イノベーション
店舗はもう不要!? 自宅で試着し放題の新サービストレンド
- Aug 22, 2018
試着をし、気に入った商品のみを購入をする
普段衣料品を購入する際に当たり前に行う試着というプロセス。これこそが、衣料品のオンラインショッピングにおける一番の課題であった。
確かに、オンラインショッピングで、1つの商品のサイズや色を複数注文して、自宅で試着し、返品をするという方法も無くはない。しかし、この場合、カスタマーは試着するために、一旦全商品を購入しなければならない。後々返品すれば返金されるとしても、試着をするために商品を全て購入するというのは、現実的にはやや厳しい話である。
購入前に自宅で試着可能! Amazon Prime Wardrobeとは?
amazon.comより引用
そんなオンラインショッピングの試着問題を解決し、オンラインショッピングをオフラインのリアルなショッピング体験に限りなく近づけるためのサービスAmazon Prime Wardrobeが、 米Amazonより登場した。
同サービスは、Amazon Prime会員向けに提供されているサービスで、気になる商品を購入前に自宅で試着し、気に入った商品のみ購入することができるサービスだ。キャンペーンのタグラインとして、「Try Before You Buy」と表現されている。1回の注文で、最大8点まで1週間試すことができ、必要のないものは送料無料で返品をすることができる。そして、手元に残した商品のみ、代金が請求される仕組みになっている。
Prime Wardrobeを試してみた
米国のAmazonプライム会員数は、1億人を超え、50%の家庭がプライム会員と言われている。もちろん、筆者もプライム会員であり、生活や仕事で必要なものは大抵Amazon.comから購入している。Amazon Prime Wardrobeの使い方は、通常のamazon.comでのショッピングと変わりはなく、基本的には、欲しい商品をキーワードで検索することになる。
今回注文したのは、ヒールの高さが違う2足の黒のサンダルと、色違いのベージュのサンダル。もともと黒の2インチ(5cm)程度の低めのヒールサンダルを購入予定であったが、4インチ(10cm)ヒールのサンダルも目に留まり、オーダーすることにした。また、同じ型の商品でベージュもあることが分かり、色違いも試してみたくなった。また、買う予定は全くなかったが、以前から気になっていたバッグも、折角なので注文をすることにした。
試着はカスタマーをその気にさせる
実はこの記事を書いているのが丁度お試し期間の7日目なのだが、買うかどうかの判断をするのに、7日間は十分な期間であった。
商品到着後、数日に亘って何度か試着をするうちに商品を気に入ってしまい、お試し7日目現在で全て購入したい気持ちになってしまっている。普段は履かないが、たまたま目に留まった高めのヒールも、履いてみたら意外に良い感じであったし、前から気になっていたバッグはやっぱり素敵で、さらに欲しくなってしまった。
手持ちの服と実際にコーディネートができたり、家族や友人のフィードバックを得られることもメリットであるように感じた。
以前、筆者がアパレルの店舗で販売の仕事をしていた時、店長から「買う気がそれほど無い人にも、まずは試着をおすすめしなさい」と、口酸っぱく言われていた。なぜなら、試着をして案外似合うと、人は買いたくなってしまうからだ。商品を手に取って見るのと、着てみるのでは全然違う。それが、オンラインの画像であればなおさらである。画面の商品写真と実際に着用してみるのでは、天と地ほど違いがある。
まだまだある、Try Before You Buyサービス
切り口や方法は様々であるが、複数の商品を送り、自宅でじっくり試着してもらい、気に入った商品のみを購入してもらう、というショッピング体験が、Eコマースのトレンドとなりつつあるようだ。最近、アメリカで増えつつある、3つのTry Before You Buy型のサービスを紹介する。
スタイリストが選ぶ服を無料でお試し
サンフランシスコ発のスタートアップStitch Fixは、好みのフィットやスタイル、希望予算などに関する事前のアンケート結果をもとに、スタイリストがユーザーの希望に合った商品を厳選し、自宅まで届けてくれるサービスを提供している。
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特徴は、商品のセレクトにデータサイエンスの力を使っている点だ。サイズはもちろん、好みのフィット感、スタイルの情報をデータ化し、同じくデータ化された商品在庫と適任のスタイリストがマッチングされる。そして、生身のスタイリストが最終的な商品のセレクトやスタイリングのおすすめ(写真下)を行う仕組みになっている。
↑Stitchの箱に同封されていたスタイリングノート。今回筆者のためにセレクトされた商品を使った、おすすめのコーディネートが記載されている。
