有力なe-Sports選手の年収は1億円を超えるそうで、小学生の将来なりたい職業ランキングでYoutuberを抜く日も近いと断ぜざるを得ません。
もっとも、WHOにより最近ゲーム依存が障害(disorder)と区分されたのをはじめとして、「ゲーム脳」、「ゲームは引きこもりの元凶」等々、スポーツとして認知される以前に健全な娯楽としての認知も低いのが現実です。
e-Sportsの市場規模
e-Sportsについては、総務省による委託調査報告書「eスポーツ産業に関する調査研究報告書(平成30年3月)」は重要な資料です。
この資料では、e-Sportsの世界的な市場規模をNewzoo社の「Global 2018 Global Esports Market Report」を引用し2018年には969.4億円(906百万ドル)、2021年には1765.5億円(1650百万ドル)に達するとしていますが、日本市場は独自の試算により現状では5億円に満たないと見積もっています。
日本のe-Sportsの現状がお寒い状況であるほど、今後の伸び代に期待できるわけで、要は新産業としての魅力も大きいと言えるでしょう。
ポケモンの世界大会がいよいよ開幕!
本記事では、e-Sportsが競技としても産業としてもまだまだ発展途上の日本にあって、日本が生んだ世界的な大ヒットゲーム、ポケットモンスター、略してポケモンのe-Sportsとしての可能性について勝手に考えてみたいと思います。もちろん、一介のポケモントレーナーに過ぎませんので、見当はずれの点が多々あるかとは思いますがご容赦いただければ幸いです。
ポケモンをチョイスした理由は、ポケモンの世界大会Pokemon World Championships(eにはアクサンテギュ)(日本ではWCSと呼称されています)(※)が、アメリカ・テネシー州のナッシュビルで今週24日(金)から26日(日)(現地時間)まで開催されることにあります。ポケ勢の暑い夏到来!
※ポケモンの世界大会にはゲーム部門、カード部門、ポッ拳部門があり、年齢を基準にカテゴリー分けされています。本記事ではゲーム部門(のマスターカテゴリ)に絞っています。
世界大会自体はDay1、Day2、Day3の3日間にわたって行われ、Day1は一般予選、Day2は各国・地域の上位入賞者がDay1からの勝ち残り組に加わり、Day3に決勝戦が行われます。
WCSの歴史は2009年にはじまり、その年は日本選手が優勝・準優勝しましたが、WCS2010以降は海外のプレイヤーの活躍が目立ち始めました。特に、WCS2010からWCS2012まで前人未到の3連覇を果たしたアメリカのRay選手はレジェンドです。ちなみに、昨年のWCS2017の世界チャンピオンは日本のバルドル選手で、WCS2009草薙昨日選手、WCS2015ビエラ選手についで3人目の快挙でした。
e-Sportsのジャンル
e-Sportsのジャンルについて、先の総務省の報告書の11頁では、
・マルチプレイヤーオンラインバトルアリーナ(MOBA)
・ファーストパーソンシューティング(FPS)
・コレクタブルカードゲーム(CCG)
・格闘ゲーム
・その他スマートフォンゲーム
に区分していますが、ここでは、カテゴリー1:ゲームのルールを知らなくても楽しめる(ストリートファイターやウイニングイレブン等MOBA、FPS、格闘ゲーム)か、カテゴリー2:ゲームのルールを知らなければ楽しめない(ハースストーン等CCG)か、というアバウトな基準でe-Sportsを区分したいと思います。
カテゴリー1のゲームは、興行は大規模となる一方、カテゴリー2に属するゲームは、小規模となる傾向があります。
そういう意味では、ウイニングイレブンというサッカーゲームが国体の競技となり得たのは、一般の方は、ウイニングイレブンというゲームには不案内かもしれませんが、サッカーにはなじみがあるからでしょう。
ポケモンの持つ2面性
