オーバーロード シャルティアになったモモティア様建国記   作:ヒロ・ヤマノ
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入院してました、更新できずごめんなさい。


『山に棲むモノ達』

 

「ヘジンマール何かわかったかしら?」

「母上ですか?い~え、全くです」

「そう。まぁあれだけの情報じゃあね」

 

 元ドワーフの王城に巨体のドラゴン特有の野太い声が響く。王城の外周に位置する部屋で

自らの巨体と天秤で相対できるほどの大量の本を相手に、自らの母たるキーリストランから頼まれた調べものを続ける。

だが提供された手掛かり自体が断片的すぎてハッキリとした現象や人物をドワーフが古くから蓄えた書物から発見できずにいた。

 

――羽の生えた黒い人型

――そして、山をも吹き飛ばす空からの炎の魔法

 

「無難に考えれば吸血鬼かそれに類する種族が恐ろしい魔法を使ったとなりますが」

「そうね、問題はそんな魔法が本当に存在するのかね」

「それこそ神話の話になってしまいますよ」

 

 そういった物語の中に該当する話は存在する、だがお父上たる霜の竜の王が求める話はそういった話ではなく明確な対策を含んだ結果を知らせなければならない。

正直もう自分がデタラメな本を書いて持っていけば早いかもしれないが、今回はアゼルリシア山脈全体のパワーバランスに関わる。そこには末端とは言えヘジンマールの命も関わっている。あまり自信はなかったが自らの知識が役に立つかもしれず、ヘジンマールはひそかに張り切っていたが――。

 

「兄上達は戻りましたか?」

「えぇ日の沈む方角の一番高い山、あなたは知らないでしょうけど巨人の住処の一つが消えていたそうよ」

「では本当に山の中に住んでいた霧の巨人は全て?」

「山脈の一部が削り取られていたのよ、それに比べれば小さい巨人なんてね」

「……」

「オラサーダルクもあの調子だし、もう逃げようかしら」

 

 同意だった。あの地響きがあった明け方に帰ってきたオラサーダルク=ヘイリリアル(霜の竜の王)は自身の玉座の間を離れ、自身の宝をかき集め部屋に引き籠っていた。扉の前では震えていると思われる振動が響いてくるらしい。その話を母から聞いた時、ヘジンマールは何とも言えない気持ちになった。

 

「では急いだほうがいいのでは?ここも安全ではないかもしれませんし」

「そうだけどね、逃げた先が安全かもわからないし。

 子供にはわからないでしょうけど新しく住処を探すのも大変なのよ」

「確かにそうですけど…」

「それに私たちドラゴンが相手にならないくらい恐ろしい怪物でもやりようはあるのよ」

「え?」

「一つだけ条件が整えばね、その時は中身が詰まったあなたが一番役に立つかもしれないわね」

「えぇ!?」

 

 自分が?とヘジンマールは思わず自らの出っ張った腹を見下ろす。

(ま、まさか生贄なんじゃ…)相手のご機嫌伺いに子供を差し出す。相手がドラゴンを食べる場合なら万々歳、そうでなくてもドラゴンの素材は貴重であり、その価値がわかるものであれば死体一つでも喜ばれるかもしれない。

 

「ヘジンマール?なにか勘違いしてない?」

「は?い、生贄ではないのですか?」

「…なるほど、それもあったわね」

「……」

 

 安堵を求めた自らの口の軽さには大いに反省を諭すべきだが、生贄路線を回避するためにも確認しなければならないことがある。見上げる位置にいるであろう母親には誰も犠牲にならずに済む妙案があるらしい。百年以上生きてきて今更母親に甘えるわけではないが、命に比べれば些細なプライドなど気にせず素直に尋ねることにする。

 

「あ~、それで母上の一つ条件が整えば生き残れる手段というのは?」

「ムンウィニアと私たちが敵だったのはあなたもおぼえているでしょう?」

「はい、よく覚えています」

「でしょうね。最初は周りに噛みついてばかりだったし」

 

 ムンウィニアは敗北して半ば無理矢理妃とされたのだ。

今ではほぼ角は取れたが最初の頃は特に母親間の関係は最悪と言っていいものだった。

ヘジンマールも実害こそなかったが目線が合うたび冷気のブレスもかくやという悪寒が走る視線を頂くのは心労の溜まる日々だった。

 

「話が通じれば、配下にして貰うと。そういうことですか」

「そうねムンウィニアと違うのは、無理矢理じゃなくて進んでなることくらいね」

「話が通じない場合、確認できた瞬間山ごと殺されるかもしれませんよ」

「そうね、だからその確認は私がするわ。あなたはいつでも逃げれる準備をしていなさい」

「え?……母上?」

 