大手百貨店のNordstromも、Trunk Clubという同様のサービスを提供している。Stich Fixと同様、好みのフィットやスタイル、希望の予算などに関する事前の調査に基づき、スタイリストがユーザーの希望にあった商品を選んでくれるのだが、加えて、電話もしくはテキストメッセージでさらに詳しい希望をスタイリストに直接相談することができるのが特徴だ。カスタマーサービスを重視するNordstromらしく、よりパーソナルなスタイリングサービスを提供している。
どちらのサービスも登録の際にスタイリング費が必要だが、それ以外には費用は一切掛からず、手元に残した気に入った商品代金のみを支払いをするだけ。なお、スタイリング費は、商品購入の際のクレジットして使用することができるようになっているので、購入さえすれば実質無料でサービスを受けることができる。
プロのスタイリングアドバイスは欲しいが、「接客をされるのは嫌だ!」「自分のペースで試着をしたい」という人にはぴったりのサービスだ。
高額商品もサンプル貸し出しでお試し可能に
ファインジュエリー、特に婚約指輪と結婚指輪の無料トライアルサービスも増えている。サステイナブルなダイヤモンドのリングを販売するMia Donnaは、3種類のリングを5日間無料※で自宅で試すことができるHome Try-Onサービスを提供している。
Mia Donnaのウェブサイトより引用
ウェブサイト上で、気に入ったデザインのリングを選ぶと、サンプルリングが送られる。このサンプルリングは、本物のダイヤモンドやゴールドではなく、合金とキュービックジルコニアが使用されている。クオリティーではなく、あくまでデザインを確認することが目的だ。
サンプルのリングを参考に、ダイヤモンドの大きさや、カット、クラリティー、またリングのサイズ、素材などをカスタマイズし、最終的に好みのリングをオーダーすることができるという仕組みとなっている。
※注文の際には、返品後に返金される$75のセキュリティーデポジットが必要
リスクフリーで後払いサービスを提供:Klarna
自社でTry Before You Buyサービスの提供が難しい場合は、後払いサービスを提供する他の企業とコラボレーションをする、という手もある。
Klarnaのウェブサイトより引用
Eコマース決済のソリューションを提供するKlarnaの提携企業のオンラインストアでは、カスタマーは購入から最大30日後まで、利息無しに商品の支払いを先延ばしすることができる。この期間にカスタマーは、商品を試着し、気に入った商品代金のみ支払うことができるようになっている。
一方で、提携企業には、商品が注文された時点で商品代金がKlarnaから全額支払われる。仮に、カスタマーが商品代金を踏み倒した場合も、Klarnaが債務不履行のリスクを負ってくれる仕組みになっている。
顧客満足度だけじゃない!購入前試着サービスのメリット
企業がTry Before You Buyサービスを提供するメリットは、カスタマーが金銭的負担なく自分のペースで複数のサイズや色を試してから購入できるという顧客満足度の向上のみに留まらない。
カスタマーインサイトの取得:
Stitch FixやTrunk Clubなど、カスタマーの好みにあった商品をキュレートしてお届けるするタイプのサービスが実施する事前アンケートに対する回答には、今後の商品開発やプロモーションに生かすことができるカスタマーインサイトが溢れている。返品された商品からも、ユーザーのインサイトを分析することが可能だ。
好きなブランドや、商品が気に入らなかった理由、どんな時に着る服を探しているのか、などの情報は、企業にとっては喉から手が出るほど欲しい情報ではないだろうか。
コンバージョン率の向上
前半のAmazon Prime Wardrobeを使った感想の中でも述べた通り、試着は購入意欲を促進する。カスタマーは、買うつもりが無くても、意外にも似合うと買いたくなってしまうのだ。
また、支払い期間に猶予があることで、「今は買えないけど、来週なら買える」というようなカスタマーの購入を後押しすることができる。実際に、Klarnaの発表によると、同社の後払いサービスを提供する企業は、通常のクレジットカード決済の時よりも、平均して15%も売り上を上げることに成功したという。
まとめ
カスタマーは、オンラインストアでの買い物においても、実店舗と同じショッピング体験を期待している。
Try Before You Buy、すなわち購入前の試着サービスはその期待に応えるための解決策として生まれ、EC先進企業を中心に広まりつつある。オンラインショッピングの体験は、ますますリアル店舗における体験に近いもの、もしくはそれ以上の価値を提供できるものになってきている。
日本では、送料を往復どちらも負担する企業すら少ない印象を受けるが、もしグローバルで勝負をするなら、そのスタンスは変える必要がある。もし、他の企業に一層差をつけるのであれば、このTry Before You buyサービスの波にのるべきである。
btraxでは、ユーザーのインサイトに基づいたD2Cサイトの構築から、ブランド認知拡大のためのマーケティング戦略立案まで、グローバルで戦う日本企業のサポートを行っている。ご興味のある方は、ぜひお気軽にお問い合わせを。
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