では、ポケモンとはどのようなゲームなのでしょうか。楽しみ方は当然人それぞれですが、基本はバトル&ゲットしつつシナリオをクリアすることにあります。ライト層はシナリオをクリアして終わりなのに対して、コア層は、シナリオクリア後、ポケモン図鑑を完成させたり、ポケモンを育成してネット対戦やオフ会での対戦を楽しんだりすることになります。
つまり、ポケモンは、ロールプレイングゲームとしての側面と対戦ゲームとしての側面の2面性があり、ライト層もコア層も取り込めているのです。
しかしながら、対戦ゲームとしてのポケモンを楽しむには、「ポケモン?知ってますよ!ピカチュウかわいいですよね」というしばしばガチ勢をイラつかせるライト層では敷居が高く、ポケモンというゲームやそのルールを知っていることが大前提となります。
例えば、ポケモンの対戦には運が大きく作用する(技が外れたり、あるいは当たったり、凍ったり麻痺したりで動けなかったり)こともあり、運勝ちはともかく、運負けすると(台パン必至はさておき)、選手にも観客にも試合後にもモヤモヤした、後味の悪さが残ることもあります。また、ポケモンのタイプ相性によっては技が全く効かなかったり、逆に技の効果が大きくなったりもします。
ポケモンは将棋に似ている
そういった意味では、ポケモンは将棋や囲碁、チェス、ポーカーに似ていて、e-Sportsではハースストーンと同じく、カテゴリー2に分類できます。将棋や囲碁を観戦される方は、ある程度ルールに詳しい方が多いですが、それでも試合にはプロによる解説がつきます。
つまり、ポケモンがe-Sportsを目指すとすれば、ある程度ポケモンのルールに詳しいコア層がメインの観客となることを想定したものとならざるをえません。
ただし、ポケモンには、1996年の発売開始から20年以上も続く歴史と、当時のメインターゲットであった小学生がすでに子供を持つ親の世代になり、2世代で楽しめる環境を持っているわけですが、こうした点は他のe-Sportsにはない大きな資産と言えます。
既にe-Sportsとして世界中のファンや番組視聴者を熱狂させている戦闘ゲームや格闘ゲームなどは、そのゲームを知らない方でも試合を純粋に楽しむことができます。こうしたゲームやそのルールあるいはキャラクターを知らない方でも試合を見ているだけで、わくわく、ハラハラ、ドキドキ、エキサイトできるからです。
確かにポケモンはルールを知っていた方がより堪能できますが、よく知った愛らしいキャラクターが激しいエフェクトを伴ったバトルを繰り広げますので、対戦に詳しい解説者による解説を付ければ、ルールを知らなくても、現場のわくわく、ハラハラ、ドキドキ、興奮、熱気を共有できるはずです。
結局、ポケモンの大会は、カテゴリー1のゲームほど大規模化はできないと思いますが、試合以外でもキャラクターショウやグッズ販売など親子で楽しめる工夫をすれば、コア層に加えてライト層を取り込む余地が十分出てきますので、観客の動員が見込めますし、そうなれば、ポケモンの知名度の高さから言っても様々なスポンサー企業の獲得も容易になるのではないでしょうか。
対戦ゲームとしては複雑すぎるポケモン
ただ、興行面で成功しそうだとしても、競技人口の裾野を広げないと発展は見込めません。
実は、ポケモンの対戦は非常に複雑です(格ゲーなど他のゲームが単純と言っているのではありません、念のため)。公式戦のバトルはダブルバトルなので、対戦に出せるポケモンは4体なのですが、パーティーは6体のポケモンにより編成されます。その6体のポケモンは800超のポケモンの中から自分の戦略やその時々の環境に基づいて選びだしてこなければならず、しかも、ポケモンごとに種族値、個体値、性格、使える技、タイプ、特性が決まっていて、同じポケモンでも個体値や性格、努力値の振り方などが違えば強さも、役割も違います。また道具を持たせるたり、積み技で種族値の壁を越え一発逆転も狙えるようになります。