 会話をしながらも本に走らせていた目を止めてしばし動きを止める。今自分は母親に何を言われたのか?理解できなかった。血が繋がった母親であるせいかヘジンマールが身内から浴びていた嘲笑の視線とは違う態度でいてくれた母。

だがそれは本の物語にあるような暖かな優しい母親というものではなく、悪く言えば無関心、よく言えば放任主義に類するものだった。

 

 ヘジンマールが知識にのめり込むようになればその関係も顕著になり、こうして部屋を訪ねて来る日も徐々に少なくなっていった。

たまに部屋に来た日はアゼルリシア山脈にいる魔物の確認や鉱石など知識が目的でヘジンマール自身に用件があったことは一度もなかった。それはそれで知識の価値が確認できてヘジンマールは満足だったが。

 

 突然の事で鈍くなった思考が動き出し本から視線を移せば、既に母親の姿は扉の向こうだった。

 

「母上!」

「あなたは一応兄なんだから、せめて弟達に安全に逃げる方法や方角を教えておきなさい」

「わ、わかりました」

「上手くすれば強大な力の庇護下に入れるかもしれないのだから、悪い賭けじゃないはずよ」

「……」

 

 扉のさらに先へ消える母親の気配を見送りつつヘジンマールはドワーフの本に書かれていたある一節を思い出していた。――曰く。

 

 

『父はいつか超えるべき匠の壁である。だが母は一生敵わない人生の師である』

 

「ドワーフだけかと思っていたけど、ドラゴンにも当てはまるか…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぜぇ…はぁ…くっ…っそ!」

 

 全力で地上への上り坂を駆ける。地上の光が僅かにだが届き始めている。そのため必要のなくなった松明は既に手放しており、全力で両腕を振ることにより前方へと進む力に変えている。だが悲しい事にドワーフの種族ゆえの身体的特徴のため追っ手を振り切ることができなかった。

既に後方の甲高い金属を打ち合うような音は消え、薄暗い地底には自らの息遣いと駆ける足音、後方から迫る二体とおぼしきクアゴアの足音の気配しか感じられなかった。

 

「くっそ…マント、さえ、あれば!」

 

 運悪く交換条件付きではあったが調査団に組み込まれたことも、その調査団が地上を目指してる途中で突然クアゴアの一団に出くわしたことも、さらにはその際不可視化のマントを落としてしまった事が一番の痛恨だった。

 

(だが、もう少しじゃ!)

 

 奇襲だったことに加え、敵の数が多すぎた。そのため自分も含めた味方は地下洞窟という空間の許す限り四方へ分散して逃げ出した。同胞の中でも戦う力量のない自分は最初から最後まで一切の憂いもなく逃げの一手だった。そのためここまでなんとか走ってこれたのだ。

途中でマントがない事には焦ったが、奴らクアゴアは地上に出れば盲目となりろくな追跡など出来ないだろう。地上まで行けば助かる。父のルーン技術を残すまで自分は死ねない――。

 

「はぁ…はぁ、っは!?」

 

 だが突然体が前に進まなくなった、それどころか左肩に痛みを感じたと思った途端に後方へ吹き飛ばされる。凄まじい速度だった。

 

自分が走ってきていた地下洞窟の天井と後方、床の順番で視界の映像がゆっくりと流れ

最後に肩をつかんで自分を投げ飛ばしたと思われる青色のクアゴアが見えた。

 ―――自分は飛んでいるのか。

 

「っぐぁ!っつ!!」

 

 認識できた途端に背中をしたたかに打ち付ける、同時に体全身の空気が口から出そうになるのをなんとか耐える。前方は塞がれた、ならば走ってきた後ろに転げ落ちるように逃げればいい。考えてる暇はなかった。

 

「ふう、ったく!ノロマなドワーフごときが手間かけさせやがって!」

「があっ!」

 

 起き上がろうとした途端に激痛が走り、叫び声を上げてしまう。視界の隅には自分の体へ足を乗せているクアゴアが映った。どうやら痛みの原因は腹を踏まれたことらしい。

 

(くそっ!もう駄目か!?)

 

 既に気力だけで走っていた状態で足を止められてしまい、さらには動きも止められた。後ろを振り返らず必死に走っていたためまさか青の上位種が追ってきていると思わなかった。心が折れかけたところに極度の疲労と与えられた痛みが残った意識を削り取る。

目の前の認識できた材料にいいものがなにもなかった。クアゴアの二匹はゴンドを奴隷にして連れていく手筈を確認していた、殺されはしないだろうがクアゴアの奴隷になった同族が逃げられた話は聞いたこともなかった。

自分の人生はここまでかと薄れる意識とともに諦めかけていた時――。

 

 

「あの~、こんにちは」

 

聞きなれない女の声で、挨拶が聞こえた。

 

 




前話を目撃していた父親が引き籠りになるという悲劇






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