今年発売から90周年を迎えたキリンレモンが、再び大ヒットを記録している。
ここ数年の売れ行きはピーク時の夏場でも月に30万ケースほどだったのが、リニューアル発売された4月10日以降突如として売れまくり、4月は95万ケース超えを記録。その後も通常の2~3倍の60万ケース超のペースで売れ続け、リニューアル後の3ヵ月(4月~6月)は対前年比266%の売り上げをたたき出している。
再ヒットの理由には、クラフト感を意識した新パッケージ、瀬戸内レモンピールエキスを使用した新たな味わいなどがあげられるが、なによりこれまでの常識では考えられないような広告戦略が成功したのが大きい。それもテレビなどの従来型のマス広告というよりも、ツイッターやユーチューブを駆使したSNS戦略が見事にハマったといえる。
実際、筆者もリニューアルしたキリンレモンのCMを見てみたが、これがなかなか憎い造りなのである。
「キリンレモン、キリンレモン♪」
「透明だった、世界も、わたしも。澄みきっていた、どこまでもまっすぐに♪」
ユーチューブでキリンレモンのメインムービーを見ると、まずこんな歌詞が流れてくる。誰もが一度は聞いたことのあるあのソングが、今風にアレンジされている。
聞き入っていると、いつか飲んだキリンレモンの味と、〝あのころ″の思い出が交差して、どこか切ない気持ちにさせられてくる。筆者のような人生の澱をため込んだ中年のおじさんにエモーショナルな感覚を呼び覚まさせるとは……、なかなか中毒性のあるムービーなのである。
このCM動画に登場するのは女性タレントの佐久間由衣。NHK連続テレビ小説『ひよっこ』にも出演しており、知名度も高い実力派だ。かたやあの「キリンレモン、キリンレモン♪」を歌っているのは『BiSH』というブレイク前夜の女性アイドルグループ。筆者には初耳のアーティストだ。
この知名度に差のある両者の組み合わせにこそ、キリンレモン再ヒットの裏に隠されたマーケティング戦略の妙味があるのだが、まずはキリンレモンのリニューアルの経緯から紹介していこう。