さらに、ポケモンというゲームを対戦面で困難にしているのは、ポケモンはもれなくゲーム内で(野生だろうとタマゴからだろうと)ゲット、厳選しなければならず、ゲットの仕方によって同じポケモンでも覚えている技も異なる点です。
しかも、ポケモンソフトは通常2種類のバージョンが同時発売され、どちらか一方でしか入手できないポケモンが普通に存在しますし、各ソフトで一体しか入手できないのにタマゴも産まないポケモンもいます。つまり、想定し得る試合環境の変化に対応したければ、あるいは、仮想敵パーティーが異なる複数のパーティーを用意したければ、複数のソフトを所持したり、周回プレイを余儀なくされます。
要は、かつてよりは簡単になったもののそれでもなおポケモンは試合に至るまでの準備に非常に時間がかかってしまい、その結果、時間に余裕のある(?)大学生が公式非公式問わずポケモン対戦の主体になっているのが現状です。その大学生も卒業して社会人になればポケモンに費やせる時間が激減するので、多くは対戦から引退していきます。ソシャゲのように時間のない人はおカネで解決する道はありません。これでは競技人口が増えることも、裾野が広がることもないでしょう。つまり、日本の場合、少子化の進行に伴い、ポケモンの対戦人口はどんどん減少していくものと容易に推測されます。
勝手な提案(笑)
ポケモンの対戦ゲームとしての複雑さを取り除くには、ゲームから、シナリオと対戦を切り離し(シナリオ内のバトルは必要不可欠の要素ですから当然残します)、ポケモンの育成を容易にすることが必要です。
そうすれば、選手は、対戦に至るまでの準備時間を短縮でき、パーティーの編成、戦略、戦術に集中できるので、競技としての面白さも増すものと思われます。
結局、任天堂さんがかつての輝きを完全に取り戻せていないのは、別途ハードを用意する必要がないスマホゲーに食われているからで、日本の若者のお金離れが進行するなかでは、今後もこの傾向は不変でしょう。
つまり、若者のお金離れや少子化に流されて、このままじり貧になるよりは、思い切ってポケモンをe-Sports化して競技人口を増やし、対戦に特化したソフトやハードを出して売り上げ増を目指す方向性もあるのではないかと勝手に提案させていただきます(笑)。
まずはWCS2018世界大会を楽しもう!
まぁ、いろいろ申し上げてまいりましたが、ポケモンがe-Sportsになるとかならないとか、任天堂さんや株ポケさんが本気出すかどうか、そんなことはどうでもよく(いきなりの全否定!)、まずは(アメリカ現地時間)24日から開催されるWCS2018世界大会の中継で、対戦ゲームとしてのポケモンとはどういうものなかをその目でじっくりご覧いただきつつ、WCS2018世界大会での日本人選手の活躍を楽しむのはいかがでしょうか?
蛇足
日本でも対戦ゲームとしてのポケモン人気が盛り上がれば、WCS2013のカナダ・バンクーバー大会を除いてWCSの世界大会の会場はすべてアメリカであるところ、日本へのWCS20xxの誘致も可能となるかもしれません。そうなれば、世界各地から選手や身内が大挙して来日することになりますので、経済効果もそれなりに見込めるでしょうし、政府の掲げる訪日外国人旅行者数等の目標達成にも資することになるでしょう(強引)。
いずれにしても、e-Sports産業のさらなる発展を願ってやみません。
おまけ
最後に、私がWCSの歴史の中でも五本の指に入るのではないかと勝手に思っている名勝負をご覧ください。(注)Youtubeに飛びます 読み合いとポケモンの特性を活かした競技としてのポケモンの要素が詰まった対戦です。対戦ゲームとしてのポケモンになじみの薄い方にも面白さが伝わらればよいのですが...。
Pokemon WCS 2009 World Final (Sr.) 1/3
Pokemon WCS 2009 World Final (Sr.) 2/3
Pokemon WCS 2009 World Final (Sr.) 3/3